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柚木春臣の推理 瞑る花嫁 [読書・ミステリ]

柚木春臣の推理 瞑る花嫁 (双葉文庫)

柚木春臣の推理 瞑る花嫁 (双葉文庫)

  • 作者: 五代 ゆう
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/06/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

作者の名前、どこかで聞いたなあと思ったら、
ハヤカワ文庫で出てた
「クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー」(全5巻)
の人だったんだね。
これは近年珍しくスケールの大きな、しかも面白いSFだった。
ライトノベルかゲーム原作が主戦場の人かと思ってたんだけど
こんなにしっかりとしたミステリが書けるとは知りませんでした。


ユキこと柚木春臣は、コンサートやスタジオ収録の時に
足りない楽器を演奏して稼ぐ "音楽屋"。
ユキと相棒のタカシ、そして高校生の徹くんの3人は、
アルバイトとして引き受けた仕事で山梨の旧家を訪れた。
当主の河原崎憲明が亡くなり、遺品の楽器類が処分される。
それを査定し、引き取るためだ。

しかし河原崎家で彼らが出くわしたのは
死んだ当主が、莫大な財産に物を言わせて
蒐集した品々を展示した<驚異の部屋>、
そしてそこの "王と女王" たる男女一対の白骨体だった。

故人の意向で、1年間遺言状の開封が禁止され、
当主の長男・利憲の処遇も明らかではない。
利憲の本妻の子二人と愛人の子二人も
遺産をめぐって諍いをはじめる。

そんな中にユキたちが到着し、その夜、
<驚異の部屋>の地下で新たな死体が発見される・・・


舞台は2015年の夏に設定されているのだが
途中に2つの過去のエピソードが挿入される。

一つは2003年。
ユキとタカシが通う高校で起こった援助交際がらみの殺人事件。

そしてもう一つは1998年。
まだ幼さの残る少年時代のユキが登場する。
作中で描かれる楽器演奏を通しての対決シーンは迫力充分。
そして、とても印象的なエンディングになってる。

この2つの挿話は、単に探偵役のユキとタカシの
キャラの掘り下げだけでなく、
実は二つとも河原崎家と関わっている。
利憲の愛人の子供らや当主・憲明が登場し、
彼らの人となりの紹介にもなっているのだ。
もちろん事件の伏線もしっかりと。

そして、いちばん未来に属するはずの2015年の事件が、
いちばんレトロな雰囲気のミステリになっているのが面白い。

莫大な財産を持つ地方の旧家で当主が亡くなり、
遺族が遺産をめぐって争い、そして殺人が起こる。
横溝正史ばりにクラシックかつオーソドックス。

型どおりではあるのだけど、型にはまった感じを受けないのは
端役に至るまで、キャラクターそれぞれが自分のドラマを持ち、
生き生きと描かれているからだろう。

ミステリなのであまり詳しく書けないのが残念だが
本書を読み終わって感じたのは、犯人への "同情" だった。
これも、殺人に至るまでの犯人の心情が、
しっかり描かれていたからだろう。

トリックやロジックが軽んじられているわけではないが
より "物語重視" のミステリ、だとは思う。

探偵役のユキが、時として非人間的な冷酷さを見せるのも面白い。
そんな "暴走" を、タカシが "軌道修正" するという役回り。
彼らは二人で一組の探偵なんだね。
ワトソン役は、2015年のパートで語り手を務めていることもあって
徹くんに割り振られている。

徹くんが二人と知り合ったのは、
本書以前に起こった事件の時らしいのだが、それは
『「Aの旋律」というタイトルで2013年秋には文庫で刊行予定』
って解説にあるんだけど、2015年1月現在、未刊のようだ。

うーん、「グイン・サーガ」続編プロジェクトで忙しいからかな?