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日本SF傑作選2 小松左京 [読書・SF]


日本SF傑作選2 小松左京 神への長い道/継ぐのは誰か? (ハヤカワ文庫JA)

日本SF傑作選2 小松左京 神への長い道/継ぐのは誰か? (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小松 左京
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

早川書房から「日本SF傑作選」と銘打ち、
いわゆる ”SF第一世代作家” 6人の作品集が刊行された。
本書はその第2弾で、小松左京が「日本沈没」(1973年)で
ブレイクする前、”第一期” ともいえる60年代の作品を収録している。
内訳は短編6作、中編1作、そして長編を1作(!)。
文庫で700ページ超という容量だからできることだね。

本作の収録作はすべて私が大学時代~20代の頃に読んだもの。
何作かは、他のアンソロジーや傑作集にも収録されていたりして
30代以降に再読したものも多い。


「地には平和を」(短編)
デビュー作にして直木賞候補となった作品。
昭和20年8月15日で太平洋戦争が終わらずに、
そのまま本土決戦へ突入した日本が描かれる。
歴史改変ものと思わせて、更にその上をいく。

「時の顔」(短編)
タイムトラベルが可能になった時代。青年カズミを謎の奇病が襲う。
実は彼は、ある調査員が江戸時代から赤子の状態で連れ帰ってきたことが
判明し、奇病の原因もその時代にあると思われた。
カズミの命を救うため、”僕” は江戸時代へと旅立つ・・・
小松左京版「輪廻の蛇」だね。

「紙か髪か」(短編)
ある日突然、世界から ”紙” が消えてしまう。
紙を分解する微生物が発生したためだが・・・
SFお得意の「if」もので、
混乱に陥る世界を描くシミュレーションものでもある。

「御先祖様万歳」(短編)
”僕” の故郷のある小さな山の洞窟が、
突如100年前の世界に通じてしまう。
そこから始まる大小様々な騒動をユーモアたっぷりに描いていく。

「お召し」(短編)
ある日、世界中から12歳以上の人間が消えてしまう。
残されたのは小学生以下の子どもたちが、
必死に生き延びようとする姿を描く。

「物体O(オー)」(短編)
ある日、日本列島の上に巨大な円環状の物体が現れ、
円環の下になった地域(東京を含む)は押しつぶされてしまう。
物体の高さは200kmもあり、ほぼ衛星軌道に達する。
それによって日本は円環の中と外とに完全に分断されてしまう・・・
やがて「日本沈没」や「首都消失」につながる
”巨大災厄もの” の走りだね。

「神への長い道」(中編)
文明が極限まで進歩した遠未来。
病気も貧困も戦争も根絶され、閉塞状況に陥った人類。
主人公は、冷凍睡眠のもとで恒星を渡り、異星の文明に接するが・・・

「継ぐのは誰か?」(長編)
情報のネットワーク化が進み、医学も進歩し、種々の問題や紛争も好転し、
平和な ”黄金時代” が来るのでは、と人々が期待している近未来。
ヴァージニア大学都市で、多くの仲間と共に学ぶタツヤ。
彼のクラスメイトのチャーリィが謎の死を遂げる。
そしてタツヤは、この3か月の間に世界のあちこちの大学で
類い希なIQを持つ学生や若手研究者が死亡していることを知る。
捜査当局に協力して犯人を追うタツヤたちは、
やがて人類文明の陰に、”人類を超えた種” の存在を感じ始める・・・

”人類の行く末” と ”進化” も、小松左京が描いたテーマだった。


読み終わって思ったことだけど、小松が描く未来が
驚くほど的確だったことに驚かされる。

特に「継ぐのは誰か?」で描かれるコンピュータ・ネットワーク社会は
コンピュータの普及とインターネットの発達を予見していたようで
今読んでも、まったく古さを感じさせない。

データをネットワーク上で一元管理し、バックアップも多重に取るとか
いまの「クラウド」を思わせるような描写もあるし。

本作が書かれた1968年は、インターネットの一般利用が始まるよりも
かなり前だよねぇ・・・。だって、私が自宅に
インターネットを引いたのが1998年頃だったんだから・・・

小松の慧眼は、いまさらながら流石としか言い様がない。

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