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明治乙女物語 [読書・歴史/時代小説]


明治乙女物語 (文春文庫)

明治乙女物語 (文春文庫)

  • 作者: 滝沢 志郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/06/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2017年、第24回松本清張賞受賞作。

舞台は文明開化の東京。時代は明治21年(1888年)。

当時、女子にとっては最高学府であったのが、
東京師範学校女子部(お茶の水女子大学の前身)。
高等師範学科3年の野原咲(のはら・さき)、
同じく2年の駒井夏(こまい・なつ)の二人が主人公となる。

特に咲さんは成績優秀、才気煥発、さらに眉目秀麗と
「女子教育の理想形」と評されるほどの完璧超人(笑)。

この年の秋、文部大臣・森有礼は師範学校の講堂で、
学生たちを集めた舞踏会(ダンスパーティー)を主催する。

咲と夏をはじめとする女子部の学生たちも参加したのだが、
校庭の藤棚で爆発物騒ぎが起こり、さらには火事まで発生する。

一方、外務省は11月3日の天長節(明治天皇の誕生日)に、
皇族、大臣、そして各国の外交官等を招いた一大夜会を開こうとしていた。
場所はもちろん鹿鳴館。

しかし、爆弾騒ぎなどから不穏な噂が流れ始め、
そのせいか出席者(特に女性)の集まりが捗々しくない。
女性客が減ってしまっては、ダンスの相手が足りなくなってしまう。

そこで、足りない踊り手を補うべく師範学校女子部の学生たちも
夜会へ招かれることになったのだが・・・


まずは、登場するお嬢さん方が元気だ。

成績優秀で、ある程度の資産があって、かつ親の理解がなければ、
女子が勉学の道に進むことができなかった時代。
そんな少女たちを、日本を背負う人材にするために国家が後押しする。

彼女たちもそういう期待は十分に承知で、
意欲と才気にあふれた勉学生活を送っている。
とは言っても年頃の女の子であるから、ガールズトークも盛ん(笑)。

なかでも咲と夏は、男子に伍して生きていく決意を胸にしている。

そんな女性に対して、世間の(特に男性からの)風当たりは強い。
「女に学問は必要ない」という価値観も根強いし
「早く嫁に行け」という親類縁者からのプレッシャーもあるし、
舞踏会では男性客からのセクハラも受けたりする。

しかしそんなものに負けない、彼女らの気丈さも綴られていく。

陸軍大臣大山巌の夫人・捨松とか
その実姉で師範学校女子部の寄宿舎舎監の山川二葉(ふたば)とか
実在の女性も登場するが、単なる顔見せでなく
女性が自らの意思を持って生きていくのが難しい時代での
咲たちの ”先輩” としても描かれている。

物語のもう一つの流れとして、爆弾騒ぎを引き起こしている一団がある。
謎めいた人力車夫の久蔵(きゅうぞう)にまつわるストーリーにも、
明治の時代ならではの女性の悲哀がある。

終盤の鹿鳴館における舞踏会のサスペンスはあるものの、
全体としてミステリ的な要素は希薄。
才媛たちの華麗なる冒険探偵譚を期待して読むと当てが外れるかな。

咲と夏(と彼女の学友たち)の前に、旧弊な価値観の壁が立ちはだかる。
男性から面と向かって侮られたり貶されたりする場面もある。
(男の私にはいささか居心地が悪いが)
そんなものに負けず挫けず、奮闘していく彼女たちの姿を
素直に応援するのが正しい読み方なのだろう。

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