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GODZILLA 怪獣惑星 [映画]

G1.jpg

ここ何年か、ゴジラ映画が再び作られるようになってきた。
アメリカに引き続き、去年は本家の日本で「シン・ゴジラ」が。
いずれも実写だったけど、今度は初のアニメーション作品となった。
全三部構成で本作が第一部。第二部は来年5月公開とのことだ。

まずはこの映画の背景設定から。

20世紀末、世界各地に「怪獣」が出現し、
人類はその生存を脅かされるようになった。
なかでも「ゴジラ」は核兵器も通用しない超生物で
他の怪獣たちを凌ぐ暴威をふるい、人類は敗走を続けることになる。

そんな中、地球に異星人が相次いで飛来する。

2035年に現れた「エクシフ」は母星が滅亡し、宇宙を放浪していた。
"他者への献身" を教義とする宗教を信奉しており、
ゴジラの猛威に絶望した人類に新たな精神的支柱を与える。

そして2036年に飛来した「ビルサルド」。
彼らもまた、ブラックホールによって母星を失っていた。
彼らはゴジラを葬ることを条件に地球への移住を申し出る。
そしてそのために、彼らの持つ超技術で
対怪獣兵器「メカゴジラ」を建造するのだが
その起動実験に失敗し、ゴジラに敗れ去る。

人類・エクシフ・ビルサルドの三者による地球連合は
地球外惑星移民を決定し、異星人の技術を導入した移民船が建造された。

主人公ハルオ・サカキは、4歳の時に
移民船「アラトラム号」で地球を脱出、船内時間で20年の後
地球から約12光年離れたくじら座タウeへ到着した。

しかしタウeは人類の生存に適さないことが判明する。
長引く航海に物資は欠乏し、人心は荒廃しており
新たな移住先を見つける前に限界が訪れることは明白だった。
アラトラム号は危険とされる超空間航行で太陽系へ帰還することを決定、
往路より遥かに短い時間で地球に到達するが
亜空間航行の影響で地球では既に2万年の時が流れていた。

・・・というのが、映画の冒頭で断片的に語られるのだけど
ほんとに断片ばかりなので、正直よく分からない(笑)。

特に異星人関係はほとんど情報が開示されないんだけど
基本みんな地球人型で、外見上の差異はエクシフは髪の色と髪形、
ビルサルドは眉毛の形が違うくらいしかないので
知らずに見ていたら異星人と思わないんじゃないかな。

ちなみにここに書いたのは、映画の公式サイトと
wikiに書いてあることをまとめたものだ。
まあ、わからなくても映画を観るのにあまり支障は無いんだけど(笑)。

要するに、2万年後の世界でもやはりゴジラは生き残っていて
地球の生態系の頂点に君臨している。
人類が地球で暮らすためには、ゴジラを倒さなくてはならない。
これだけ分かってれば大丈夫(笑)。

ハルオは、艦内の機密情報に密かにアクセスし、
地球で得られたゴジラのデータを異星人の技術で解析、
ゴジラを倒す戦術案を策定していた。

アラトラム号はハルオの案に従って対ゴジラ作戦を決定、
攻撃部隊を地表の三カ所へ分散降下させるが
ハルオのいる部隊はゴジラの亜種とも言える小型生物
(とは言っても体長10m以上はありそう)の
襲撃に遭い、かなりの損害を出してしまう。

指揮官は撤退を決定するが、揚陸艇が損傷してしまったために
衛星軌道まで戻ることが出来ない。
やむなく分散降下した他の部隊と合流すべく
地表を移動し始めるが、そこへゴジラが現れる・・・


時代設定といい舞台設定といい、今までのゴジラ映画にないものばかり。
当然ながら、できあがった作品のテイストもかつてないものになってる。

監督は静野孔文と瀬下寛之、
アニメーション制作はポリゴン・ピクチュアズとくれば
これはTVアニメ「シドニアの騎士」と同じ布陣。
実際、映画の前半を占める移民船や宇宙空間の描き方は、
シドニアにも通じる硬質な雰囲気を感じる。

ストーリー原案・脚本は虚淵玄。
人気の脚本家で「魔法少女まどか☆マギカ」で有名なのだが
残念ながら「まどマギ」は未見なんだよねぇ。
(あ、「翠星のガルガンティア」は観たよ。)

作画は全編フルCGであるので、メカの動きはバッチリである。
人間の動きも、「シドニア」第一期の頃は
ちょっと不自然かなぁと思わせるようなところもあったが
第二期ではかなりこなれてきたし、本作ではもっとよくなってきたかな。
観ていて違和感を感じるところはほとんどなかったように思う。
(まあ、観ている側がフルCGアニメに慣れてきたせいもあるのかな)

問題なのはCGゴジラだが、ずっしりとした重量感をもった
描き方をされていて、これもうまくいっていると思う。

物語は、よく言えばハード。悪く言えば暗い。

まず "遊び" がない。
例えば、おちゃらけたキャラがいないし
ギャグシーンは皆無と言っていい。
登場人物が笑いを見せるシーンも記憶にない。

主人公ハルオを巡る恋愛描写もほぼ皆無。
もっとも彼は地球脱出直前にゴジラの襲撃で両親を失っており、
そのこともあってゴジラ殲滅にすべてを賭けているので
そういう要素が入り込む余地が(第一部の段階では)ないとも言えるが。
ハルオの幼なじみでユウコというキャラが登場しているので
彼女といずれそういう関係になるのかも知れない。

後半戦はホバーバイクに多脚戦車、そしてパワードスーツと
未来兵器を駆使した人類とゴジラの、まさに "肉弾戦" を
迫力たっぷりに描いていてこれも今までのゴジラ映画にはなかったもの。
人類側は、人的にも物的にも多大な損耗を被りながら、
一歩ずつゴジラを追い詰めていくのだが・・・

とまあ、いくら "人類の存亡" をかけた物語だといっても
90分間息の詰まるようなシーンばかりでは観ている方が疲れる。

「面白い」とは思うが「楽しい」映画ではないなあ。今のところは。

「シン・ゴジラ」を観て、それがきっかけでゴジラ映画に興味を持って
本作を見に来た人がいたとしたら、まるっきりテイストが異なるので
ちょっと当てが外れるというか、
期待と異なる映画になってるかも知れない。

ファミリーで観るには内容が過酷だし、
デートで観るにはちょっと殺伐としてるように思う。
どの辺を狙ってるのかねぇ?

ちなみに、観客は私と同年代の人々もいたけど
意外と若い女性が多かったかな。多分声優さん目当てだろう。
宮野真守、梶裕貴、小野大輔、櫻井孝宏をはじめとして
イケメンボイスが大挙して出演してるみたいだから。


さて第二部だが、この映画の終わりに
予告編として画像がワンカットだけ挿入される。

G2.jpg
幾何学的な構造物の前に人間たちが佇むイメージなのだが
たぶんこれは地球脱出前に異星人ビルサルドが建造していて
起動に失敗したメカゴジラじゃないかな。
第一部の冒頭でちょこっとだけ画面に出てたような気がしている。
たぶんこれが第二部の "目玉" になるのだろう。

第二部のタイトルは「GODZILLA 決戦機動増殖都市」。
2018年5月公開とのこと。
これもたぶん観に行くと思う。

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バチカン奇跡調査官 ソロモンの末裔 [読書・冒険/サスペンス]


バチカン奇跡調査官  ソロモンの末裔 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 ソロモンの末裔 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する天才科学者の平賀と、
その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。
「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第13弾。
長編としては11作目になる。


政府軍、反体制勢力、イスラム過激派などが入り乱れ、
戦火が絶えない中東地域。
ヨルダンの教会に保護された老人は爆撃での負傷がもとで亡くなるが
その遺品の中に、暗号のような記号がぎっしり書かれた
羊皮紙の束があった。

羊皮紙はバチカンに持ち込まれ、ロベルトによって
暗号ではなく3000年以上前に使用されていた古代文字と判明。
ソロモン王とシェバの女王の交流が記録されていることが判明する。

 ちなみに「シェバの女王」とは一般的に「シバの女王」として有名。
 シェバ王国の所在地はエチオピアにあったという説と
 イエメンにあったという説があるらしいが
 本書ではエチオピア説を採っている。

そんなとき、エチオピアから奇跡調査の依頼が入る。
モーセの十戒を記した石板を収めた "契約の箱" (聖櫃)は、
かつてエルサレム神殿にあったが、
ソロモン王とシェバの女王との間に生まれた子が
その "契約の箱" をエチオピアに持ち帰ったとの伝説があった。
そのため、エチオピアでは『タボット』と呼ばれる
"契約の箱" のレプリカを各教会に祀る習わしがあるが、
そのタボットの一つが奇跡を起こしたらしい。

タボットの上空に、回転する巨大な炎の剣が現れ
その中に智天使ケルビムの姿が浮かび上がったというのだ。

現地入りした二人の前に現れたのは、
学者兼冒険家を自称するマヌエル・パチェッティ。
彼によると、奇跡を起こしたタボットは
既に盗まれてしまって行方不明になっているという。

盗んだのはタボットを守っていた司祭・アボットとその弟ベハイル。
エチオピア正教会はその事実を隠し、
ひそかに二人を追ってタボットを取り戻して
犯人は殺してしまうつもりだとマヌエルは語る。

彼から協力を求められたロベルトと平賀。
三人は犯人たちが通った "巡礼の道" をたどり、
彼らが目指した "栄光の門" と呼ばれる場所へ向かうことになる。

その途中でロベルトと平賀は殺人事件の容疑を着せられたり、
"栄光の門" に辿りついたのもつかの間、
砂漠の真ん中に身一つで放り出されたりとか
とにかく過酷な試練の連続にさらされる。

でもって、毎度のことながら驚かされるのは平賀くん。
絶体絶命かと思われた砂漠での放置プレイも
何とか切り抜けてしまうんだから彼のサバイバル能力の高さには恐れ入る。
ただの科学オタクではないのが実証されて誠に目出度い(笑)。

そして、今回のメインゲストとなる元シエナ大学准教授マヌエル。
TVではヤラセ満載の探検番組で隊長役を務めたりとか
吉村教授と川口浩を一人二役でこなしているような胡散臭さ100%の男。
(「川口浩探検隊」なんて今の若い人は知らんだろうなぁ)
口がよく回る上にへんに愛嬌があって、堂々の怪演ぶりである。

ソロモン王とかシェバの女王とか "契約の箱(聖櫃)" とか、
伝奇小説の世界ではおなじみの "用語" が頻出し
クライマックスではインディ・ジョーンズばりの展開もあって、
「いつもより余計に冒険しております」(笑)
 ↑by 海老一染之助・染太郎 (これも若い人は知らないだろうなぁ)

毎回恒例の、奇跡についての謎解きというかこじつけ(笑)というか
平賀くんによる "解釈" が語られるけど、
細かい整合性とかリアリティよりは「考えるな、感じろ」(爆)の世界。

毎回書いてるがこのシリーズでは、小難しいことは考えずに
壮大なスケールでの "ほら話" を楽しんだもん勝ちだ。

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総閲覧数110万に到達しました [このブログについて]


昨日、2017年12月4日に本ブログは
総閲覧数110万に到達いたしました。

20171204.jpg
100万到達から4ヶ月あまりと、
本ブログ始まって以来の超高速での達成となりました。

今回はひっそりと、ささやかに喜びたいと思います(笑)。
訪問していただいている皆さん、ありがとうございます。

これからもマイペースで続けていきたいと思います。
お時間があれば、また MIDNIGHT DRINKER を
のぞきに来てください。

よろしくお願いいたします。m(_ _)m

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露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 [読書・ミステリ]


露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は日露戦争が終結して間もない頃、
山中晴彦はヨーロッパを巡業中の曲芸師一座に転がり込んだ。
家事一切を引き受けることを条件に
一座の敏腕番頭・片桐孝介と同居をはじめることに。
そんな二人が、パリを舞台に起こる事件を解決するべく
奔走する姿を描く連作ミステリ。

前作のラストで、ある事情から
晴彦は孝介の元を離れて日本へ帰国したが、
3年半ののちフランスへ戻ってきた。
本書は、パリへ到着した列車から晴彦が降りる場面から始まる。

「第一章 光と影」
孝介に再会したのも束の間、晴彦は仕事に引き込まれる。
パリの大人気女性ダンサー、オンブルの依頼は
孝介たちの一座のパトロンの一人、マダム・モロワに近づくために
彼女の趣味・好みについて教えて欲しいということだった。
謎の修道女が現れたり、当時ヨーロッパで大人気だった
飛行家サントス・デュモンの名が出てきたりと
パリが舞台ならではの物語が展開する。
孝介と晴彦の掛け合いも相変わらずで、前作の雰囲気そのまま。
読者もすんなりと入り込めるだろう。
ちなみに、本文の記述によると本書の時代は1909~1910年頃になる。

「第二章 オスマンルビーの呪い」
人気ダンサー・オンブルの舞台衣装を手がけるリュシアン・ガレは
パリでも指折りの人気デザイナー。
ある日、ブーローニュの森で派手な宣伝イベントをぶち上げる。
最新流行のドレスを着たマヌカン(モデル)たちが
麦わらを満載した馬車に乗って現れ、
集まってきた観衆に対して無数のルビーをばらまいたのだ。
使用したのは売り物にならない屑石ばかりだったのだが
その日以来、パリでは藁を積んだ馬車に対する放火が頻発する。
孝介の推理によって、騒ぎの裏に隠された "ある計画" が暴かれていく。

「第三章 露西亜の時間旅行者」
巴里に現れたロシア人、セルゲイ・エピファーノフは
自らを「時間旅行者」と名乗った。
フランスでノーベル賞と並び称される賞であるペルーズ賞の
受賞者発表の前日、彼が提出した紙片には
全受賞者の氏名が記載されており、それがすべて的中していのだ。
しかも発表当日、セルゲイは新聞社の最上階の小部屋に籠もっていた。
本書の中でいちばんミステリっぽさが強いが
そのぶん、読み慣れた人ならある程度はトリックにも見当がつくだろう。
でも本作のポイントはそこではなく、なぜセルゲイが
そのようなパフォーマンスを行ったのか、というところ。
オンブルの意外な過去が明かされる一編でもある。

「第四章 遥かなる姫君」
パリで商売を展開する「白浜植木」の社員・川崎から持ち込まれた依頼は
「黄金の雲」と名付けられた美しい百合の自生地を記した地図の探索。
自生地の地図を入手したプラントハンターは事故死してしまい、
その地図は、彼が残した硝子製品のどれかに隠してあるのだという。
孝介の推理は、地図探索の裏に隠された
二人の男の "秘めた想い" も明らかにして
ミステリというよりはラブストーリーの佳品のような印象。

本書の4つの事件はいずれも、謎めいた美女オンブルが主要人物として、
あるいは関係者として登場する。陰の主役と言っていいだろう。

「第四章」で登場する川崎は、高齢である上に健康にも難があって
間もなく日本へ帰国する予定なのだが、その後任として
孝介は晴彦を推薦していたことが明らかになる。
つまり孝介は晴彦を「白浜植木」に就職させようと画策していたわけだが
なぜ晴彦を曲芸一座から遠ざけようとしたのか。
その真意、そして晴彦の選択は読んでのお楽しみかな。

もうちょっと川崎について書きたい。
仕事からの引退を控えた彼は、主役二人とオンブルを除けば、
本書の中で私がいちばん印象深く感じた人物。
多分私とほぼ同年代なのだろうけどそれだけが理由ではない。
男なら、そんな "女性" が一人くらいは心の中にいるものだろうから。

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おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ [読書・ファンタジー]


おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ (メディアワークス文庫)

おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公かつ語り手は名古屋大学文学部4年生、佐々木英子さん。

彼女の弟・翔太は東大法学部へ現役で合格、
財務省ノンキャリアだった父の期待を一身に背負っていたが
交通事故で急死してしまう。

弟の意志を継ぐべく、英子は公務員へ志望変更したものの
上京して訪問した官公庁からは悉く振られてしまう。

失意のあまり、宿泊していた新宿のホテルへ帰る途中、
うっかりと電車を乗越して吉祥寺で降りてしまう。
彼女がそのホームで見たものは、風呂敷包みを背負って歩く、
一見すると "ゆるキャラ" の着ぐるみのような "牛"。

目が合ったとたん "牛" は逃げ出し、思わず後を追う英子。
駅前の商店街に逃げ込み、路地や横町を駆け抜ける "牛"。
気がつけば街は深い霧に覆われ、彼女の前には一軒のカフェ。
看板には「L'ABSENT 紅茶屋 らぷさん」の文字が。
そこで "牛" から当身を食らった英子は気を失う。

カフェの店内で意識を取り戻した彼女の前に現れたのは
平安貴族の直衣(のうし)を着た青年・本多正朝(まさとも)。
そしてそこには "牛" だけでななく "寅(トラ)" までいる。
実は正朝は代々続く陰陽師の家系で
彼の周囲にいる不思議動物たちは "式神" なのだという。

そして、正朝は語る。この店に来る人はみな
「人生を狂わせるほど病んでいる」のだと。そして彼は
そんな人たちのために美味しい紅茶を淹れ、癒しを与えるのだと。
もちろんお茶を出すだけで事態が解決するはずもないので
正朝と式神たちのさまざまな "活躍" がつづられていく。

「第1章 生き残ったダージリン」では英子と父親との確執を解き、
彼女は正朝の "姉" のとりなしで
カフェで「らぷさん」でアルバイトを始めることになる。

続く「第2章 吹き抜けるウヴァ」では
幼馴染の女子高生・ルミの謎の行動に煩悶する文雄くんを救い、
「第3章 祝福のキームン」では
占いにはまって結婚式の延期を言い出した婚約者・正樹の行動に
納得できないOL・小百合さんが来店し、
英子は正朝とともに正樹の抱える "秘密" の解明に乗り出していく。

日常の謎と伝奇風味をミックスしたミステリ、とも読めるが
どちらかというとファンタジー寄りな雰囲気のほうが濃いかな。
謎解きよりも式神の活躍のほうがメインなような気もするし。

優秀な兄弟を持つと何かと比較されて大変だろうと思う。
英子さん自身も一浪とはいえ名古屋大に入ってるんだから
十分大したものだと思うんだけど、親父さんはそう思ってくれないらしい。

その父親と和解した英子さんは、弟の身代わりとしてではなく
自分自身の望む新たな目標を定めて生活を始める。
正朝がカフェを構えているのにも何か目的があるらしいし、
彼の "姉" と称する女性も、井の頭大学の院生という以外は正体不明だ。

本書はシリーズ化されているので、
そちらもおいおい語られていくのだろう。

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貴婦人として死す [読書・ミステリ]


貴婦人として死す (創元推理文庫)

貴婦人として死す (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

名探偵ヘンリー・メリヴェール卿(通称H・M)の活躍する一編。

語り手は老医師ルーク・クロックスリー。
イギリスの海岸沿いの片田舎・リンクームで
同じく医師である息子とともに診療にあたっている。

数学の教授をしていたアレック・ウェインライトは
20歳以上も年下のリタと結婚し、リンクームで引退生活へ入った。

しかし平穏な日々は長くは続かなかった。
二人の住む村にバリー・サリヴァンという青年が現れ、
リタは彼に惹かれるようになってしまったのだ。

ある夜、ルークはアレックの家へカード遊びのために赴くが
彼ら二人の前からリタとバリーが姿を消してしまう。

アレックの家の裏庭から始まる小道はそのまま海まで続き、
そこには<恋人たちの身投げ岬>と呼ばれる崖があった。
そしてその小道に残されていたのは、崖っぷちまで続く二人の足跡のみ。

道ならぬ恋に思い余って身を投げたかと思われたが、
2日後に浜辺に打ち上げられた二人の死体は、
至近距離から心臓を銃で撃ち抜かれていた。

その凶器となった銃がアレックの家から半マイルも離れた
路傍で発見されるに至り、心中事件は殺人事件へと一転する。
しかし、犯人はどうやって二人を殺害したのか?

事件の詳細を手記にしたためていたルーク医師は
警察に協力して捜査に当たるH・Mと行動を共にするようになるが・・・


いわゆる "足跡のない殺人" で、
不可能犯罪の巨匠・カーの面目躍如たる長編である。

メイントリックのキレもいい。解決編に至ると
「ああ、なるほど!」って叫んでしまいそう(叫ばなかったけど)。

しかし本書はそれだけにとどまらない。
真相解明までのロジックもまた冴えている。
犯人の名が明かされると思わず「え?」となるのだけど
そこに至る推理の筋道を辿るとしっかり納得。
伏線もちゃんと張ってあるし「確かにそうだよなあ」と思わせる。

夫であるアレック以外にも、一癖ありそうな村の住人たちや
さらには意外な闖入者も現れて、登場人物(容疑者?)も多士済々。

毎回書いているけど、カーは語りがうまい。
個性的なキャラたちが、事件発生前から解決するまでに
さまざまなイベント(騒ぎ)を引き起こしてくれるので
読者は飽きることなく、最後まで楽しく読める。

例えば、今回のH・Mは足に怪我をしていて歩けない状態にあるんだけど
初登場は、なんと電動車椅子で田舎道を爆走するシーンから(笑)。
それも村の酒場に行きたい一心で。そんなにビールが飲みたいかぁ(爆)。

初期の作品には怪奇趣味が横溢しているんだけど
カーの本領はラブロマンス要素を絡めた
ドタバタ・コメディにあるんだろうと思う。

トリック良しロジック良しストーリー良し。三拍子揃った快作だ。

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怪盗ニック全仕事3 [読書・ミステリ]

 

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D・ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。
そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第3弾で、1977~82年にかけて発表された14編を収録。
話数で言うと第31話~第44話である。

ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。依頼料は二万ドルだが
それと引き換えに彼が盗むのは、貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。

本書でも、およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。
タイトルだけを挙げてみても、それがよく分かる。

第31話「つたない子供の絵を盗め」
第32話「家族のポートレイト写真を盗め」
第33話「駐日アメリカ大使の電話機を盗め」
第34話「きのうの新聞を盗め」
第35話「消防士のヘルメットを盗め」
第36話「競走馬の飲み水を盗め」
第37話「銀行家の灰皿を盗め」
第38話「スペードの4を盗め」
第39話「感謝祭の七面鳥を盗め」
第40話「ゴーストタウンの蜘蛛の巣を盗め」
第41話「赤い風船を盗め」
第42話「田舎町の絵はがきを盗め」
第43話「サパークラブの石鹸を盗め」
第44話「使用済みのティーバッグを盗め」

いずれも、取るに足りないものを盗みにいったニックが
意外な事件に巻き込まれ、謎を解いて事件の裏に潜む陰謀を暴くという
お決まりの流れだが、決まっているがゆえに安心して読めるとも言える。
これが毎回、文庫で30ページほどに綺麗に納まっていて
これを87回繰り返したのだから作者の技量もたいしたもの。
作者は他にもいくつもシリーズをもち、総計したら
生涯で900編の短編を書いてた、なんてまさに超人ですね。

毎回決まったパターンといえども、"サザエさん時空" ではない。
話数が進むにつれて時代は流れるしニックもトシを取る。

ニックと同棲している女性・グロリアは、当初は
ニックの仕事を知らずにいた(政府系の機関で働いてると思ってた)が
本書の中のある事件をきっかけに、ニックの "本職" を知ってしまう。

でも彼女は慌てず騒がずニックの仕事を受け入れ、さらにはこう言う。
「二万ドルは安い。最低でも二万五千ドルは要求するべきよ」
いやはやたいしたもの。さすがはニックのパートナーである。
実際、その3話あとからニックは
仕事料を二万五千ドルに値上げしてる(笑)。

もちろんそんな高額な金額を払ってまで盗みを依頼する人がいるわけで、
本当に価値がないはずがない。
「普通の人には無価値だけれど、特定の人には価値がある」わけだ。

その理由についてはいくつかパターンがある。たとえば
「そのもの自体は無価値だが、付随する要素に価値がある」とか
「そこにあっては依頼人の目的に支障を来すので、
 盗んでもらう(取り除いてもらう)」とか
「盗んできてもらったものを、依頼人が別の目的に使う」とかね。

このシリーズも三冊目なので、パターン別に分類・分析してみると
面白そうだなあと思うんだけど、誰かやらないかなぁ(笑)。

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