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晩夏 [読書・ミステリ]

晩夏 (創元推理文庫)

晩夏 (創元推理文庫)

  • 作者: 図子 慧
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/10/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

四国で造り酒屋を営む今泉家。
先代当主に男子がなく、長女・蓉子が婿養子・耕一郎を迎え、
現在は中堅どころの日本酒メーカーとして発展しつつある。

蓉子と折り合いの悪かった次女・律子は東京の大学を卒業後、
そのまま東京で中学校の教師となって結婚し、生まれた娘が
本書のヒロイン、想子(そうこ)である。

想子は毎年、夏休みは四国の母の実家で過ごすことにしており、
蓉子と耕一郎の間の一人息子である瑞生(みずお)とは
幼い頃から兄妹のように育ってきた(とは言っても同い年なんだが)。

本書はタイトル通り、想子が大学1年生となった19歳の夏の物語だ。

瑞生は心臓に持病があり、体調を崩しがちで床につくことが多く、
伯母夫妻は、将来は瑞生と想子を結婚させ、
造り酒屋を継がせることを考えていた。

もともと会社のために結婚した伯母夫妻の間に愛情は乏しく、
それぞれが愛人をつくり、形式的な夫婦となっていた。
奔放な性格で、愛人に会うために頻繁に外出する蓉子であったが、
瑞生のこともあって、無断での外泊は一切しなかった。
しかし、その夜に限って彼女は帰宅しなかった。

行方を捜す社員たちが近くの河原で見つけたのは、
変わり果てた蓉子の姿だった・・・


ミステリとしての出来は水準以上のものがあると思う。

読んでいくうちに、事件の背景の80%くらいは
なんとなく見当がついたような気になる。
実際、読者の予想のかなりの部分は当たるだろう。
でも、残り20%の部分が問題。
ここが明らかになった時、「やられたぁ」と思うだろう。

さながら、大リーグボール2号の正体を見抜いた(と思った)
花形満の心境である。(←たとえが古くて申し訳ない。)


以下の文章はネタバレではないけれど、
物語の結末を予想させる部分があるので、
これから読もうという方は目を通さないことを推奨する。


本書を読んでいて一番気になったのは
ミステリ的興味よりも、ヒロイン想子の未来だった。

病弱な従兄弟への気遣いも細やかだし、
時と場合によっては男子顔負けな度胸も見せる。
明るく元気で頭の回転もよく、聡明と言っていい。
おまけに(周囲の人の評価によると)美人の部類に入るらしいし、
充分に魅力的なキャラクターになっている。

伯母夫妻が想子を瑞生の嫁に迎えたいのも理解できる。

通っている大学は、作中に「学芸大」って台詞が出てくるので
おそらく東京学芸大なのだろう。才媛じゃないか。
将来は母親のように教職に就くことも考えているのかも知れない。

ほぼ全編にわたって想子の視点で物語が進行することもあって、
読者はいやがおうにも彼女に感情移入するだろうし、
だからこそ彼女の将来が気にかかる。

想子自身は、瑞生に対してある種複雑な感情を抱いていて、
(それは瑞生が想子に向ける感情にも言えることだが)
彼に対する愛情は持っているものの、
結婚という段階に踏み入ることにためらいを感じてもいる。

伯母夫妻の思惑も充分に分かっているので、
近い将来に意思表示しなければならないことも自覚してる。
でも、19歳の女の子としてはモラトリアム期間がほしいだろう。

しかし、物語の最後で想子は選択を迫られる。
彼女の前に二つの道が示されて、どちらを選ぶのも自由だ。
そして彼女はそのうちの一方を選ぶ。
モラトリアムが終わり、自らの人生を選択するときが来たわけで、
だからこその「晩夏」というタイトルなんだろうけど・・・

 うーん、オジサンだったら、もう一つの方を勧めるなぁ。
 でも、「どちらも選ばず、第三の道を行く」って選択が
 あってもよかったんじゃないか、なんて思ってる。

ミステリの紹介なのに、ヒロインの将来を延々と語ってしまった。
それだけ魅力的だったんだね、想子さんは。


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