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錆びた滑車 [読書・ミステリ]

錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

女探偵・葉村晶(はむら・あきら)を主人公としたシリーズ。
ここ何年か評価が高まってきて、
ミステリランキングでも上位に入ってくるようになった。
その最新長編。しかも文庫書き下ろしという、財布に優しい仕様(笑)。


葉村はいちおう正式な私立探偵なんだが、
糊口をしのぐために古本屋のアルバイト店員もしているし、
本書では遺品整理を引き受けるなど、
依頼があればなんでもするみたいである。

今回の仕事は、資産家の未亡人・石和(いさわ)梅子の尾行。
御年74歳にして、最近の行動がおかしい。
ひょっとして変なヤツに騙されて、
資産を巻き上げられてしまうのでは・・・
と心配した長男からの依頼である。

その日梅子が訪ねたのは青沼ミツエという、これも梅子と同年配の女性。
しかし二人は、ミツエが所有するアパート〈ブルーレイク・フラット〉の
2階廊下で喧嘩を始め、勢い余った二人は一緒に階段を転げ落ちてしまう。
ちょうど階段下で様子を窺っていた葉村は二人の下敷きになって負傷し、
意識不明になったミツエとともに病院に搬送されてしまう。

青沼ミツエには息子の光貴と孫のヒロトがいたが、
この二人は8ヶ月前に神奈川の遊園地近くで交通事故に遭い、
光貴は死亡、ヒロトもまた瀕死の重傷を負っていた。
しかも事故の衝撃でヒロトは前後の記憶を失っており、
父親と自分がなぜそこにいたのかを思い出せないでいた。

そのヒロトから、父・光貴の遺品整理を頼まれる葉村。

折しも、彼女が住んでいたシェアハウスの取り壊しが決まった。
ミツエの計らいで、葉村は〈ブルーレイク・フラット〉の一室に
臨時で住むことになったが、入居して早々に
〈ブルーレイク・フラット〉が火事になってしまう。

光貴の遺品に触れられたくない何者かによる放火だと睨んだ葉村は、
8ヶ月前の事故の調査を始めるのだが・・・


四十肩と老眼と膝の痛みに悩まされながら捜査を続ける女探偵。
ケガはするわ、住んでるところは追い出されるわ、
火事で焼け出されるわ、さらにはここに書き切れないくらい、
今回もさんざんな目に遭う。

なかなかに大変な状況なのだけど、葉村本人に悲壮感は全くなく、
自らの不運をぼやきながらも挫けずに立ち向かっていく。

葉村の受難は、最近のこのシリーズの ”お約束” でもあるので、
彼女の行動だけを拾っていけばユーモア・ミステリなのだけど
事件の関係者たちが陥る状況は
葉村のそれとは比較にならないくらい悲惨。
そんな事態を引き起こした犯人への怒りもまた葉村の活力になる。

タフな女探偵が、孤独に歩き回って情報を集め、真相に近づいていく。
ハードボイルドなフォーマットではあるけれど
序盤からあちこちにばらまかれたピースが
後半になって、面白いようにカチカチとはまっていき、
次から次へと意外な事実が明らかになって
事件の意外な全貌が導き出されていくあたりはミステリとしても秀逸。
流石だと思う。

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