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聴き屋の芸術学部祭 [読書・ミステリ]

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

  • 作者: 市井 豊
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/12/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★

主人公の "聴き屋" こと柏木くんは、T大学芸術学部文芸学科の学生。
彼の特技は、誰のどんな話でも上手に聞くことができること。
要するに "聞き上手" なんだね。
頭や胸の中のモヤモヤを口に出してすっきりしたいという人は
彼の周囲にもけっこういるようで、"聴き屋" の需要はあるようだ。
そんな柏木くんと、彼が所属する文芸サークル<ザ・フール>が
遭遇した4つの事件を収めている。
第5回ミステリーズ!新人賞佳作入選の作者のデビュー作品集だ。

「聴き屋の芸術学部祭」
芸術学部祭に "聴き屋" として参加した柏木くん。
しかし突然、火災報知器が作動する。
発火現場に駆けつけた柏木とサークル仲間の川瀬。
そこで二人が発見したのは学生の焼死体だった。
女装姿で登場する川瀬とか、超ネガティブ思考の "先輩" とか、
<ザ・フール>のメンバーもユニークというか "濃い" というか。
芸術学部というところはこんな人ばっかりなのか。

「からくりツィスカの余命」
本書でいちばん気に入った作品。
演劇学科の月子さんから持ち込まれた難題は、
脚本家が終幕部分を隠したまま姿を消してしまった
新作劇 "からくりツィスカの余命" の結末を突き止めること。
この劇の内容がとても面白い。
あと30時間で "命" が尽きてしまう、からくり人形ツィスカ。
人形に命を吹き込める姫御子に会いに、街に行ったツィスカだが、
そこに隣国の兵隊が攻めてくるとの知らせが・・・
ここの部分だけ抜き出して、単独作品化したものを
読んでみたいなあって思った。
ラストの謎解きの部分でちょっと「?」ってなったが
もう一度読み返してみて、納得。

「濡れ衣トワイライト」
模型部の牧野が持ち込んできたのは、
唯一の女性部員・成田さんが作成した渾身の作品、
宇宙ステーションの模型が何者かに壊されてしまったという事件。
牧野と柏木、二人の会話のみでほとんどの場面が進行する。
いろんな可能性を検討し、ひとつずつ消去していく過程は
とても良くできていると思う。冒頭数ページの何気ない描写に
重要な伏線が仕込んであったりするのも上手。

「泥棒たちの挽歌」
サークルの合宿で箱根の温泉宿を訪れた<ザ・フール>御一行。
宴会も終わり、露天風呂に出かけた柏木と川瀬は
そこで刺殺死体を発見してしまう。
現場に現れた二人組の泥棒に脅された柏木と川瀬は、
警察に通報する前に殺人事件の真相を
突き止めなければならない羽目になる。
泥棒たちが○○○を使って○○○されてるってのは
かなり無理がありそうな気がするなあ・・・


殺人事件2作と "日常の謎" 2作の内訳だけど
どちらかというと "日常系" のほうが良くできてるような気がする。
登場キャラは面白いし、会話はユーモアたっぷりなんだけど
今ひとつ笑いが空回り気味な気も。

でも、主人公をはじめ、登場する学生たちが
大学生活を存分に謳歌している、この雰囲気は好きだ。
シリーズが続くようなら、もう少しつき合ってみたい。


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