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Acrobatic 物語の曲芸師たち ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Acrobatic 物語の曲芸師たち ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Acrobatic 物語の曲芸師たち ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

『ベストミステリー2015』を二分冊したうちのひとつ。
以前記事に書いた「Propose 告白は突然に」と対になる本である。


「座敷童(ざしきわらし)と兎と亀と」加納朋子
40代の主婦・兎野のもとに、近所の老人・亀井が相談に訪れる。
彼は先日、妻を亡くして一人暮らしをしていたのだが、
最近、家の中に座敷童が現れるようになったという。しかし、
亀井宅を訪れた兎野が見たのは、3歳ほどの生身の少女だった・・・
なぜ少女の姿が亀井に見えなかったのかが、合理的に説明されるのが流石。
明るくほのぼのとした結末は、こちらも心が温かくなる。

「死は朝、羽ばたく」下村敦史
札幌刑務所の門を出てきた主人公・奥村。
彼の前に現れた3人組の少年は、奥村の行く先々で
「こいつは前科者だ」と言い立てて、執拗な嫌がらせを繰り返す。
彼らは出所者を狙って恐喝をする常習犯だったのだ。
何をされても、全く彼らを相手にしない奥村だったが・・・
ミステリ的には、あっと驚く切り返しが待っているのだが、
物語的にはさらにもうひとひねり。これは達者だなあ。

「不可触」両角長彦
ギャンブラー・半崎を主人公にしたシリーズの一編とのこと。
勝負カンの衰えを自覚した半崎は引退を考えるが
かつての友人・中沢からの手紙が届く。
中沢が勤務していた会社の社長が、謎の少年に入れ込んでいた。
少年は闇賭博のロシアン・ルーレットで無敗を誇り、
中沢もまた少年と勝負し、敗北を喫していたのだ。
ちなみにロシアン・ルーレットとは、拳銃に1発だけ弾を込め、
こめかみに向けて引き金を引く。これを1対1で交互に繰り返すこと。
半崎は中沢のために、少年に対して引退前の最後の大一番として
ロシアン・ルーレットの勝負を挑むが・・・
うーん、私はこの手の話は苦手だなあ。

「ゆるキャラはなぜ殺される」東川篤哉
烏賊川(いかがわ)市最大のイベント、『烏賊川市民フェスティバル』。
そこで行われた「ゆるキャラコンテスト」に参加する
<ハリセンボンのハリー君>(の、中の人)が殺される。
容疑者は、他のゆるキャラたち、<巨大烏賊の剣崎マイカ>、
<川魚のヤマメちゃん>、<緑亀の亀吉>、<毛蟹のケガニン>、
<巨大鷲のワシオさん>に絞られる(おいおい)。
安定のユーモア・ミステリ。私立探偵の鵜飼はほとんど観客で、
実質的な探偵役のマイカ嬢の引き立て役。
ラストシーンは「カリオストロの城」の峰不二子ですかね。

「ゴブリンシャークの目」若竹七海
多くの不動産を有する資産家・箕作(みつくり)家の
当主にして生き残りのハツエは齢八十を超えているが
自らの足で歩き回り、店子から家賃を徴収して回っている。
そのハツエがひったくりに襲われ、
所轄署の刑事、田中と砂井が捜査にあたる。
ハツエの証言で、犯人は店子の一人である長沼史郎と判明するが、
お互いが申告した盗難額には50万円以上もずれがあった・・・
これも結末で意外な ”反転技” が冴える。

「カレーの女神様」葉真中顕
大学生の淳平はたまたま開店初日のカレーショップへ入った。
若くて美人の店主の作るカレーを食べた淳平は驚く。
彼が3際のとき、母が作ってくれた ”特製カレー” の味と
そっくりだったのだ。その母は、特製カレーを作った直後に、
淳平を捨てて失踪してしまっていたが・・・
成長して、自らカレーを作る身になっても、
淳平にはどうしても ”母の味” は再現できないでいた。
淳平に問われ、店主が語った、”味の秘密” とは・・・
序盤から中盤は、ほんわか日常の謎系の ”いい話” に思えるのだが
後半に入り、あれよあれよという間に
物語は予想の斜め上を通り越してはるか彼方へ飛んでいく。
導入部とオチの落差という意味では、ピカイチじゃないかな。

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