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墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]


墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/01/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2012年に発表された短編本格ミステリから、
本格ミステリ作家クラブによって選出されたベスト・アンソロジー。

「バレンタイン昔語り」麻耶雄嵩
"神様探偵" シリーズの一編。
語り手・桑町淳は小学6年生。そして同級生の鈴木は
過去、二回の殺人事件で犯人を言い当てた "神様" である。
淳の同級生・川合高夫は、2年前に
神社裏の池で溺死体となって発見された。
殺したのは誰か?  淳の問いかけに鈴木は
「犯人は依那古朝美だよ」と答えるが、それは淳が知らない名前だった。
しかしその一週間後、転校してきた生徒・依那古雄一の
母親の名が "朝美" だということが判明する・・・
登場人物がみんな小学6年生の割に、思考が大人すぎるのに
ちょっと違和感を感じるが、ミステリとしては切れ味鋭い。
そして何より、主役の淳のキャラがユニークで面白い。私は好きだ。

「宗像くんと万年筆事件」中田永一
他のアンソロジーで既読。
"私" が小学6年生の時、その事件は起こった。
クラスメイトが持ってきた万年筆がなくなってしまったのだ。
そしてその万年筆が "私" のランドセルから見つかった。
犯人とされた "私" はクラスからいじめに遭い、
担任が "私" を見る目も厳しくなった。
しかしその中で一人、宗像くんだけは "私" を信じ、
クラスメイトを廻って情報を集め、ついにはクラス全員の前で
"私" の無罪を立証するべく奮闘するのだが・・・
ミステリなのだけど、心温まる話だ。
初読の時、いつか宗像くんと "私" が再会する話も読みたいなあ、
って書いたのだが、どうやらシリーズ化されるらしい。これは朗報。
ちなみに「中田永一」は、「乙一」氏のペンネームの一つ。

「田舎の刑事の宝さがし」滝田務雄
田舎の警察署に勤務する、黒川と白石という
二人の刑事の活躍を描くユーモアミステリ・シリーズの一編。
地元に伝わる『垂助(たれすけ)の隠し金』伝説。
江戸時代の大泥棒 "花不見(はなみず)の垂助" が、
この地に巨額の財宝を隠したというもの。
垂助が隠れ住んでいたと言われる蒼花(あおはな)山は、
現在その子孫とされる蒼花垂太(たれた)の私有地となっていて
垂助の財宝の実在を信じて捜す研究グループ「垂助会」と
トラブルを起こしていた。そんなとき、
「垂助会」会長・田唐有蔵(たから・ゆうぞう)の死体が発見される。
死因は高所からの転落かと思われたが、蒼花山は小高い丘に過ぎず、
高い崖のようなものはどこにも存在しなかった・・・
ユーモアたっぷりの黒川と白石の掛け合いが楽しい。
このシリーズを読むのはこれで2作目。
どちらも黒川の奥さんってちょっとしか出てこないんだけど
存在感は抜群。どんな人なんだろう。とても興味が湧くなあ。

「絆のふたり」里見蘭
妻に死に別れ、男手ひとつでクリーニング店を切り盛りする英輔。
その父に、親子を超えた愛情を感じている娘・萠絵美。
その英輔が、早苗という女性を連れてきた。彼女と結婚したいという。
しかし早苗の様子に不審なものを感じる萠絵美は・・・
いやあ、このラストが予想できる人はいないんじゃないかなぁ。
恐れ入りました。でも、このエンディングは
本格ミステリというよりはホラーですよねぇ・・・。

「僕の夢」小島達矢
他人の夢に入り込み、その夢を自由自在にコントロールする。
そんな特殊能力を持った "僕" は、大学の講義にも出ずに
「夢占い」の看板を出して、訪れた客の夢の中に入る日々。
そんな "僕" の現在と過去を描いていく。
ミステリというよりは不条理SFみたいな感じ。
こういうのはあんまり好きじゃないなぁ。

「青い絹の人形」岸田るり子
他のアンソロジーで既読。
主人公のゆかりは、大学准教授の父とその再婚相手・美咲との
3人でパリへ旅行に来ていた。
そこでゆかりは自分のパスポートを紛失してしまうが
日本大使館から連絡が入り、パスポートを拾って届けた者がいるという。
受け取りに行ったゆかりは意外な人物に遭遇する・・・
プロローグで撒かれた伏線が、ラストでかっちりと回収されて
切れ味鋭い結末を迎える。
サスペンス・ミステリのお手本みたいな作品。

「墓守ラクマ・ギャルポの誉れ」鳥飼否宇
中東の某国にあるジャリーミスタン刑務所には
世界中から集められた死刑囚が6000人も収監されている。
そこで起こる謎の事件の数々を綴ったシリーズの一編。
囚人の一人、ラクマ・ギャルボは刑が執行された囚人の墓を堀るという
皆が厭がる仕事をすすんで引き受け、周囲からは変人と見なされていた。
そのギャルボについて奇怪な噂が広がる。
刑が執行された囚人の墓を暴き、死体を喰らっていたというのだ。
さらに、噂を確かめようと彼を見張っていた囚人の前で
再び墓を暴いたことにより、
ギャルボは死体損壊の罪で死刑の執行が決定する・・・
なぜギャルボは墓を暴いたのか。
探偵役となる老囚人シュルツによって、
この特殊な場所ゆえに生じる、特殊で意外な動機が明かされる。
鳥飼否宇って、初期の作品は読んでたんだけど、
いつからか離れてしまったんだよねぇ。
でも、このジャリーミスタン刑務所を舞台にした
連作短編集「死と砂時計」(この作品も収録されてる)は
久々に手に入れたので、そのうち読む予定。

「ラッキーセブン」乾くるみ
ある女子高校の生徒会室。そこに集まった7人の生徒。
その7人は、その中の一人が考案した "ゲーム" を
始めることになるが、それがお互いの命を取り合う
サバイバルゲームになるとは誰が予想したろうか・・・
とにかく、ゲームのルールが難しい。
単純そうなんだが考え出すとけっこう大変。
1対1の対戦型なんだが、相手の手の内の読み合い、
どのカードを切っていくべきかの駆け引きが理詰めで語られていく。
このあたりが "本格ミステリ" に通じる論理性なんだろうが
私にはホラーにしか感じられなくて、まったく楽しめない。
やっぱり、この人とは
デビュー作「Jの神話」以来、相性が悪いみたいだ。

「機巧のイヴ」乾緑郎
江戸時代を思わせる世界を舞台にしたSFミステリ。
昆虫や鳥を、機械仕掛けで複製する幕府精錬方手伝・久蔵。
いわばロボット職人だ。その出来映えは、
本物と全く見分けがつかないほど。
その久蔵へ、江川仁左衛門はある依頼をする。
遊女・羽鳥とうり二つの機巧人形を作って欲しい、と。
書き下ろしSFアンソロジー「NOVA」で既読。
SFならではの "オチ" がその時はあまり好きになれなかった。
でも今回、ミステリのアンソロジーの中で再読してみたら、
けっこういけると思ったよ。

「コンチェルト・コンチェルティーノ」七河迦南
冒頭で「佐藤」という姓の看護師が殺されたことが明らかにされ、
本編に入ると時間を戻して、ある病院での
一人の医師を巡る看護師たちの人間模様が綴られていく。
ところが、登場する看護師たちがみんな名前でしか描写されない。
つまり、"誰が殺されるのか" がテーマのミステリなのか・・・?
このあと例によって捻りのあるラストが明かされるのだけど
最後の最後でもう一撃。いやあ参った。

「『皇帝のかぎ煙草入れ』解析」戸川安宣
これは創元推理文庫で刊行された同題のミステリの
巻末に収録された解説文である。
この長編はカーの代表作の一つであるのだけど、
内容の紹介が難しい作品でもある。
だって、この作品の「どこがすごいのか」を未読の人に説明するのは
ほとんどネタばらしをするようなものだからだ。
この文章は「解説」であるから、
本編を読了した人に向けてネタバレを気にする必要なく、
本書の "スゴさ" を微に入り細を穿って "解説" してくれる。
だから、この文章を読みたいと思う人は、まず本編を読みましょう(笑)。

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