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身代わり島 [読書・ミステリ]

身代わり島 (朝日文庫)

身代わり島 (朝日文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

表紙を見てちょっとドキッとしてしまったのはナイショだ。

評価:★★★

鳥羽湾に浮かぶ本郷島。

10年前、この島を舞台に製作されたアニメ映画「鹿子の夏」は
大ヒットを記録し、その記念イベントを企画するために
映画のファンサイトのメンバーである5人の男女が島へとやってきた。

しかしイベントの開催に対して、島民は賛成派と反対派に別れ、
お互いの間に密かな反目を生み出していた。

メンバーの一人である木内圭子は、泊まった宿の娘・彩音が
アニメのヒロイン・鹿子に外見から仕草に至るまで
そっくりであることに驚愕するが、
5人のリーダー格・小岩井は、彩音を広告塔に仕立てての
イベント開催を目論んでいた。

しかしその夜、何者かが宿の前に置いていった
鹿子のフィギュア(人形)は、その首をねじ切られていた。

そして翌朝、メンバーの一人・辺見鈴香が殺害される。
その遺体は、ヒロイン・鹿子のコスプレをしていた・・・


深夜の図書館とか、ロックされたトレーラーハウスとか
会社の会議室とか、SF的な架空世界とか、
"特殊な状況" におけるミステリを数多く生み出してきた作者が
珍しくオーソドックスな状況の元に起こった事件を描いている。

ただ、オーソドックスすぎて「石持浅海」らしさは
逆にあまり感じられないように思う。
まあ、作者もあえて自分の "ホーム" を離れて、
いわば "アウェイ" で書いてるんだろうから。

登場人物同士が事件の解釈や犯人を巡って推理を巡らせるところや
犯人の意外な動機は、"らしい" とは思うけど。

この動機がかなり "特殊" なもので、ここで評価が分かれると思う。
まあ犯人からしたら "許せない" ことなんだろうけど
いくらなんでも "これ" で人を殺めるのは
私はちょっと理解できかねるかなあ・・・


『獄門島』をはじめとして、孤島ミステリはたくさん書かれているが
本郷島は世間と隔絶した場所というわけではなく、
電話もネットも使えるしコンビニだってある、普通の島だ。
逆に、こういう辺鄙なところにあるコンビニ、
という存在も、うまく物語に絡めてある。

ただ、本土から離れたぶん捜査は後手に回りがちで、
その間にも事態は動き、新たな事件も起こっていく。

探偵役となるのは、圭子たちと同宿になった釣り好きの青年・鳴川。
人当たりが良く明るい雰囲気を漂わせながらも、鋭い洞察力を示す。

明かされる真相は苦く、哀しいのだけれど、
エピローグでちょっと "ほっこり" する。
それも、この鳴川の人となりのおかげだろう。
このラストシーン、もう2~3ページ続きがほしいなあ。
あの二人、これからどうなるんだろう。とても気になる。