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魔法使いと刑事たちの夏 [読書・ミステリ]

魔法使いと刑事たちの夏 (文春文庫)

魔法使いと刑事たちの夏 (文春文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★

刑事・小山田聡介は父・鉄二と二人暮らし。
その小山田家に、新たな同居者が加わる。メイドのマリィである。
外見はごく普通の十代の少女だが、実は彼女は魔法使いだった・・・
というわけで「奥様は魔女」ならぬ「メイドさんは魔女」。

 うーん、「奥様は魔女」って言っても知らない人も多かろう・・・

聡介が取り組む事件に毎回介入し、
容疑者(犯人)に魔法を掛けて自白を引き出してしまう。
しかし、魔法で犯人が分かっても逮捕はできない。
かくして、聡介の奮闘が始まる・・・というシリーズ。


「魔法使いとすり替えられた写真」
月丘夢子は芸能事務所〈ムーンヒル〉の社長。
所属俳優の片瀬勇樹は近頃人気急上昇中で大スターへもう一歩。
しかし芸能カメラマンの藤崎が片瀬のスキャンダルをつかんでしまう。
片瀬を守るために夢子は藤崎を殺害するが・・

「魔法使いと死者からの伝言」
建設会社社長・岩代のもとを訪れたのは、一級建築士の飯島。
飯島の父は、岩代の会社が過去に行っていた
阿漕な商売の犠牲となって命を落としていた。
飯島は岩代を殺害していったん現場を離れるが、
翌日、凶器のナイフ(父の形見)を回収するために
ふたたび岩代邸にやってくる。そこで発見したのは、
岩代が血で書いたダイイングメッセージだった・・・
うーん、ラストのオチはちょっと疑問。

「魔法使いと妻に捧げる犯罪」
ミステリ作家・早乙女勝也は、ヒット作に恵まれず家計は火の車。
妻・典子の叔母・松浦マキ子は資産家で、
彼女の死亡保険金の受け取り人が典子だった。
勝也は、アリバイ工作をしてマキ子を殺害するのだが・・・

「魔法使いと傘の問題」
資産家の松崎が所有するテナントビルで
紳士用品店〈チャーリー〉を営む篠塚。
しかし松崎はビルの建て替えを決め、
〈チャーリー〉の立ち退きを要求してきた。
篠塚は再考を求めるが受け入れて貰えず、
思い余って松崎を殺してしまうが・・・


魔法というある意味 ”掟破り” の要素を取り入れてるんだけど
謎解き部分は至って正統的。
とはいっても、従来のミステリでは、
探偵役があくまでも推理/推定で行動するのに対し、
このシリーズでは ”確信して” 行動できるという違いはあるが。

とはいえ、最後に犯人を追い詰めるのは犯行時のミスや不合理な証言など、
聡介が自分の推理で到達したものばかり。

ミステリ部分はきっちりと作られていて、
犯人に引導を渡すシーンでは「なるほど!」と思わせる。
極端な話、マリィがいなくてもミステリとして成立するだろう。

ミステリ部分と同じくらい、いやそれを上回るくらい
描写が厚いのが、登場するキャラクターたち。

主人公の聡介からしてドMで熟女好き。
彼の憧れであるアラフォーの上司・椿木綾乃警部は
事件の関係者の中から金持ちのイケメンを見つけて婚活しようとする。
捜査陣がこうだから、事件の容疑者(犯人)たちも
それに振り回されてコミカルな言動をしてしまう。

聡介の父・鉄二がまたロリコンのスケベじじいで、
毎回手酷ししっぺ返しを喰らいながらも
マリィへのちょっかいを止めない(笑)。

 結局、魔女であるマリィが人格的にはいちばんまともなのかも知れない。

マリィがいなくてもミステリになるかも知れないが、
物語としては圧倒的にこちらの方が面白いだろうな。

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