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機龍警察 自爆条項 [読書・SF]

機龍警察 自爆条項〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/08/07
  • メディア: 文庫




機龍警察 自爆条項〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/08/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

このブログの過去記事を調べたら、
第1作「機龍警察」を読んだのは4年くらい前だった。
なんと★3つしかつけてない。
第1作はあんまり好きじゃなかったのかな? 私。
感想でも「戦闘シーンが少なくて残念」なんてことを書いてた。
でも今から思えば前作は "序章" に過ぎなかったんだね。

本書はそれに続く第2作。時系列的にも第1作のすぐ後の話だが、
上の★の数でわかるように、本書は傑作である。

「機龍警察」は、本作から怒濤の快進撃を始める。
第3作「機龍警察 暗黒市場」、第4作「機龍警察 未亡旅団」と
新作を発表するごとに評価が上がっているようだ。

ストーリー的には独立しているので、前作を読んでいなくても
楽しむことはできるけれども、前作の流れや一部の伏線を
引き継いでいる部分もあるので、
できたら第1作を読んでからの方が、より楽しめるだろう。


まずは物語世界の背景から。

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
人型近接戦闘兵器・機甲兵装が市街地戦闘の主流となっている。

 機甲兵装とは、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』におけるATみたいな、
 簡単に言えば "ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。

警視庁特捜部も、テロリスト対策のために機甲兵装「龍機兵」を
3機導入し、その搭乗要員(パイロット)として3人の傭兵と契約した。

日本国籍を持つ姿俊之、
アイルランド人で元テロリストのライザ、
元ロシア警察のユーリ・オズノフ。
この3人は "警部待遇" で捜査にも加わることになる。

英語名は Special Investigation Police Dragoon。
犯罪者たちは彼らを「機龍警察」と呼ぶ。


なぜ警視庁生え抜きの警官を抜擢せず、わざわざ傭兵を使うのか。
その理由も本作の中で明かされるのだけど、
閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は
"異物" であり、特捜部自体も他の部署との軋轢は避けられない。
しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。

「機龍警察」は、テロリストという外敵はもちろん、
"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。
そういう宿命を背負った部署なのである。


さて、第2作である本書の内容へ入ろう。

機甲兵装が大量に日本国内へ密輸された事件が発覚するが、
時を同じくして北アイルランドのテロ組織・IRFのメンバーが
大挙して入国したことも判明する。
その中には、最高幹部の一人である<詩人>、
3人の凄腕テロリストである、
<猟師>・<墓守>・<踊子>も含まれていた。

彼らの目的は2つ。

一つは、近く来日するイギリス政府高官サザートンの暗殺。
しかし、なぜか特捜部には日本政府上層部から
捜査を中止するよう不可解な命令が下される。

そしてもう一つは、「龍騎兵」の搭乗者・ライザの処刑。
彼女はかつてIRFに所属し、"ある事情" から組織を抜けていた。
IRFは彼女を "裏切者" として追っていたのだ。

しかし、IRFの潜伏先は容易につかめず、
サザートンの来日は目前に迫ってくる。
そんなとき、日本国内に巣くう中国黒社会のメンバー・馮(フォン)が
特捜部に接触してくる・・・


本作では、ライザが実質的な主人公をつとめる。
物語は、IRFの足取りを追う特捜部と、
ライザの過去が交互に描かれていく。

彼女の半生がなかなか壮絶だ。
テロの嵐が吹き荒れる北アイルランドに育ち、
父親の死をきっかけとしてIRFへ加入し、
過酷な訓練を経て "殺人機械" へと成長していく。
そして自ら手を下したテロによって、ある "報い" を受け、
組織からの脱走を決意する。

このあたりはけっこうな書き込みで、
最初は「ちょっと長いんじゃないか」って思ったんだが
この描写があることによって、ライザへの感情移入がより高まり
ラストでのIRFとの決戦が、もっといえば
ライザと<詩人>との対決が、
いやが上にも盛り上がるようにできているのだ。


「龍騎兵」搭乗員の他の二人、姿とユーリをはじめ
登場人物がみな個性的で、キャラ立ちもバッチリなのだけど
特筆すべきは特捜部長の沖津だ。

沈着冷静にして頭脳明晰、つまはじきと圧力の総攻撃にさらされる
特捜部において、根回し・腹芸・駆け引きと、あらゆる手を用いて
外部や上層部と渡り合ううちに、いつのまにか
事態を自分の望む方向に導いていってしまう。
本作においても、IRFの<詩人>に対し、
さながらチェスの達人同士のように
互いの手を読み合う頭脳戦を繰り広げる。

そして、本作のもう一人のヒロインとも言うべきなのが
「龍騎兵」の技術主任(メカニック)担当の鈴石緑警部補。
彼女もIRFの引き起こしたテロ事件によって家族を失い、
天涯孤独の身となっていた。

それはライザが関わっていない事件ではあったが、
緑がライザに向ける眼には憎しみが宿っている。
しかし、「龍騎兵」の性能を究極まで引き出してくれるのも
またライザであった。

ライザと緑をつなぐのは「龍騎兵」という存在ただ一点。
決して相容れることのないはずの二人なのだが、
事件を通じて次第に関係に変化が生じていく。

最終決戦において、絶体絶命の危機に陥ったライザが、
無線を通じて緑と言葉を交わすシーンがある。
二人の心が一瞬ではあるが "重なる"、
ここまできたら、涙で文字が追えなくなってしまったよ・・・

メインメカである「龍機兵」についても、
「V-MAX」みたいな "スーパー高機動モード" があったりと
 (『蒼き流星SPTレイズナー』って言っても知ってる人は少なそう。
  『ガンダムOO』の「TRANS-AM」の方がまだわかるかな?)
書きたいことはあるんだけど、もうけっこうな分量書いたので
その辺は次作「暗黒市場」のことを書く時に回すことにしよう。

いつになるかはわからないけど、
「暗黒市場」は、そう遠くない将来に文庫になると思うので
いまはその日を、首を長くして待ってます。


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