蒼穹騎士 -ボーダー・フリークス- [読書・SF]
評価:★★★
『昇化』。
音速を超えたジェット機が、パイロットと共に "竜" と化す現象。
空を飛ぶ機械の塊が、人間を取り込み、一体の異形の生物となる。
(作中での描写が、もうホントに美しくてファンタスティック!)
この現象が "確認" されて数十年。
発生した竜は、旅客機を襲い、町を襲い、人を襲うようになった。
空は人間のものではなくなり、
人間は竜と戦わなければ生きていけなくなった。
そんな時代に生まれたのが、
亜音速の戦闘機を駆って竜を倒す「蒼穹騎士」である。
主人公のダインは蒼穹騎士の一人。
3年前、目の前で親友の "昇化" を止められなかった彼は、
竜となったその親友を倒すことを誓って、今日も空を駆ける。
ある日、ダインの前にメリルという若い女性が現れる。
彼女は竜の研究者で、その生態を調べるために
ダインの戦闘機への同乗を申し出てきたのだ。
メリルもまた、肉親を竜によって失っていたが
彼女は竜に対して憎しみではなく、意外な感情を抱いていた・・・
竜に対して、ある種の倒錯した思いを抱く一組の男女が
音速ギリギリの世界で竜と戦う。
音速を超えると、自らも "昇化" してしまうことを知りつつも
そこにあるのは恐怖ではなく、ある種の "陶酔" 。
心の底には、"竜になる" ことに憧れる気持ちも潜んでいるのだ。
人間の側に踏みとどまるか、竜になるか。
その狭間に揺れながら二人は亜音速の世界を駆け抜ける。
だから、「ボーダー・フリークス」というサブタイトルなんだね。
ストイックで感情を表さないダインに
一風変わった性的嗜好をもつメリル。
(変態というほどではないけどね。でもいくら非常時だからって、
嫁入り前の娘が殿方の前であんなことを口走ってはいけないよなぁ、
ってオジサンは思うのであった。)
"昇化" というファンタジックな設定を舞台に、
二人の物語が綴られるんだが、
それをラブ・ストーリーと言っていいのかはチョイと悩むところ。
なにしろ二人はほぼ全編を通じて、
お互いを見ずに竜ばかり見ているので
普通のラブコメを期待すると当てが外れるだろう。
"昇化" についてのSF的解釈はほとんど示されない。
(巻末の付録でちょっと仮説らしきものが提示されてるが)
ただ、"昇化" を防ぐ方法を見いださない限り、
音速の壁を超えることはできず、したがって人類は
地球から外へ出ることができない、という設定は重い。
だからこそ「 "昇化" は人類の進化だ」と見なす考え方も
出てきたりとか、この設定、まだまだ広げる余地がありそうだ。
ダインの "目的" にはひとまずの決着がつくが
二人の仲はまだ端緒に就いたばかり。
上に書いたように、テーマ的にも物語的にも
まだ未完のようにも思えるんだが、はたして?