SSブログ

あぶない叔父さん [読書・ミステリ]


あぶない叔父さん (新潮文庫)

あぶない叔父さん (新潮文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

霧ヶ町。北を海に、他の三方を山に囲まれ、
名の通り、濃い霧の立ちこめる鬱々とした小さな町だ。
そこで暮らす高校生・斯峨優斗(しが・ゆうと)が本書の語り手。

優斗の叔父は35歳。20代の頃は全国を放浪していたらしいが
5年前に戻ってきて、優斗の父が住職を務める寺の離れに住み着き、
”なんでも屋” をやっている。人手が足りないときの人数あわせなど、
声がかかればどんな用事でも引き受けている。

小さな霧ヶ町だが、そこに次々と発生する奇妙な殺人事件。
優斗が叔父さんに事件について話を振ると、
「あれはね」と真相を語り始める・・・

と書くと、叔父さんがホームズで優斗がワトソンの
探偵譚かと思うだろうが、
麻耶雄嵩がそんな単純なことをするはずがない(笑)。


「失くしたお守り」
町の水産業を握る鴻嘉(こうか)家の一人娘・恭子は19歳。
その資産家のお嬢様が駆け落ちした。相手は30代の中学校の国語教師。
しかしその直後、城跡の公園の四阿で二人の死体が発見される。
町の人々は心中だと噂しあうのだが・・・

「転校生と放火魔」
町で放火が連続して起こる。そして3件目にして死者が出た。
しかし、被害者となった農協の事務員・潟田祥子(かただ・さちこ)の
死因は焼死ではなく、後頭部への殴打だった・・・

「最後の海」
町で一番大きな病院を経営する枇杷(びわ)家。
病院は院長である枇杷均(ひとし)の長男・理(おさむ)が
継ぐはずだったが、彼は不祥事を起こして失踪してしまう。
そのため、次男の司に後継者のお鉢が回ってくる。
司はもともと画家志望だったので、父の均から急遽、
医学部への進学を命じられて悩んでいた。
理が密かに町に舞い戻ってくるという噂の流れる中、
海が見える神社の鳥居で、均が首吊り死体が発見される・・・

「旧友」
叔父さんの旧友・柳ヶ瀬伸司が株でひと山当てて、東京から帰ってきた。
事業に失敗して没落していた汐津(しおつ)家から土地を買い取り、
”ハイカラ御殿” と呼ばれる豪邸を建てて夫婦で暮らしていた。
しかしその二人が殺される。
その直後、汐津家では当主・雅之の自殺死体が発見されて、
町の人々は雅之の逆恨みだと噂するのだが・・・

「あかずの扉」
霧ヶ町は秋まつりの日を迎え、観光客が集まる時期になった。
叔父さんとともに、地元の「おだに旅館」で
二日間のアルバイトを終えた優斗だが、旅館の大浴場で
町の名士・奥実秀夫(おうみ・ひでお)の死体を発見してしまう・・・

「藁をも掴む」
放課後の高校で、優斗は女生徒二人が校舎から転落する場に遭遇する。
直ちに病院に運ばれたが二人は死亡し、遺書もなく理由は不明。
その高校では、かつて校舎の屋上から投身自殺した女生徒がいたことから
今回もその幽霊に呼ばれたのだろうとの噂が・・・


文庫判の表紙のイラストでも、本文中での描写でもわかるのだが
”叔父さん” の容姿は明らかに「金田一耕助」をモデルにしている。

日本でも最も有名な探偵の五指に入るだろうキャラなのだが
案外 ”無能” なのではないか、との論をたまに見かける。
犬神家でも八つ墓村でも、犯人による連続殺人が終わるまで
真相に気づけないんだから・・・という内容だ。

まあ、その論に従えばたいていの名探偵は
みんな ”無能” になってしまうよねえ。
「第一の殺人」が終わったら犯人が分かってしまうのでは
連続殺人事件なんか描けないし・・・

ミステリにおいては、探偵は自ずと
その ”能力” に一定の制限が加えられるものだ。


さて、この「あぶない叔父さん」はどうか。
本書が凡百のミステリと異なるのは、この叔父さんの位置づけ。

詳しく書くとネタバレになるのだけど、
従来のイメージの探偵の枠に収まらない。

読者は、1話目の「失くしたお守り」を読んで「え!?」って思うだろう。
2話目の「転校生と放火魔」を読んでさらに「ええーっ!?」。

さすがに3話目からは、読者も分かってきて(笑)
今度はどんなオチを見せてくれるか、逆に楽しみになるだろう。

ミステリとしてはきちんと(?)してる。
意外な犯人も、ひねられたトリックもあるのだが、
それに加えて、予測不能な××の××があるので、
ミステリとしての着地点は、常に読者の予想の斜め上をいく。

ただまあ、思いっきり変化球過ぎて
私の好みにはいまひとつ合わないかなあ・・・

nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ: