SSブログ

メルカトルかく語りき [読書・ミステリ]

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/15
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

メルカトル鮎といえば、作者のデビュー作『翼ある闇』で登場し、
それがそのまま ”最後の事件” となってしまった探偵役。
自ら ”銘” 探偵と名乗るほど、推理力は飛び抜けているのだけど
傍若無人、傲岸不遜な性格なので敵も多かろう。
”あんなこと” になってしまったのかも、身から出た錆かも知れない(笑)。

ということは、それ以後に発表されてるメルカトルものは
みな『翼ある闇』事件以前のはずなんだが、さてどうだろう。
”あんなこと” になってしまったのが
本物のメルカトルとは思えない気もする。

閑話休題。

本書はメルカトル鮎が、友人の作家の美袋三条をお供に
(というより引きずり回して)活躍する5作収めている。

予め書いておくが、とんでもない変化球、いや大暴投だらけだ。
いわゆる ”普通の” 本格ミステリを期待すると裏切られる。
ミステリの「枠を超えた」どころではなく、
「枠をぶち壊した」作品ばかり(おいおい)。
人によっては怒り出すかも知れない。


「死人を起こす」
6人の高校3年生が、8月の終わりに宿泊旅行に出た。
場所は、かつて外国人が所有していた空き別荘。
しかし到着した夜、メンバーの一人の男子学生が2階の窓から転落、
庭石に頭を打ちつけて死亡しているのが発見された。
一年後、残りの5人はそれぞれ大学生や浪人生となった。
彼らは亡くなった学生を偲んで、再び現場となった別荘へやってくる。
集まりを呼びかけた学生は一年前の ”事件” を解決するため、
探偵を呼んだという。しかしその呼ばれた探偵・メルカトルの
到着と同時に、もう一人の死体が発見される・・・
いやあ、この結末はいろんな意味で驚かされる。
同じオチで他の作家さんが書いたら袋だたきにされそうだが

「九州旅行」
美袋のマンションを訪れたメルカトルは
突如「血のにおいがする」といいだし、ある部屋の前で立ち止まる。
ドアに鍵はかかっておらず、居間には
背中に包丁を突き立てられた男の死体。
被害者の携帯履歴から、恋人の女性が犯人と思われたが・・・
これもとんでもない結末だなあ。美袋くん逃げて~。

「収束」
和歌山県沖にうかぶ小島にやってきたメルカトルと美袋。
島の所有者・小針は新興宗教の教祖となり、
5人の信者と2人の使用人と共にここで共同生活を行っている。
その夜、嵐が島を襲い、翌朝になって小針の死体が発見される。
ここでもまた、メルカトルによって突拍子もない解決法が示される。
人の命より真相を、真犯人を求める。
探偵としては有能なのかも知れないが人間として如何なものか。
でもこれがメルカトルという男。

「答えのない絵本」
メフィスト学園高等部に勤務する物理教師が殺される。
容疑は、当時校舎内にいた20人の生徒にかけられる。
メルカトルが切れ味鋭い推理を展開し、エラリー・クイーンばりに
消去法によって犯人を絞り込んでいくのだが・・・
いやあ、これはミステリでは許されない結末だと思うんだけど。

「密室荘」
信州にあるメルカトルの別荘に泊まった美袋。
しかし翌朝、地下室に見知らぬ男の絞殺死体が。
別荘は内部から完全に施錠されており、従って
犯人はメルカトルか美袋かに絞られる・・・
この解決も、およそミステリではあり得ないもの。
もはやメルカトルは探偵役を ”超えてる” 存在なのだね。


「美袋三条の受難」てタイトルの方が
本書の内容を正しく表してるんじゃないかと思う(笑)。
いやあ、この話以後もメルカトルとつきあってたら、
美袋くんはいつか命を落とすと思うぞ(爆)。

麻耶雄嵩が書いた、探偵役がメルカトルだから、許される話ばかり。
それくらい強烈なクセ球の5連投。
ミステリ初心者にはオススメしません。

nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: