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ジェリーフィッシュは凍らない [読書・ミステリ]


ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

2016年、第26回鮎川哲也賞受賞作。

舞台はパラレルワールドのアメリカ。

”我々の世界” では、飛行船は航空機としては絶滅危惧種で、
特殊な用途(広告とか)のために細々と使われているだけだ。
日本でも、普通に暮らしている人なら1年間に1回見るかどうかだろう。

本書の ”作品世界” では、”真空気嚢” という新技術が開発され、
飛行船が身近な交通手段として普及している。

 真空気嚢とは、真空を極軽量の材質で包み込むもので
 要するに飛行船を超軽量化・小型化する技術と思えばいい。

 長編SF「ふわふわの泉」(野尻抱介)にも
 同様のアイデアが描かれている。
 ちなみに、こちらはその新技術によって世界が変貌していく姿を
 発明者の高校生たちとともに追っていくという作品で
 2002年の第33回星雲賞を受賞している
 
 本書「ジェリー-」は、その真空気嚢を用いた飛行船を
 作品舞台の構成要素として取り入れたSFミステリだ。

新技術を用いた飛行船は、その形状から
〈ジェリーフィッシュ〉(クラゲ)という愛称で呼ばれている。
(文庫版の表紙イラストに描いてあるのがこれ)

 上でSFミステリって書いたが、
 〈ジェリーフィッシュ〉以外には架空の要素は
 一つもないので、SFが苦手という人でも全く問題なく読めると思う。

時代は1983年。〈ジェリーフィッシュ〉の発明者である
ファイファー教授とその研究室のメンバーたちは、
新型〈ジェリーフィッシュ〉に乗り込んで
長距離航行の最終試験を開始した。

しかし新型〈ジェリーフィッシュ〉はその途中で消息を絶ち、
やがて雪の山中に不時着している状態で発見される。

不時着地の地元警察署のマリアと九条漣(くじょう・れん)のコンビが
現場に到着すると、そこには搭乗者全員の死体が。
飛行船の船内で殺人事件が起こったとみた二人は捜査を始める・・・


物語は、マリアと漣の捜査パートと、
〈ジェリーフィッシュ〉の船内で次々に起きる殺人を描くパートが
交互に語られ、その合間合間に、真犯人のものと思われる
短い回想シーンが挿入される、という構成。

飛行船内という閉ざされた空間、搭乗員は全員死亡していて、
しかも不時着した場所は雪山の中、しかも崖に囲まれた窪地と
外部からの犯人の出入りはあり得ない二重のクローズトサークル。

ガチガチの本格ミステリで、しかも新人のデビュー作なんだけど
リーダビリティは抜群にいい。
搭乗員が一人ずつ殺されていく船内は暗いサスペンスにあふれ、
マリアと漣の捜査は、一転して明るくユーモアいっぱいに描かれる。

何事もぐうたらでいい加減なマリアのボケに
几帳面で真面目な漣がツッコミを入れる。
息の合った夫婦漫才を見ているようだ。

マリアと漣の掛け合いに笑っているうちに、
読者は〈ジェリーフィッシュ〉開発の裏に
卑劣な陰謀が隠されていたことを知るだろう。

そして最後まで読み終わると、物語の核に
〈ジェリーフィッシュ〉が据えられていた理由も分かる。

読みやすくて分かりやすくて、アイデア/トリックも素晴らしい。
新人賞受賞も納得の作品になってる。

作者は、マリアと漣が活躍する長編をさらに2作発表していて、
こっちも評判はいいみたいだ。
文庫になったら読みます(笑)。

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