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もろこし桃花幻 [読書・ミステリ]

もろこし桃花幻 (創元推理文庫)

もろこし桃花幻 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

世の歪みを正し、正義を実行する「銀牌侠」が活躍する、
中国を舞台にしたミステリ・シリーズの第3弾。
とは言っても、時代も舞台もキャラもばらばらなので
前2作を読んでいなくても大丈夫。
(再登場してるキャラもいなくはないが
 ストーリーに関わる部分ではない。)
今までの2冊は短編集だったが、今回は初の長編である。

時は元代の末期、各地で戦乱の起こる中、
科挙の受験を諦めた陶華(とうか)は帰郷を決意する。

しかし故郷への道には盗賊が横行していた。
従者とはぐれ、路銀も乏しくなった陶華だったが
途中で立ち寄った村で、7人の同行者を得る。
年齢不詳で不思議な雰囲気の女道士・杏霙(きょうえい)、
常人離れした体術を駆使する二人の道士・施と孫、
商人らしくない佇まいの柴(さい)、薬学に疎い医師・呂、
侠客の林と近隣の村の少女・小蘭など
一癖も二癖もありそうな胡散臭いメンバーだった。

総勢8名となった一行が辿り着いたのは、険しい岩山に囲まれた
"桃源郷" と見まごうばかりの平和そのものといった村だった。

しかし到着早々、一行の世話係を務めていた男が
首を切断して殺される。

戦乱から逃れるために外部と隔絶されている村なので、
村人か陶華の一行か、どちらかに犯人がいるはず。
相互に不信感が募っていくなか、次々と村人が殺害されていく。


一方、村からさほど遠くない城市・渓陵は戦乱に巻き込まれていた。
流賊(大規模に組織化した盗賊団)に取り囲まれ、
その頭目・沈琳(ちんりん)と、城側の顔(がん)軍師との間で
駆け引きが続いていたのだ。

殺人事件と城塞包囲戦。一見無関係に見えるこの二つに
意外なつながりがあることが、次第に明らかになっていく。


登場人物もそれぞれの役回りに沿って上手に書き分けられ、
特に杏霙、施、孫の3人はアクションシーンも達者にこなし、
ときおり複雑な過去も覗かせキャラ立ちも充分。

殺人の動機も犯人も、村と村人の持つ秘密に端を発していて
たしかに、この "時代" とこの "舞台" でなければ成立しない、
もっと言えば "発生しない" ミステリになってる。

ただ、犯人の "正体" については文句を言いたくなる人はいそう。
(わたしもちょっぴり「これっていいのかなぁ」って思ったし。)
この作品だからこそ許される "犯人像" ではあると思うけどね。

現代を舞台にした作品ではできないことをやる、
そこにこのシリーズの存在意義があるのだろう。
作者はまだまだ続けていくつもりらしいので、
次回作を待ちましょう。


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