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落日の門 連城三紀彦傑作集2 [読書・ミステリ]


落日の門 (連城三紀彦傑作集2) (創元推理文庫)

落日の門 (連城三紀彦傑作集2) (創元推理文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/12/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

最近、連城三紀彦の作風を見事に言い表した文章を発見した。

広澤吉泰(ひろざわ・よしひろ)氏による
『ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選001』(講談社文庫)の
解説のなかで紹介されているもので、引用元(出典)は
『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』(浅木原忍)から。

「大胆極まりない逆説と構図の反転、
 驚天動地のホワイダニット。
 それらを支える、あまりにも過激すぎる奇想。
 それらを流麗な美文によって作品世界を取り囲み、
 極度の人工性を隠蔽する類い希な小説技巧」で創り上げられている、
とある。

いやあこれ以上、何も付け加えることはありませんね。

傑作集の2巻目である本書には16編が収録されている。
○がついてるのは、今回初読のもの。他は短編集やアンソロジーで既読。

「ゴースト・トレイン」
意外なことに赤川次郎と連城三紀彦は同い年なのだという。
雑誌の企画で、お互いが相手の作品を材料に
短編を書き下ろすという趣向で発表されたもの。
連城は赤川の「幽霊列車」のヒロイン・永井夕子を自作に登場させ、
こちらも一人の男の記憶に残る ”幽霊列車” の謎を彼女に解かせる。
赤川次郎の「幽霊列車」のほうも読んだはずなんだけど、
よく覚えてないんだよねぇ・・・でも、こちらの夕子さんの方が
ちょっと謎めいた感じで色っぽいと思う(笑)。

○「化鳥」
幼女が橋の上から川に落下するのが目撃され、やがて溺死体で見つかる。
嘆き悲しむ母親の元へ一通の手紙が届く。差出人の名はなく、
”女の子を殺したのは、私の飼っている一羽の鳥です。”
という書き出しから、差出人である女の半生が語られるが・・・
読むほどに恐怖感が増していくホラー。こういうものも書くのですね。

○「水色の鳥」
新しく恋人を見つけた母。離婚を告げられた息子は中学2年生。
父もまた、既に再婚する相手を見つけていた。
息子はそんな両親の間を行きつ戻りつ、成長していく。
家族小説、なのかな?
すくなくともミステリではないのは間違いない(笑)。

○「輪島心中」
夫の浮気に腹を立て、プチ家出をした有子は
能登半島の輪島へと向かう列車の中でストリッパーの女と出会う。
彼女は、今付き合っている男から
一緒に死のうと言われているのだという・・・
これもラストで意外な展開が。


次の「落日の門」から「火の密通」までの5作は、
二・二六事件を題材に描いた連作短編。

 ちなみに二・二六事件とは、昭和11年(1936年)2月26日に起こった
 陸軍将校たちによるクーデター未遂事件である。
 総理大臣を含む複数の閣僚たちが襲撃を受け、
 多くの死者・負傷者が出た。政府は彼らを「反乱軍」として鎮圧し、
 首謀者たちの多くは銃殺刑に処せられている。

○「落日の門」
”決起メンバー” の一人、村橋はある日突然、首謀者の一人である
安田から「裏切り者」と罵られ、決起から外されてしまう。
村橋が襲撃対象の閣僚の一人・桂木謙太郎の娘・綾子と
交際していたからである。
自宅で鬱々と過ごしている村橋のもとへ綾子が訪ねてくるが・・・

○「残菊」
昭和33年、売春防止法が施行されて吉原の遊郭は軒並み廃業と決まる。
そのひとつである「菊浪」もまた、施行の前に店を閉めることにした。
そこへ、反物の行商人として出入りしていた女性・ミネが現れ、
最後に来た客の相手を私にさせてくれ、と言い出す。
ミネの夫は祝言の直後、初夜を迎える前に出征してしまい、
生還はしたものの戦傷で女を抱けない体になっていた。
このまま男を知らずに老いていくのは寂しい・・・と。
女将は彼女の希みを聞き入れ、やがて一人の男が現れる・・・

○「夕かげろう」
”決起” の首謀者の一人、安田一義に死刑判決が下る。
一義の弟・重希(しげき)はその知らせをもって兄嫁の保子に会う。
しかし保子は言う。一義が一番愛していたのは新橋の芸者・梅吉だと。
そして保子は、今では重希のことを愛しているのだと・・・

○「家路」
新潟の旧家に生まれた根萩(ねはぎ)岳史は、ある ”病気” のために
生後すぐに実家から遠ざけられ、ずっと東京で過ごしてきた。
63歳を迎えた岳史は、5歳年上の兄・貞夫が危篤との知らせを受け、
新潟に向かうが、岳史の胸にはある ”疑惑” があった・・・
うーん、この話の根底になる設定は、流石に無理があるような気も。

○「火の密通」
陸軍下士官の藤森は、生後すぐに母を喪い、天涯孤独の身となっていた。
士官学校で安田の5期後輩だった彼もまた ”決起” に加わり、
死刑を宣告される。しかし、刑の執行を待つ彼の元へ
”母” と名乗る女が面会に現れる・・・

各話とも一話完結で、「残菊」と「家路」に至っては時代まで異なるが
各編に登場する人物たちには、実は大きなつながりがある。
また、前作の内容を受けての展開もあるので
この5編は、まとめて味わうべき作品群だろう。
(だから本書でも全編を収録してるんだと思う。)


○「それぞれの女が・・・」
年齢も境遇も異なる3人の女、
萩江(はぎえ)・幸子(さちこ)・厚美(あつみ)。
それぞれが嫁姑の確執や愛人とのトラブルを抱えているさまが
個々に描かれていくうちに、それぞれのピースがかっちりハマって
一つの絵になっていく。これもなかなかの技巧。

「他人たち」
中学生ユイ子の家族は、同じマンションの別の部家に暮らしている。
母は隣に、兄は下に、祖父は上に、父は・・・多分どこかの部屋に。
ユイ子は祖父に上手く取り入り、兄を貶め、
そして両親を離婚に追い込もうとする。
そんな恐ろしい女の子の話なんだが、
彼女をそういう風に追い込んだのは、その家族なのだね・・・

○「夢の余白」
息子・達夫の嫁である敦子と、孫の養育を巡ってなにかと対立する光江。
その光江のもとへ、達夫の愛人と名乗る女から電話がかかってくるが。
視点人物が次々と入れ替わり、思いもよらない結末へ。

○「騒がしいラヴソング」
返還前の香港に滞在していた日本人の ”俺” は、
友人の柳仔(ラウチャイ)と共に訪れたライブハウスで
ユンリンという女性と知り合う。
彼女と一緒にタクシーで向かった先は、なぜか病院だった・・・

○「火恋」
新聞社に勤めていた呉真偉(ウ・チェンウェイ)は、
天安門事件をきっかけに政府から追われる身となり、
妻の秀文(シウウェン)を置き去りにして台湾へ渡った。
そして20年。台湾で新たな生活を築いていた真偉に、
日本人ビジネスマンのヤスダから秀文の消息がもたらされる。
香港の対岸である深圳(しんせん)で暮らしているのだという。
ヤスダを通じて秀文が会いたがっていることを知った真偉は
香港で彼女に会うことを決意する。中国への返還が間近に迫り、
今を逃すと、もう会うことはできないだろう・・・
ここでも終盤の逆転が鮮やか。

「無人駅」
新潟の無人駅で降りた一人の女。
彼女を乗せたタクシーの運転手・大島は、彼女の言動から
15年前に強盗殺人を起こした指名手配犯との、
何らかのつながりを感じ取る。
知らせを受けた刑事は、彼女の後を追い始めるが・・・

「小さな異邦人」
一代(かずよ)の母は、彼女を産んで間もなくなくなった。
その後、父は秋彦という男の子を連れた女性と再婚、
二人の間には三郎、龍生(たつお)、奈美、晴男(はるお)、雅也、弥生と
続けて子が生まれ、8人兄妹となってしまった。
しかしその直後に父は事故死してしまい、
それから母は昼夜の別なく働いて8人の子どもたちを育ててきた。
そんなある日、母の元へ一本の電話がかかってくる。
「子どもの命は俺が預かっている。返してほしければ三千万円用意しろ」
しかし子どもたちは一人も欠けず、8人全員がそろっていた・・・
この ”誘拐された子ども” が誰なのか、これは分からないよなぁ。

巻末には、作者が『キネマ旬報』に寄稿したエッセイから5本を収録。

「トリュフォーへのオマージュ」「原作・衣笠貞之助」
「『ラストシーン』は永遠に」「『MUGO・ん 色やねん』」
「地上より永遠に」

作者が描く物語には、映画が多大な影響を与えていることがよくわかる。
ただまあ、このエッセイで挙がっている作品は
私はほとんど観たことがないものばっかりなのだよね・・・

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