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死香探偵 連なる死たちは狂おしく香る [読書・ミステリ]


死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る (中公文庫)

死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

主人公・桜庭潤平は、特殊清掃員として働いているうちに
遺体の放つ屍臭を「いやな臭い」ではなく「食べ物の香り」に
感じるような特殊体質になってしまう。

ちなみに特殊清掃とは、孤独死した住人の部屋を、
腐乱した遺体を含めてきれいに ”清掃” すること。

東京科学大学の薬学部准教授・風間由人(よしひと)は
潤平の特殊能力に気づき、彼を助手として採用する。

この二人組が殺人事件の真相に迫っていく連作短編集、その第2弾。

「第一話 歪んだ愛が招く死は、ほろ苦い香り」
アパートの一室で首つり自殺をした男・浜坂の傍らにあった本は
人気作家・綾羅木(あやらぎ)ハルのサイン本だった。
潤平は、浜坂の遺体の死香とは別に、
サイン本からも別の死香を嗅ぎつけるのだが・・・

「第二話 湯煙に霞む死は、青葉の香り」
潤平は、風間の研究室の学生たちとともに日光の温泉旅館へやってきた。
しかしそこで、彼は旅館の備品の台車から死香を嗅ぎ取ってしまう・・・

「第三話 艶やかな香り、自由の彼方の死より来たる」
東京・八王子の一軒家で、画家の天芥時雨(てんかい・しぐれ)が
絞殺死体で発見される。第一容疑者は、現場のリビングで
眠っていた座馬倫花(ざま・りんか)という女性。
現場となった家は密室状態で、人の出入りは不可能。
しかし捜査に加わった風間は、座馬は犯人ではないという・・・
真犯人が弄した密室トリック自体は冒頭で明かされているのだけど
それがラストでもうひとひねり。これは斬新。

「第四話 安らかな死は、蠱惑的な香り」
潤平は、風間とともに訪れた自殺の現場で死香を嗅ぎつける。
しかしそれは、最近立て続けに起こった3件の自殺現場で嗅いだものと
同じだった。4人の死者は、いずれも特定の抗不安薬服用していたが
医師から処方された形跡はなかった・・・


”死香” という、本書の作品世界でのみ成立する ”証拠” を武器に
事件の真相に迫っていく、という構図は同じ。
もちろん、ミステリとしてみてもよくできてる。
第三話の密室トリックのひねりもいい。

ただ、風間と潤平の関係性がねえ・・・
風間はクールなイケメンで、
潤平は優男で一見して女性と見紛う顔立ち。
事件を重ねるごとに、なにやら
死香ならぬ、BL臭が増してくる(笑)のはいかがなものか。

私はそっち方面の死香、じゃない、嗜好はないので(笑)
なんとも困ってしまうよ。

 


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京都迷宮小路 傑作ミステリーアンソロジー [読書・ミステリ]


傑作ミステリーアンソロジー 京都迷宮小路 (朝日文庫)

傑作ミステリーアンソロジー 京都迷宮小路 (朝日文庫)

  • 作者: 浅田次郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/11/07
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

京都を舞台にしたミステリー・アンソロジー。

「待つ女」浅田次郎
ファッション系企業社長の村井は、料亭からの帰り道、
タクシーの中から、祇園の石段下に佇む女を目撃する。
その姿に、30年前に捨てた女・志乃を思い出した村井は、
旧友・辰巳のもとを尋ね、志乃の消息を知ろうとするが・・・
浅田次郎は初めて読んだ。こういう雰囲気の文章なんだね。
ミステリ的な展開ではあるけど、ラストがよく分からない。
なんだかうまくはぐらかされてしまった感じ。

「長びく雨」綾辻行人
怪談集『深泥丘奇談』収録の一編。同書で既読。
目眩に悩まされるミステリ作家の ”私” が、
京都の町中で出会う不思議な光景を綴ったもの。
こういう心象風景が延々と続くのは好みではありません。

「除夜を歩く」有栖川有栖
短編集『江神二郎の洞察』で既読。
いわゆる ”学生アリス” シリーズの一編。
ミステリ研の仲間・望月が書いた犯人当て小説「仰天荘殺人事件」を
作中作とし、その解決を巡って江神と有栖が夜の京都を歩き回る話。
「仰天荘殺人事件」自体は立派なバカミス(笑)。

「午後三時までの退屈な風景」岡崎琢磨
『純喫茶タレーラン』シリーズの一編。この作者は初めて読んだ。
美人バリスタの切間美星(きりま・みほし)が切り回す喫茶店で、
訪れた客の奇妙な行動の意味を美星が説き明かす、
という趣向の日常の謎系ミステリなのだが、本作に限っては
それに加えてもうひとつ仕掛けが。これには騙されました。

「銀印も出土した」門井慶喜
京都市の仁和寺近くの、Z大学キャンパスの工事現場から
純銀製の印象が発掘される。
しかも、その外見はあの「金印」にそっくり。
美術講師の佐々木は、Z大学学長・樽坂から呼び出され、
半月以内にこの銀印が ”本物” であることを証明せよ、と命じられる。
樽坂にとっては真贋なんぞはどうでも良く、
大学の新キャンパスの宣伝に使おうという腹づもり。
短編だけど、ネタはけっこう奥深い。なにせ邪馬台国論争まで
絡んでくるのだから。全体的にコメディ調で進んでいくのだが
すべての絡繰りを美術コンサルタント・神永美有(みゆう)が解き明かす。
リーダビリティの高さはさすが直木賞作家。

「異教徒の晩餐」北森鴻
京都嵐山の大悲閣千光寺の寺男にして、
実は元窃盗犯という有馬次郎が活躍する一編。ちなみに短編集で既読。
行きつけの寿司割烹「十兵衛」で、版画家・乾泰山が
殺される直前にとった、奇妙な行動の話を聞く。
新聞記者の折原けいとともに事件を探り始めるが・・・
この作者はやっぱり短編の名手だなあ。早世したのが悔やまれる。

「忘れ草」連城三紀彦
8年前、家を出て行った夫。その夫が突然帰ってきた。
妻は夫に向けて、”最後の手紙” を切切と綴りはじめる。
失踪の2か月後、京都から絵はがきが届いたこと、
1年後に、夫が見知らぬ女と一緒にいたとの知らせが受けたこと、
さらに1年後、あまりの寂しさから
夫の絵はがきに描かれていた寺を訪れたこと・・・
文庫でわずか16ページほどの作品ながら、驚きのラストを迎える。
やっぱり連城三紀彦はスゴい。


2年ほど前に、冬の京都を二泊三日で旅行したことがあるのだけど
まだまだ回りきれないところがたくさんある。

実はこの冬、もう一度行こうと思っているんだけど
前回は天気に恵まれなかったので、今度は晴れるといいな。
ついでに、あんまり寒くないといいんだけど・・・(笑)。

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天冥の標VI 宿怨 [読書・SF]


天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫
天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/08/23
  • メディア: 文庫
天冥の標 6 宿怨 PART3 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 6 宿怨 PART3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: 文庫
大河SF「天冥の標」シリーズ、第6部。

第1部「メニー・メニー・シープ」では
西暦2803年に植民星で起こった内乱を綴られ、
第2部「救世群」では2015年に戻って
感染症・”冥王斑” の地球上でのパンデミックが語られた。
第3部「アウレーリア一統」は、2310年の小惑星帯を舞台に
異星人の残した謎の遺跡 ”ドロテア・ワット” を巡るスペース・オペラ。
第4部「機械仕掛けの子息たち」はその3年後、
性的遊興小惑星ハニカムを舞台にして
セックスで人間に奉仕するロボットたちを描いた官能小説。

前半部のトリとなる第5部「羊と猿と百掬の銀河」では、
2349年の小惑星パラスと6000万年前の太古の宇宙を交互に描き、
作品世界の背景になる太古からの物語が綴られた。

そして後半の劈頭を飾るこの第6部は、太陽系に起こる大破局を描く。


物語は第5部の150年後、2499年に始まる。

宇宙島群スカイシー3は、地球の生態系を保存する目的で建設された
巨大なスペースコロニーの集合体。
そこを訪れていた《救世群》の少女イサリ・ヤヒロは
氷雪状態のコロニー内で遭難してしまう。
彼女を助けたのは《非染者》の少年アイネイア・セアキだった。

奇しくもイサリは、《救世群》議長モウサの長女であり
アイネイアの母は、実質的に太陽系世界を支配する巨大企業MHD
(マツダ・ヒューマノイド・デバイシズ)社の筆頭執行責任者だった。

折しも太陽系では、冥王斑患者の権利拡大を目指す《救世群》と、
逆に封じ込めを強めようとするMHD社の緊張が高まっていた。

第5部のラストで示されていた、太陽系に接近しつつある
地球外知性体の宇宙船は、その後行方不明になっていたが
密かに太陽系に到着、《救世群》と接触していた。

強硬路線を主張する《救世群》副議長ロサリオとイサリの妹ミヒルは
異星人のオーバーテクノロジーを利用して軍備を強化、
ついに人類に対して宣戦を布告する。

《救世群》の宇宙艦隊は地球へ侵攻、
それに対抗してMHD側も太陽系艦隊を差し向ける。
物量では圧倒的に不利な中、ロサリオとミヒルは
人類史上最凶最悪の作戦を発動しようとする。

平和を願うアイネイア、人類との共存を望むイサリ。
若者二人の運命は大きな歴史の渦に飲み込まれていく・・・


長大な時間を描く大河ドラマらしく、
各時代間の人のつながりもまた感慨深い。
こちらも長い時間付き合っているので、
各キャラへの思い入れも深くなる。

第5部のタックとアニーの子孫も登場するし、
第6部の ”動乱” の300年後を描いた第1部に登場する
カドム・セアキは、アイネイアの子孫かな? と思わせるなど、
知っている ”姓” が登場すると嬉しくなってしまう。

さらに第1部には、本書のイサリと同姓同名のキャラも登場するのだが、
読んでいる限り、同一人物のように描かれているような・・・
イサリ以外にも、第1部で ”歴史上の人物” として
名前が出てくるキャラも登場する。
そのへんも、これから明かされていくのだろう。

しかしアイネイアの物語はまだ終わっていない。
実はこの記事をupする今日、わずか数時間前に
第7部「新世界ハーブC」を読み終わったんだが・・・

第6部のエピローグの直後から続く物語になっていて、
アイネイアと彼の仲間たちが辿る、
長く苦しい旅の終着点までが描かれる。

この壮大な物語の全貌が明らかになるのは間もなくだ。

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ルパン三世 THE FIRST [アニメーション]


「ルパン三世」を映画館へ観にいったのは、
「カリオストロの城」以来かなあ。だとしたら40年ぶりだなあ・・・
なんてことを思いながら観て参りました。

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タイトルの「THE FIRST」には
初代アルセーヌ・ルパン(一世)絡みの話だということと
「ルパン三世」史上初の3DCGアニメということ、
という2つの意味が込められてるらしい。


時代設定は第二次大戦終結から十数年後、
とあるので1960年代初頭あたりか。
これには映画後半の展開が絡んでいるのもあるけど
インターネットもスマホもPCも存在せず、その代わり
レシプロエンジン(プロペラ駆動)の飛行機が登場するなど
適度にレトロな雰囲気もあって、私なんかには懐かしい世界観だ。


考古学者ブレッソンが研究成果を記した「ブレッソン・ダイアリー」。
かのルパン一世が唯一、盗み出すことに失敗したという因縁のお宝。
それには途方もない財宝の在処(ありか)が記されているという。

ルパン三世は、その「ブレッソン・ダイアリー」を盗み出そうとするが
彼の目の前でダイアリーは横取りされてしまう。
そのさなか、ルパンはレティシアという少女と知り合う。
考古学に精通する彼女とともにダイアリーを追ううちに、
ダイアリーの財宝を狙う謎の秘密組織と対決する羽目に・・・


ストーリーとしては「カリオストロの城」と「インディ・ジョーンズ」を
混ぜて、味付けに「ふしぎの海のナディア」を少々振りかけた感じ。
目新しいところやオリジナルな要素というのはほぼ皆無。
話の流れも、進む先が容易に予想がつくもので、
”意表を突く展開” というのも、ほぼない。
いわゆる ”ベタなストーリー” というやつだ。

例えば、ルパンがダイアリーにつけられた錠を開けるパスワードを
あれこれ考えて突き止めるシーンがあるのだけど、
映画を冒頭から観ている観客には、推定することは容易だろう。

いわゆるご都合主義な展開も多い。
ルパンが絶体絶命なピンチになっても、必ずと言っていいほど
救いの手が現れる。それもジャストタイミングで。

さて。

じゃあダメダメなのか、というとそうでもないんだなあ。
粗を探せばいくらでも出てくるけど、
私はおよそ90分の上映時間中、十分に楽しませてもらった。
時には笑い、時には目をうるませて。
映画館が近ければ、もう一回くらい観にいってもいいなあ。


確かに ”ご都合主義な展開” のシーンに出会ったときは
「おいおい」って思うんだけど、この映画全体の流れが
リアリティや整合性よりも ”ノリと勢いで押していく” ことを
最優先させるという姿勢で徹底していて、
観客をそっちに引きずり込むことを目指している。

”ベタなストーリー” って書いたが、言い換えれば過去の作品の
”いいとこ取り” でもあるわけで、そう割り切ってしまえば
分かりやすくて安心して観ていられる(笑)。

 ある意味「水戸黄門」みたいなものだね(笑)。

”お約束の展開” の連続でもあるので話もスピーディに進むし、
いろんな意味で ”分かりやすい”(笑)ので、
それこそ小学校低学年から80歳超えのご老体まで、
どんな年齢層でも楽しめるだろう。

難しいことは考えず、アタマの中を空っぽにして
ルパンとレティシアの掛け合いを楽しむのが
この映画の正しい楽しみ方なのだろうと思う。

だから、制作陣の思惑通りに映画の流れに乗れた人は楽しめるし、
流れに乗れない人は「とんでもない作品だ」って怒り出すだろう。


ネットでの評判を観てみると、やはりというか
好評/不評で真っ二つみたいだ。
「ルパン三世」の真面目で熱心なファンほど、
こういう穴だらけのストーリーが許せないのかも知れない。


次元と五右衛門の活躍シーンが少ないのも減点ポイントかなあ。
この二人は映画の途中ではほとんど見せ場がなく、
簡単に敵に捕まったりといいところが全くない。
二人が目立って活躍するシーンはラスト近くにあるのだが
ダイジェスト版みたいにあっさりと流されてしまうので
次元と五右衛門のファンの人もまた怒り出すかも知れない。

ただまあ、ここで尺を使ってしまうと、
ラストの盛り上がりがぼけてしまうだろうと思うし。
90分の中では難しいのかな。
120分の尺があればまた構成が変わってくるとも思うが。


あと、観ていて思うのは制作陣(というか、たぶん監督)は
かなり「カリオストロの城」を意識してるんだな、ということ。

「カリオストロー」と同じような台詞回しもあるし
名シーンを彷彿とさせるところもあるし。
ラストシーンなんかまさにそれ。

一番の共通点は、ヒロインであるレティシアの存在。
でもまあ、クラリスとはかなり設定が異なるけどね。

レティシアは勝ち気で元気いっぱいだけど、
未来の考古学者を夢見る、聡明で才能あふれるお嬢さんでもある。
CVは広瀬すず。頑張っているけど、ちょっと肩に力が入りすぎな感じ。
この映画はプレスコ(台詞先録り)方式だったらしい。
収録はなんと2年前。「なつぞら」の撮影に入る前じゃないかな。
朝ドラで1年間鍛えられた今なら、もう少し上手いかも知れないね。


他の声優さんについても書いておくかな。
レティシアの ”育ての親” のランベールは吉田鋼太郎。
この人の ”声優業” は初めて見たけど、意外と達者。
謎の秘密組織のリーダー・ゲラルトは藤原竜也。
これも広瀬すずと同じく、力が入りすぎて前のめりな感じ。
ルパンと最後まで対峙する役なので、
目一杯張り合わなければいけないのは分かるけどね。

ルパンのCVは山田康雄以外考えられない・・・って思ってきたけど
気づけば栗田貫一も20年以上やってるんだね。
本作を観ていて、私の中の違和感はかなりなくなってきたかな。
五右衛門の浪川大輔、銭形の山寺宏一は期待通りの出来映えです。
そして不二子の沢城みゆきはやっぱり絶品。
妖艶な美女を演じさせたら当代一じゃないかなあ。

次元の小林清志さん。御年は既に80歳超えとか。
愛着があるのは分かるけど、そろそろ後進に道を譲るべきだなあ。
ちょっと前に放映されたTVスペシャルを観たのだけど愕然とした。
ここまで劣化してるとはねえ・・・観続けるのが辛くなってしまったよ。

別に声優そのものを止めろとは言わない。
年齢を重ねたからこそ、できる役もあるし。
体が続く限り頑張ってもらって結構。

でも、次元役はねえ・・・
本人は満足してても、ファンはそう思ってないかも知れないよ・・・

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狩人の悪夢 [読書・ミステリ]


狩人の悪夢 (角川文庫)

狩人の悪夢 (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

臨床犯罪学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖が活躍する
<作家アリス>シリーズの一編。
今回は「鍵のかかった男」に続く長編だ。

出版社の企画で、有栖川有栖は
ホラー作家の白布施正都(しらふせ・まさと)と対談する。

白布施は、代表作『ナイトメア・ライジング』が
ハリウッドで映画化されることが決まるなど
<日本のスティーヴン・キング>とも呼ばれるベストセラー作家だ。

対談の席で、有栖は白布施の自宅「夢守荘」に招かれることになる。
そこは京都郊外の森林地帯にある一軒家だ。

しかし到着した翌日、「夢守荘」近くの空き家で
沖田依子という女性の他殺死体が発見される。
そこは白布施のアシスタントをしていた青年・渡瀬信也が
住んでいた家で、彼は2年前に心筋梗塞で早世していた。

女性の死体は、首を一本の矢に貫かれ、
しかも右手首から先が切断されていた。
さらに近くの廃屋からは男の死体が発見される。
その左手首もまた、切断されていた・・・


登場人物はさほど多くないので、容疑者はかなり絞られる。
しかしながら、あからさまに怪しい人物もまたいない。
まあそのへんはミステリなら当たり前なんだけど、
その中から真犯人を見つけ出す火村の推理は今回も切れがいい。

得られた物証、犯行時の気象を含めた周囲の状況、人々の動きを材料に
依子の手首切断という一点から推論を組み始め、
そこから当日夜の犯人の行動をするすると導き出してしまう流れは
いつもながら素晴らしい。流石は有栖川有栖。

文庫で460ページとやや厚めなのだけど
事件発生以前から解決まで、その途中経過を
退屈させずに読ませるのは、いつもながらたいしたものだ。

火村の推理が完成するのは380ページあたり。
その瞬間に火村が発する台詞には、思わず「え?」
すっかり ”騙されて” しまいましたよ(笑)。

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ゴーグル男の怪 [読書・ミステリ]


ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★

東京を深い霧が覆った夜、タバコ屋で老婆が殺された。
たまたまタバコを買いに来た客が老婆の死体を発見し、
さらにゴーグルをつけた謎の男を目撃する。
しかもゴーグルの中の目もその周囲も、真っ赤に染まっていたという。

物語は、この殺人事件を追う刑事の行動と並行して
原子力関連企業・住吉化研の敷地内で起こった臨界被曝事故が語られ、
さらに ”ぼく” という一人称で、幼児期に性的暴行を受けたために
精神的に不安定なものを抱えた青年の、前半生が綴られていく。

”ぼく” は成長して大学に入り、卒業後に住吉化研に入社して
臨界被曝事故に遭遇するのだが・・・


まず、読んでいて気になるのは、
「原子力」や「核物質」というものに対する描写。

作中の事故のモデルになったのは、1999年に茨城県東海村の
住友金属鉱山の子会社JCOの核燃料加工施設で発生した
原子力事故(臨界事故)だろう。
この事故で3人の作業員が大量の放射線を被爆、
懸命の治療の甲斐なく、2人の命が失われたものだ。

主な死因は放射線によって遺伝子が傷つき、
細胞再生ができなくなったことによるもの。
本書でも、住吉化研の作業員が臨界事故で被爆し
JCO事故と同様の症状に陥るのだけど、その容態の凄まじさが
これでもかとばかりに事細かく描写されていく。

その中で、杜撰な管理をしていた会社の責任を厳しく糾弾し、
さらには原子力政策を推し進める国家・政府への攻撃も激しい。

さて。

作者が原子力政策に対してどのような考えを持とうが自由だし、
それを文章にして表現するのも自由だ。

ただ、それをミステリのフィールドでされてしまうと
戸惑ってしまう。読者はそういう作品を望んでいるのかな?

 そういう主張はどこか別のところでしてくれよ、って思うんだが
 こういう内容をそのまま書いても、読んでくれる人は少ないだろう。
 ならばミステリの形にすれば、もっと多くの人に読んでもらえる。
 たぶん、そう思ったのだろうけど・・・

ミステリを構成する材料の一つとして取り上げたのだろうけど
その ”材料” への言及が過ぎるのではないかなあ。
本書の、特に中盤までの構成では原子力批判がメインになっている。

最終的には本格ミステリとして決着するのだが
前半の原子力関係のインパクトが大きくて、
ミステリとしての解決がかすんでしまいそうである。

さんざん引っ張った ”ゴーグル男の正体” も、
いささか肩透かしな感が・・・


社会派ミステリの秀作として評価する人もいるかも知れないが、
少なくとも、私の読みたい島田荘司は、
こういう作品じゃないんだよなあ・・・

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科警研のホームズ [読書・ミステリ]


科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 文庫
評価:★★

タイトルの「科警研」とは、科学警察研究所のこと。
警察庁の附属機関であり、全国で1カ所、千葉県柏市にある。

 似た言葉で「科捜研」(科学捜査研究所)があるけど
 こちらは都道府県警察本部の附属機関なので、
 要するに47都道府県に1つずつ存在している。

その科警研が、東京都文京区本郷に分室を設置し、
そこに3人の研修生が集められた。

北海道警で化学鑑定に携わっていた北上純也(きたかみ・じゅんや)。
埼玉県警から来た伊達洋平はデータ処理に秀で、
兵庫県警の安岡愛美(あいみ)は血液/DNA鑑定を担当していた。

彼らはここで半年間の研修をする予定なのだが、
希望して参加したわけではなく、なぜ選ばれたのか、
何を目的の研修なのかも知らされていなかった。

そしてその3人の前に現れたのが室長の土屋。
しかしこれがまた、まったくやる気を見せない。
東啓大学の准教授と兼務なのだが、ほとんど大学に行ったきり、
分室には滅多に顔を出さないし、3人への指示も全くない。

かつて土屋は科警研に所属し、目覚ましい成果を上げていたという。
多くの未解決事件の捜査に参加し、犯人特定にも貢献していた。
「科警研のホームズ」という異名までとるほどに。

しかし2年前、ある事件での鑑定ミスの責任を取る名目で辞職、
折しも恩師からのオファーがあり、東啓大の准教授として復帰した。

土屋の才能を惜しんだ科警研所長の出雲は、本郷分室を設立し、
警察へ戻る意思をさっぱり見せない土屋に、
無理矢理ながら、室長との兼職を承知させた。

3人の研修生とともに、未解決事件の謎に取り組んでもらい、
捜査への熱意を思い出してもらう。それが分室設立の目的だった。
そういう目的のために集められた3人こそ、いい面の皮である。

とまあ長々と書いてきたけど、これが本書の基本設定。
本書は4話構成で、3人の研修生が未解決事件の調査にあたり、
壁にぶち当たったところで土屋が解決に乗り出す、という流れ。

3人の研修生の仲も、最初からうまくいくわけではなく
特に出世志向の強い伊達のせいでけっこうギクシャクするのだが
それも物語が進むにつれて馴染んでいく。

分室設立の目的が明かされても、
腐らずに研修に取り組もうとするところはたいしたものだが
宮仕えの身だからねえ・・・逆らえないよね(笑)。

星の数が少ないのは、やっぱり主役の土屋のせいかなぁ。
ミステリでのホームズ役といえば、奇人変人が当たり前なんだけど
本書の土屋は、いささか影が薄いというかインパクトが少ないというか。

大学では颯爽と研究しているのかも知れないけど、
3人の研修生の前では単なる面倒くさがりにしか見えない。
私には、魅力的な探偵役とはあまり思えなかったので。

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化石少女 [読書・ミステリ]


化石少女 (徳間文庫)

化石少女 (徳間文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2017/11/02
  • メディア: 文庫
評価:★★★

舞台は京都の名門、私立ペルム学園高校。

2年生の神舞(かんぶ)まりあは古生物部の部長。
こよなく化石を愛し、休日には化石発掘の
フィールドワークに明け暮れる、”化石少女” だ。
黙っていればそこそこ美人なんだが、いかんせん口が悪すぎる。
性格は傍若無人で我が儘いっぱい。学業成績はどん尻(おいおい)。

彼女の他に部員は1人だけ。1年生の桑島彰だ。
まりあとは幼なじみだが、彰の父が勤める会社の社長がまりあの父。
そのせいか、幼い頃からまりあの使い走りをさせられてきた。

娘を心配したまりあの父は、彰の父に頼み込み、
その父から因果を含められ、高校生になった今も
彰はまりあの ”お守り役” を務めされられている(とほほ)。

でもまあ、つき合いが長い分、彰もまりあには
けっこうずけずけとものが言えるのだけど
問題は、まりあにはそれが一向に通じないことだ(笑)。

そんな古生物部は危機にさらされていた。
生徒会が、増えすぎた部活動を整理統合する方針を掲げ、
古生物部も廃部の対象に含められていたのだ。

その学園の中で、事件が発生する。
新聞部部長の福井が殺され、現場から逃げ去った犯人は、
なんとシーラカンスのかぶり物をしていた(笑)。
それは、数年前の文化祭で古生物部が製作したものだった。

福井が新聞部内の不祥事を探っていたことから、
まりあは犯人探索に乗り出す。
不祥事の中身をつかめば、それをネタにして生徒会に
古生物部廃部を撤回させることができる・・・という計算からだが。

かくしてまりあは、彰をワトソン役に引っ張りだし、
探偵気取りで活動を始める。
しかし2人の行動をよそに事件は続き、さらなる死者が・・・


彰からしたら、まりあはとんでもない人間なのだろうが
彼女の自由奔放すぎる言動が本書の大きな魅力になっているのも事実。
台詞にちょくちょく古代生物の名前なんかが出てくるのもご愛敬。

まりあは事件が起こるたびに犯人を ”指摘” するのだが
まず「犯人はあいつだ」と決めつけ、
それに合わせて ”推理” をでっち上げるというとんでもないもの。

当然ながらそれは無理とこじつけと偶然の集合体で
論理も何もあったものではなく、穴だらけだ。
毎回、彰からの容赦ないツッコミでボロボロになってしまう。
それでも挫けないのが、まりあらしいのだが。

後半に入っても着地点がさっぱり見えず、
この話をどうたたんでいくのだろう・・・
って思ってたんだけど、さすがは麻耶雄嵩。
ライトノベル風の出だしから、このラスト。
まさに予想のはるか斜め上の結末で、もうびっくりでしたよ。

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屍人荘の殺人 [読書・ミステリ]


屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

2017年、第27回鮎川哲也賞受賞作。
発売以来、各種ミステリ・ベストテンを総なめにして
映画化まで決まり、12月13日から公開されるという話題作。

どんな作品かと思って読んだんだけど、
確かにこいつはスゴかった。
ただ、どうスゴいのかというのが説明し難いのも本作の特徴。


神紅(しんこう)大学ミステリ愛好会は部員数わずかに2人。
会長は ”神紅のホームズ” と呼ばれる明智恭介(おいおい)。
そして彼の ”助手” である葉村譲。

彼らは、同じ大学に通う美少女探偵・剣崎比留子(ひるこ)とともに
リゾート地の湖畔にあるペンション「紫湛(しじん)荘」で行われる
映画研究部の夏合宿に参加することになる。

去年の映研の合宿では、終了後に自殺者も出たという曰く付き。
そのせいか参加者が集まらず、演劇部員にまで声がかけられ、
葉村たちが加われたのも、それが理由。

ところが合宿初日の夜、肝試しを始めた一行を
思いも寄らぬ事態が襲う。

この ”事態” が何かを書きたいんだけど、
ここがこの作品の ”売り” の一つでもあるので明かさないことにする。

 ネットをググればたぶんネタバレが載ってると思うんだけど
 知らずに読んだ方が絶対に楽しい(?)と思うので。

要するに、ここから一種の ”特殊状況下ミステリ” に移行するのだ。
そして、この ”事態” のために外部との連絡を絶たれ、
クローズト・サークルとなったペンションの中で密室殺人が起こる・・・


古今東西、吹雪や火事や台風など、さまざまなシチュエーションの
クローズト・サークルものが描かれてきたが、
今作での ”事態” はまさに前代未聞だろう。

彼らを取り巻く ”特殊状況” にはある ”ルール” があり、
ペンションの中では、一般常識+特殊ルール の、
いわば二本立ての ”世界設定” のもとに事態は進行し、
探偵による推理ももちろん ”特殊ルール” 込みで行われる。

 ”特殊ルール” なんて書くと難しそうだが、そんなことはない。
 文章にしたら、このブログの記事二行分くらい(笑)。

でも、この ”特殊状況” のおかげで、
物語がぐっと面白く(?)なっているのは間違いない。

事件発生から解決までのストーリー展開でも、
サスペンスが途切れることなく続き、
ハラハラしながらどんどんページをめくってしまう。
ストーリー・テリングの腕もなかなか。
これで新人だというのだから驚きである。

ミステリとしても超絶に面白いが、キャラもいい。

ペンション内の総勢は14人。けっこう多いのだけど、
それぞれ性格がはっきり書き分けられていて、
読んでいても「こいつ、どんな奴だったっけ」と迷うことがない。
いちおう登場人物一覧表はあるのだけど、
私にしては珍しく、それのお世話になることが少なかった。

登場人物をわかりやすくするために、実はもう一工夫(?)
してあるのだが、これもある意味斬新(?)な手法。
詳しくは読んでみてのお楽しみかな。

そして、ペンションの詳細な見取り図も付いている。
たいてい、この手の図面は事件解決にほとんど役立たないのだけど、
この作品については、犯人の絞り込みに使われたりと、
かなり重要な要素を占める。

まさに隅々まで考えられた、”隙のない” つくりだと言えるだろう。
繰り返すが、これで新人だというのだから驚きである。
これからの活躍が楽しみになる。


さて、10月頃にかみさんと映画館に行ったら、
映画版「屍人荘の殺人」の予告編をやってた。
それを見たかみさんが「観にいきたい!」って言い出した。

かみさんは別にミステリファンでないんだよね。むしろ苦手。
じゃあ何でかというと、葉村役で神木隆之介くんが出てるから。
かみさんは彼のファンなんだ。

で、その予告編がまた、この作品の ”事態” には
全く触れず(まあ当たり前だね)、コメディ色を前面に出してる。

 原作にはあまり喜劇色はないんだけど、
 映画化にあたってそういう風に脚色したんでしょう。
 映画の公式サイトを見ても、あちこちに原作からの改変がありそうだ。

当然ながら、かみさんは ”事態” の内容を知らないんだよね・・・

映画館で ”事態” の内容を知ったときの反応が
楽しみなようでもあり、不安でもある・・・

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アンソロジー 捨てる [読書・ミステリ]


アンソロジー 捨てる (文春文庫)

アンソロジー 捨てる (文春文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

女性作家の集まりである「アミの会(仮)」によるアンソロジー。
変わった名前の由来は「あとがき」に詳しい。

この会は、いままでいくつものアンソロジーを出しているようで、
これから続々と文庫化されていくのではないかな。
今回は「捨てる」がテーマ。


「箱の中身は」大崎梢
叔父のフォトスタジオを手伝っている ”僕” は、
公園で小さな箱を持っている女の子に出会うが・・・

「蜜腺」松村比呂美
梓の夫・淳一は自宅マンションの風呂場で練炭自殺を遂げた。
自らの生命保険金で、母親の借金を精算するためだったのだが・・・
梓の姑を、本当にろくでもない人間に描く、その筆致がスゴすぎる。

「捨ててもらっていいですか?」福田和代
一人暮らしをしていた祖父が亡くなり、遺品整理に訪れた朱里(あかり)。
しかしその中に、1丁の拳銃を発見してしまう・・・

「forget me not」篠田真由美
母が急逝し、膨大な遺品が残された。
その処理に忙殺されて精根尽き果てた ”私”。
最後に残ったのは、謎の壺が一つ・・・

「四つの掌編」光原百合
「戻る人形」はホラー。「ツバメたち」はある童話の再解釈。
「バー・スイートメモリーへようこそ」は酒場での男女の一幕。
「夢捨て場」はファンタジー。

「お守り」新津きよみ
祖母からもらったお守りは、願い事をことごとく叶えてくれた。
しかしそのことを中学校の同窓会で友人に話してしまい・・・

「ババ抜き」永嶋恵美
会社の保養所へ泊まりに来た女性社員3人組。
負けたら一つずつ秘密を打ち明ける、という縛りをつけて
ババ抜きを始めるのだが・・・

「幸せのお手本」近藤史恵
優しい夫・良太郎とともに暮らし、
幸福のさなかにあったはずの樹里(じゅり)。
しかしその歯車は少しずつズレ始めていく・・・

「花子さんと、捨てられた白い花の冒険」柴田よしき
専業主婦の花子はある日、ゴミ集積場に
パンジーの株を捨てようとした男・田川と出会うが・・・


ミステリに限らず、サスペンスありホラーありと作風もいろいろ。

人間、いつかは死ぬわけで、冥土には何も持って行けない。
ということは、いま手にしているものはどうなってしまうのだろう・・・
なぁんてことを考えてしまったよ。

星の数が少なめなのは、後味が悪い作品が多かったから。
小説としてはとてもよくできてるんだけど、単に私の好みの問題です。

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