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黒猫の回帰あるいは千夜航路 [読書・ミステリ]


黒猫の回帰あるいは千夜航路 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の回帰あるいは千夜航路 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

探偵役は〈黒猫〉と呼ばれる青年。
24歳で大学教授になった才人であり、
〈黒猫〉とは彼の恩師がつけたあだ名。誰も本名では呼ばない。
今はパリの大学で客員教授を務めている。

語り手は〈付き人〉と呼ばれる女性。
〈黒猫〉とは大学時代の同級生で、現在は博士課程を終えて
博士研究員となっている。

そんな二人が出会う事件を描くシリーズの第6作で、
前作「-遡行未来」から1年後が舞台となっている。
このシリーズの特徴なんだけど、二人ともなぜか
本名が明かされないまま、今まで物語が進行してきた。


「第一話 空とぶ絨毯」
パリで大規模な交通事故が発生し、〈黒猫〉の安否を気にする〈付き人〉。
そんなとき、〈付き人〉の大学の小柴教授が失踪する。
たまたま大学構内にいた5歳ほどの男の子は、
「おじちゃんが空に昇っていった」と語り、
教授の ”内縁の妻” である舞踏家・今子夏美(いまこ・なつみ)は
「小柴は空飛ぶ絨毯でここを去った」というのだが・・・

「第二話 独裁とイリュージョン」
かつて黒猫と交際していた女性・ミナモが現れる。
人形作家・羽瀬川稗流(はねせがわ・べる)のモデルをしているが
彼女をモデルに製作された人形が盗まれたのだという・・・

「第三話 戯曲のない夜の表現技法」
劇作家・鞍坂岳(くらさか・がく)が亡くなり、お別れの会が開かれる。
その席で、鞍坂が演出を務めていた劇団・螺(ら)の
専属女優・今利舞衣(いまい・まり)は
「私は騙されたんです」と語り始める・・・

「第四話 笑いのセラピー」
〈黒猫〉の姉の冷花(れいか)が語るのは、中学生時代の思い出。
当時13歳だった彼女は、一人の青年と出会い、
一目惚れしてしまったのだが・・・

「第五話 男と箱と最後のセラピー」
四国で開かれるシンポジウムに参加する〈黒猫〉に同行して、
豪華客船<ユイットル号>で旅をすることになった〈付き人〉は
その船上で乙矢奏一(おとや・そういち)という青年と知り合う。
彼の不可解な言動に不吉なものを感じる〈付き人〉だったが・・・

「第六話 涙のアルゴリズム」
著名なジャズ作曲家が24時間で作曲したものと
荒畑瑞子(あらはた・みずこ)教授が開発したAIが
わずか8分間で作曲したものを聞き比べようという
試聴比較実験に参加することになった〈付き人〉だが・・・


このシリーズは、〈黒猫〉がホームズ役、〈付き人〉がワトソン役という
連作ミステリなのだけれど、
この二人の関係の変化を描いていく恋愛小説でもある。

〈付き人〉の視点から描かれる〈黒猫〉は、
同級生から始まり、やがて恋愛の対象へと変わっていく。
それからは、近づきそうでななかな近づかない二人の仲を
やきもきしながら過ごしていく、”片思い” な日々。

離れて暮らす二人の前に起こる個々の事件の展開や真相よりも、
二人の仲がどう進展していくのかが気になってしまう読者も多かろう。
私もそうだ(笑)。

〈黒猫〉のほうも、彼女を憎からず思っているのは感じられていたが
それが明確に描かれたのが前作だった。

そして1年後の本作、二人の仲にやっと ”決着” がつく。

いやあ長かったねえ〈付き人〉さん。
研究者としての自分の行く末も定まらない不安に加えて
のらりくらりしてる男を追いかけるのはさぞかし大変だったでしょうな。

本書で「第一期・完結」らしい。
いつの日か第二期が始まるのだろうけど、
立ち位置が変わった二人がどんな風に登場するか楽しみになる。

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