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阪堺電車177号の追憶 [読書・ミステリ]


阪堺電車177号の追憶 (ハヤカワ文庫JA)

阪堺電車177号の追憶 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 山本巧次
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「阪堺電車」とは、大阪の南部を走る路面電車のことだという。
関東に住んでいる人間にはいまひとつピンとこないのだけどね。


「プロローグ ー平成29年3月ー」
阪堺電車のなかでも現役最古のモデル161形177号。
老朽化によって廃車・解体が決まった ”彼” が、
85年にわたる ”現役時代” に見続けてきた沿線の人々、
乗務員たちの営み、そして彼らの間に起こった事件を回想し始める。

「第一章 二階の手拭い ー昭和8年4月ー」
車掌として177号に乗務していた辻原は
沿線の商家・松田屋の二階の欄干に、
1枚の白い手拭いが干してあることに気づく。
その手拭いは干しっぱなしなのではなく
毎日毎日、改めて欄干に掛けられているらしい。
ところがある日、白い手拭いは青筋の柄物に替わっていた・・・
辻原の恋人・美弥子は、彼の話から意外な犯罪を見つけ出す。

「第二章 防空壕に入らない女 ー昭和20年6月ー」
男手の少ない戦時下で、運転手を務める雛子(ひなこ)は
空襲警報が発令されたので乗客たちを防空壕へ誘導する。
しかしその中で、信子という女だけは防空壕の中へ入らず、
逃げ出してしまう。彼女を追った雛子は墓地へと入り込み、
そこで彼女から防空壕に入れない ”事情” を聞くことになるが・・・

「第三章 財布とコロッケ ー昭和34年9月ー」
レストランの厨房で調理師をしている章一は、
通勤中の車内で見かける美人に思いを寄せていた。
ある日、その女性が車内に財布を落とし、それを拾った小学生が
自分のポケットにねじ込んでしまうのを目撃する。
章一はその少年・典郎(のりお)を問い詰めるがシラを切られてしまう。
改めて財布を落とした女性・奈津子に事情を話し、
章一は彼女とともに典郎の元へ向かうが・・・
ミステリというよりは人情噺。本書の中で一番好きな話だ。

「第四章 二十五年目の再会 ー昭和45年5月ー」
雛子は、天王寺駅前の横断歩道で25年ぶりに信子と出くわす。
「第二章」の後日談。信子が防空壕に入らなかった本当の理由、
そしてその後の25年間の人生が綴られる。

「第五章 宴の終わりは幽霊電車 ー平成3年5月ー」
アユミがホステスとして働いている店に、客として現れた男・相澤は
かつてアユミの一家を破産へと追い込んだ悪徳不動産業者だった。
アユミはホステス仲間2人の協力を得て、
なんとか相澤に一泡吹かせようと画策するのだが・・・

「第六章 鉄ちゃんとパパラッチのポルカ ー平成24年7月ー」
現役最古の阪堺電車の車両161形をカメラに収めるべく、
沿線で待機する青年・幸平。
その近くに駐車しているSUVの中で張り込んでいるのは、
駆け出しの芸能人専門カメラマン・勝間田。
人気女子アナ・山田彩華(あやか)の後を追いかけ、彼女が
沿線にあるマンションの一室を訪れたのを突き止めたのだが・・・

「エピローグ ー平成29年8月ー」
廃車・解体処分になったはずの177号だが・・・
なんとも感動的なフィナーレを迎える。
読んでいて、目頭が熱くなってしまったよ・・・


個々の話もとても面白いし、ミステリとしてもよくできてるのだけど
同時に本書は、85年にわたる ”大河ドラマ” でもある。
「第一話」で赤ん坊として登場した人物に、
「エピローグ」では曾孫がいるなど、時の流れも感慨深い。

「第五章」「第六章」では、主役を務めている人物に過去の話との
意外なつながりがあることが明かされて、読んでいて驚いたり喜んだり。

作者の山本巧次は初めて読んだんだけど、
笑わせて泣かせて、ストーリーテラーとしての腕も見事。
新作が楽しみな作家さんですね。

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