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サナキの森 [読書・ミステリ]


サナキの森 (新潮文庫)

サナキの森 (新潮文庫)

  • 作者: 彩藤 アザミ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2014年の第1回新潮ミステリー大賞受賞作。

主人公は荊庭紅(いばらば・こう)という27歳の女性。
大学卒業後にいったんは教師になったものの、
辞めてしまって現在はニート。

100歳を超えていた祖父が亡くなり、遺品を整理していた紅は
本棚から『サナキの森』という怪談小説を発見する。
売れない小説家だった祖父が、60年ほど前に書いたものらしい。
さらに、その本に挟まれていた封筒は紅へ向けた ”遺言” だった。

「遠野市の佐代(さよ)村にある祠に隠してある鼈甲の帯留めを見つけて、
 じいちゃん(自分)の墓へ供えてほしい」

佐代村を訪れた紅は遺言にあった祠を探るが、帯留めは見つからない。
しかしそこで村の旧家・五条家の娘である
中学生の泪子(るいこ)と知り合い、彼女から意外な事を聞く。

泪子の曾祖母・龍子(たつこ)が亡くなったとき、彼女の遺品の中から
見つかった手紙は、紅の祖父が出したものらしい。

そして80年前、龍子の姑にあたる女性が密室の中で殺されていた・・・

物語は、この現代のパートと、紅の祖父が書いた小説『サナキの森』が
交互に語られていく。

この『サナキの森』は怪奇幻想ホラーなのだけど、
<冥婚>という旧習が描かれている。

未婚のまま亡くなった男性を哀れんで、”妻” をあてがうというもので
絵馬や人形で済ますこともあるが、
生きた若い娘を本当に妻にしてしまうこともあったという。

この『サナキー』で扱われる<冥婚>では、
”妻” となった女性は、”婚姻” が済むと、生涯、”婚家” から
外へ出ることができないというなんとも凄まじいもの。

この<冥婚>で嫁いできた女性のモデルこそ、泪子の曾祖母の龍子。
紅の祖父は、この小説で何を描こうとしたのか・・・

横溝正史的な伝奇ミステリに、27歳の紅と14歳の泪子が立ち向かう。
キャラが立ってる二人の掛け合いが面白くて、楽しく読み進められる。

一方、『サナキー』のほうは、なんと旧仮名遣いで書かれていて
ちょっと読むのに難儀(笑)だが、
こういうおどろおどろしい雰囲気は好きなので気にならない。

探偵役となるのは紅でも泪子でもなく、”陣野せんせー” なる人物。
紅が高校生の時に通っていた美術系の予備校の講師で
彼女はこの ”陣野せんせー” に片思い中だ。
計算すると10年くらいになるので、なんとも一途なことである(笑)。


トリックとかに目新しいものはないけれど、
ストーリーテリングが巧みなので、
最後まで興味を持って読み終えられる。
この作家さん、もう何冊か読んでみようかと思っている。


最後にどうでもいいことを。

作中、紅は「私は ”陣野せんせー” にフラれた」って言ってるけど、
そんなことはないんじゃないかなぁ。

好きでもない女の子と1時間もの長電話はしないだろうし
わざわざ現地まで行って事件を解決したりしないだろうし。

でも、”せんせー” の方にも、
なかなか積極的になりにくい事情はあるよなぁ・・・

・・・というふうに私は読んだんだけど、
そのあたり、読者に想像させる余地を残すのも上手いと思う。

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