怪盗ニック全仕事1 [読書・ミステリ]
評価:★★★
ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。
彼が盗むのは貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。
短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。
そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
その第1弾が本書で、1966~71年にかけて発表された15編を収録。
フォーマットはほぼ決まっている。
まず依頼人がニックに接触し、盗むものを示す。
当然、価値のないものがターゲットになるのだが、
依頼人がそれを盗んで欲しい理由を語ることはまずない。
ニックは報酬2万ドルで引き受ける。
(危険なものなどの場合は割り増しをするが)
盗むものの下調べに出向き、盗難計画を練る。
そのとき、新たな関係者が登場する。
(たいていは若くて美しい女性だが)
その後、ニックが盗みを実行するのだが、
ほとんどの場合、実行後に何らかのトラブルが生じ、
そして推理と機転で窮地を脱する・・・
こう書いてくると、なんだかワンパターンなような印象を
持つかも知れないが、依頼される盗みの対象は
"プールの水" とか "おもちゃのネズミ" とか
"使い古しのカレンダー" とか "博物館の恐竜の尻尾の骨" とか・・・
中には "野球チーム" とか "湖の怪獣" みたいな奇想天外なものまで
まさに、「何でも盗んでみせるぜ!」って感じ。
もちろんこれらを盗む手口もよく考えられていて
"プールの水" を盗む方法なんて、よく考えたなあって思う。
そして、"価値のないもの" を盗むことにこだわる、
依頼人の "意外な目的" も。
フォーマットは決まっていても内容はバラエティに富んでいて
読んでいて飽きさせない。
しかも、それを文庫で30~40ページほどに収めているんだから
まさに "短編の名手" といって間違いはないだろう。
同じ作者の「サム・ホーソーン」シリーズは不可能犯罪ものだったが、
「怪盗ニック」シリーズもそれに劣らず面白いシリーズだ。
あと5巻、これからしばらく楽しみが続きそうである。