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ゴーグル男の怪 [読書・ミステリ]


ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★

東京を深い霧が覆った夜、タバコ屋で老婆が殺された。
たまたまタバコを買いに来た客が老婆の死体を発見し、
さらにゴーグルをつけた謎の男を目撃する。
しかもゴーグルの中の目もその周囲も、真っ赤に染まっていたという。

物語は、この殺人事件を追う刑事の行動と並行して
原子力関連企業・住吉化研の敷地内で起こった臨界被曝事故が語られ、
さらに ”ぼく” という一人称で、幼児期に性的暴行を受けたために
精神的に不安定なものを抱えた青年の、前半生が綴られていく。

”ぼく” は成長して大学に入り、卒業後に住吉化研に入社して
臨界被曝事故に遭遇するのだが・・・


まず、読んでいて気になるのは、
「原子力」や「核物質」というものに対する描写。

作中の事故のモデルになったのは、1999年に茨城県東海村の
住友金属鉱山の子会社JCOの核燃料加工施設で発生した
原子力事故(臨界事故)だろう。
この事故で3人の作業員が大量の放射線を被爆、
懸命の治療の甲斐なく、2人の命が失われたものだ。

主な死因は放射線によって遺伝子が傷つき、
細胞再生ができなくなったことによるもの。
本書でも、住吉化研の作業員が臨界事故で被爆し
JCO事故と同様の症状に陥るのだけど、その容態の凄まじさが
これでもかとばかりに事細かく描写されていく。

その中で、杜撰な管理をしていた会社の責任を厳しく糾弾し、
さらには原子力政策を推し進める国家・政府への攻撃も激しい。

さて。

作者が原子力政策に対してどのような考えを持とうが自由だし、
それを文章にして表現するのも自由だ。

ただ、それをミステリのフィールドでされてしまうと
戸惑ってしまう。読者はそういう作品を望んでいるのかな?

 そういう主張はどこか別のところでしてくれよ、って思うんだが
 こういう内容をそのまま書いても、読んでくれる人は少ないだろう。
 ならばミステリの形にすれば、もっと多くの人に読んでもらえる。
 たぶん、そう思ったのだろうけど・・・

ミステリを構成する材料の一つとして取り上げたのだろうけど
その ”材料” への言及が過ぎるのではないかなあ。
本書の、特に中盤までの構成では原子力批判がメインになっている。

最終的には本格ミステリとして決着するのだが
前半の原子力関係のインパクトが大きくて、
ミステリとしての解決がかすんでしまいそうである。

さんざん引っ張った ”ゴーグル男の正体” も、
いささか肩透かしな感が・・・


社会派ミステリの秀作として評価する人もいるかも知れないが、
少なくとも、私の読みたい島田荘司は、
こういう作品じゃないんだよなあ・・・

nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-12-07 23:28) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-12-07 23:28) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-12-07 23:29) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-12-08 23:56) 

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