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貴婦人として死す [読書・ミステリ]


貴婦人として死す (創元推理文庫)

貴婦人として死す (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

名探偵ヘンリー・メリヴェール卿(通称H・M)の活躍する一編。

語り手は老医師ルーク・クロックスリー。
イギリスの海岸沿いの片田舎・リンクームで
同じく医師である息子とともに診療にあたっている。

数学の教授をしていたアレック・ウェインライトは
20歳以上も年下のリタと結婚し、リンクームで引退生活へ入った。

しかし平穏な日々は長くは続かなかった。
二人の住む村にバリー・サリヴァンという青年が現れ、
リタは彼に惹かれるようになってしまったのだ。

ある夜、ルークはアレックの家へカード遊びのために赴くが
彼ら二人の前からリタとバリーが姿を消してしまう。

アレックの家の裏庭から始まる小道はそのまま海まで続き、
そこには<恋人たちの身投げ岬>と呼ばれる崖があった。
そしてその小道に残されていたのは、崖っぷちまで続く二人の足跡のみ。

道ならぬ恋に思い余って身を投げたかと思われたが、
2日後に浜辺に打ち上げられた二人の死体は、
至近距離から心臓を銃で撃ち抜かれていた。

その凶器となった銃がアレックの家から半マイルも離れた
路傍で発見されるに至り、心中事件は殺人事件へと一転する。
しかし、犯人はどうやって二人を殺害したのか?

事件の詳細を手記にしたためていたルーク医師は
警察に協力して捜査に当たるH・Mと行動を共にするようになるが・・・


いわゆる "足跡のない殺人" で、
不可能犯罪の巨匠・カーの面目躍如たる長編である。

メイントリックのキレもいい。解決編に至ると
「ああ、なるほど!」って叫んでしまいそう(叫ばなかったけど)。

しかし本書はそれだけにとどまらない。
真相解明までのロジックもまた冴えている。
犯人の名が明かされると思わず「え?」となるのだけど
そこに至る推理の筋道を辿るとしっかり納得。
伏線もちゃんと張ってあるし「確かにそうだよなあ」と思わせる。

夫であるアレック以外にも、一癖ありそうな村の住人たちや
さらには意外な闖入者も現れて、登場人物(容疑者?)も多士済々。

毎回書いているけど、カーは語りがうまい。
個性的なキャラたちが、事件発生前から解決するまでに
さまざまなイベント(騒ぎ)を引き起こしてくれるので
読者は飽きることなく、最後まで楽しく読める。

例えば、今回のH・Mは足に怪我をしていて歩けない状態にあるんだけど
初登場は、なんと電動車椅子で田舎道を爆走するシーンから(笑)。
それも村の酒場に行きたい一心で。そんなにビールが飲みたいかぁ(爆)。

初期の作品には怪奇趣味が横溢しているんだけど
カーの本領はラブロマンス要素を絡めた
ドタバタ・コメディにあるんだろうと思う。

トリック良しロジック良しストーリー良し。三拍子揃った快作だ。

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