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監獄舎の殺人 ミステリーズ!新人賞受賞作品集 [読書・ミステリ]


監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

  • 作者: 美輪 和音
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

東京創元社発行のミステリー雑誌「ミステリーズ!」主催の
短編ミステリー大賞の新人賞を受賞した作品を集めた
アンソロジー、その第2弾。

「強欲な羊」美和和音(第7回受賞作)
資産家の真行寺家に生まれた姉妹。
姉の麻耶子は傲慢で強欲。妹の沙耶子は穏やかで慈悲深い性格。
そんな妹に麻耶子は異常なまでの対抗心を燃やし、
沙耶子が手に入れたものはどんな手を使っても
奪い取らなければ気が済まない。
そんな関係は二人が成人しても続き、ついに破局が訪れる。
純真そうに見える妹のほうが実は・・・なんて展開なら
誰でも思いつくだろうが、本作はそのさらに上を行く。
真行寺家の女中を語り手にしたストーリーは終盤において二転三転、
最後はぞっとするようなホラーなエンディングを迎える。
いわゆる、最近流行りの「イヤミス」というものですかね。
うーん、よくできてると思うけど、この手のものは正直言って苦手。

「かんがえるひとになりかけ」近田鳶迩(第9回受賞作)
主人公・ムサシは、ある日突然、妊娠中の女性の胎児として目覚める。
どうやら自分は何者かに殺されてしまったらしい。
胎内で、自分の半生を振り返り、さらに外部の会話を聞きながら
ムサシは自分を殺した犯人が誰なのかを考え始める。
たぶん胎児が探偵というのはミステリ史上初ではないかな。
犯人の意外性ももちろんだけど、
ラストではさらに驚きの真実が明かされる。
振り返ってみれば伏線の張り方も巧みだ。
ユニークな作品なのは間違いないけど、この受賞作の着想が突飛すぎて、
あとが続くのかなあって余計な心配をしてしまう。

「サーチライトと誘蛾灯」櫻田智也(第10回受賞作)
定年を迎えた吉森は、ボランティアで公園の夜間見回りをしている。
今日も無断で公園に入り込んだ昆虫マニア・魞沢(えりさわ)や
挙動不審な探偵・泊(とまり)と押し問答を繰り広げる。
しかし翌朝、その泊の死体が発見される。
ミステリ的な仕掛けには乏しいかと思うが、
ユーモアあふれる語り口で、キャラ同士の交わす軽妙な会話が楽しい。

「消えた脳病変」浅ノ宮遼(第11回受賞作)
脳外科の臨床講義を担当した医師・榊は、
開講早々、学生たちに一つの謎を投げかける。
海馬硬化症という病気で榊のもとへ通院していた女性が、
ある日待合室で意識を失った。
彼女の検査をした結果、脳内の病変部位が消失していたことがわかる。
自然治癒することはない病気であるにもかかわらず。
さて、この現象をどう説明する?
物語は榊と学生たちのディスカッション形式で進んでいく。
さまざまな仮説が学生から提示されるが
ことごとく榊によってひっくり返されてしまう・・・
謎の設定がいささか特殊すぎて、
かえって合理的な解が限られてしまうんじゃないかなぁ・・・
って思ってたんだが、作者もそのあたりはわかっているようで、
メインの謎解き以外に、ラストにもう一つ仕掛けを用意している。
さりげなく「医師とはどうあるべきか」なんて話も盛り込んでいて、
いかにも(いい意味で)医学が専門の人が書いたなあと思わせる作品。
ちなみに、本作でただ一人正解にたどり着く学生・西丸豊くんは
後に医師となり、かつシリーズ探偵となって
他の作品にも出ているとのことだ。

「監獄舎の殺人」伊吹亜門(第12回受賞作)
明治6年、京都の府立監獄舎。
収監されていた平針六五は、政府転覆を目論んだ死罪と決まり、
執行の日を迎えた。しかしその平針が毒殺される。
朝食として与えられた粥に砒素が混入されていたのだ。
捜査に当たるのは鹿野師光。東京の司法省から派遣された裁判官だ。
そして、なぜか司法卿である江藤新平その人までもが
直々に捜査に乗り出しくるという異様な展開。
夕刻に死刑執行される男を、なぜその日の朝に殺したのか。
ラストで意外な動機が明らかになるが、それだけに留まらず
この時代だからこそ成立する、ある "思惑" が語られる。
ひねりが効いていて見事な着地だ。


本書を読んでいて思ったのは
「ひねりのきいたオチ」っていうのはもう当たり前で
新人賞に入るには、プラスアルファが必要なんだなあと言うこと。

たとえば「オチ」が決まったかと思った次の瞬間にさらにもうひねり。
「二段オチ」あるいは「三段オチ」くらいのインパクトがないと
審査員の先生方のお眼鏡には適わないのかもなぁ・・・って思った。

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ホテルモーリスの危険なおもてなし [読書・ミステリ]


ホテルモーリスの危険なおもてなし (講談社文庫)

ホテルモーリスの危険なおもてなし (講談社文庫)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

かつては高級リゾートとして急成長を遂げた<ホテルモーリス>。
しかし副支配人が大手ホテルにヘッドハンティングされ、
スタッフをごっそり引き連れて "移籍" してしまった。

そのショックで支配人が自殺してしまい、業績は急降下。
夫人が後を継いだものの経営経験はゼロ。
廃業まで時間の問題かと思われたホテルに
臨時の支配人として送り込まれたのが本作の主人公・美木准。

芹川コンサルティング社長・芹川鷹一の妾腹の息子として生まれた准は
就職活動をしなくてすむとばかりに父の会社に入ったが
間もなく社長は他界、会社は弟(准から見れば叔父)・鷹次が継ぐ。
准は一転、新社長からすると目の上のこぶとなってしまった。

芹川コンサルティングは<ホテルモーリス>の筆頭株主であったため
名目上は「経営のてこ入れ」、実質は「厄介払い」、
准からすれば「貧乏くじを引かされた」わけだ。
入社一年目の若造でありながら支配人に選ばれたのには
そんな事情があった。

准くんの前にはさらに試練が立ちはだかる。
一般客が遠のいた<ホテルモーリス>は、いつのまにか
"ギャング" 御用達のホテルになってしまっていたのだ。

ちなみに "ギャング" とは、作品中の説明によると
「公正な取引に基づいて殺人・脅迫・恐喝を請け負う企業向け団体」
とのこと。いわゆる "そのスジの方々" ですね(笑)。

現在のホテル利用の大多数を占めるのは<鳥獣会>。
新興著しいギャング集団として知られる。
その<鳥獣会>が近々<ホテルモーリス>で宴会を開くという。
准くんに与えられたミッションは、この宴会を無事に乗り切ること。

ホテルに到着した准くんは、人的にも物的にも荒廃した有様を見て
即刻逃げ帰ろうとするが、そこで "運命の人" と再会してしまう。

5年前、17歳の時に父に連れられて<ホテルモーリス>へ来た准くんは
そのとき出会った20歳の女性・るり子に一目惚れしてしまった。
そして5年振りに再会した彼女は、
自殺した支配人の未亡人にしてホテルのオーナーとなっていた。
彼女への想いが再燃した准くんは、
一転してホテル建て直しに奔走し始めるのだが・・・

働く人々もまたユニーク。
化粧がケバいコンシェルジェ・那美は、
3つも年上の准に対してタメ口をきくし
チーフ・コンシェルジェの日野は
スキンヘッドにサングラスで元殺し屋(!)という経歴。

毎日のように起こる "そのスジの方々" とのトラブルを解決しながら
准くんの恋模様も綴られていき、やがて "その日" がやってくる。

基本的にはコメディなので、肩の力を抜いて楽しめる。
特異な状況下で起こる事件に、エキセントリックな登場人物が絡んで
大騒ぎをする様子を描いたユーモア・ミステリで、
クライマックスでは<鳥獣会>と対立するギャング団体や
准の叔父・鷹次まで登場し、様々な人々の思惑が絡み合いながらも
全てが一挙にカタが着く大団円を迎える。
ラストでは意外な事実が明かされて、仕掛けもなかなか。

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三年坂 火の夢 [読書・ミステリ]


三年坂 火の夢 (講談社文庫)

三年坂 火の夢 (講談社文庫)

  • 作者: 早瀬 乱
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

第52回(平成18年)江戸川乱歩賞受賞作。

文庫で470ページくらいあって、従来の乱歩賞よりちょっと厚みが。
応募原稿の枚数ってどれくらいなのかなあと思って調べたら
現行の上限は400字詰め原稿用紙で550枚。
うーん、どう考えても本書は600枚以上あるような気がするのだが。
10年前はもっと上限が緩かったのか、受賞後加筆したのか。

閑話休題。

変わったタイトルだけど、目次を見ると合点がいく。
「三年坂」という章と「火の夢」という章が交互に並び、
それぞれ異なるストーリーが語られていく。
そして終章が「三年坂 火の夢」というタイトルで、
ここに来て二つの物語は合流し、
ミステリ的謎解きが行われて物語の全貌が明らかになる。

主な舞台となるのは明治33~34年の東京である。

「三年坂」のパートは奈良県に始まる。
内村実之(さねゆき)という旧制中学の3年生が主人公。
兄の義之は成績優秀で旧制一高から東京帝大へ進んだが、
実之の成績は今ひとつ。両親が離縁し、女手ひとつで育てられたが
家計は苦しく、学費の問題もあって進学は難しい。

しかしそんなとき、兄・義之が帝大を中退して帰郷してくる。
しかも腹部に傷を負って。まもなくその怪我が悪化して
義之は他界してしまうのだが、いまわの際に謎の言葉を残す。
「実は三年坂で転んでね・・・」
さらに実之は祖母から意外な話を聞く。
数年前、音信不通だった父が突然現れ、大金を置いていったという。
そしてその金が義之の学費になったのだと。

兄の死の真相、そして失踪した父の手がかりをつかむべく
実之は学友から金を借りて上京する。
いちおう一高を受験するつもりもあった実之だが、
バカ高い下宿に入れられたり、悪徳予備校に捕まったりと
さんざんな目に遭い、受験勉強もままならない。
兄の残した「三年坂」という謎の言葉の意味、
そして父の消息もまた杳として知れないが・・・

「火の夢」のパートはイギリス帰りの予備校講師、
高嶋鍍金(めっき)が主人公。変わった名前だなあと思ったら、
「鍍金」というのは号で本名は別にあるらしい。
彼は本書での探偵役で、同じ時代を舞台にした他の作品にも
出ているらしいので、いわゆるシリーズキャラクターなのだろう。

彼は同僚である予備校講師・立原総一郎から意外な話を聞く。
明治13年から翌年にかけて、東京を襲った4つの大火事。
その裏には、"東京を焼き尽くす" という陰謀があったという。
東京の町並みには、いくつかの "発火点" があり、
そこから火事を起こせば東京全域を灰燼に帰すことが可能なのだと。
そしてまた過去の大火の折には、人力車夫の格好をした男が
あちこちに火を着けて廻っていたという "伝説" が語られていた。
高嶋は立原とともに "発火点" の探索を始めるが・・・


本書の評価は、冒頭に掲げた星の通りなのだけど今ひとつ。
とにかく読んでいてあまりわくわくしないんだなあ。
とくに実之くんがあまりにも頼りなくて。
田舎から来たお上りさんで、初めての大都会に翻弄されてるのはわかるが
「三年坂の探索」と「受験勉強」の両立はどう考えても無理だろう。

読んでるとじれったくなってしまって、胸ぐらつかんで
「まずは勉強に集中して、調べごとは大学に入ってからやれよ!」
って、こんこんと説教したくなってしまう(笑)。

実之が勉強をほっぽり出してまで取り組んでる "探索行” も
ビックリするような展開には乏しい。

これはストーリー全体にも言えて、
先を読みたくなるような盛り上がりを欠いたまま
淡々と進行して終章の謎解きに入る。

探偵役の高嶋鍍金にしても、印象的なのは名前だけで
他の登場人物と比べてもさほど目立ってない気がする。
だって読み終わったあと、どんな人だったか
説明できる自信がない(笑)んだもの。
(まあ私の記憶力にも問題があるのは否定しないが)
シリーズものの名探偵にするのなら、もう少し強烈な個性が欲しいところ。

作者が明治時代の東京の風俗や地理にとっても詳しいのはよく分かる。
実際、よく調べたなあとは思う。
でも、その博識が面白さにはつながってないような気が。
実之の探索範囲に合わせて、所々に当時の地図が挿入されるんだけど、
その地図のどこが大事で、どこに注目していいのかがよくわからない。
作者にはよく分かってるんだろうけど。

作品を産み出すための努力は凄いんだけど、
それがうまく活かされてない気がして、もったいないなぁと思う。

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狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役 [読書・ミステリ]


狂い咲く薔薇を君に―牧場智久の雑役 (光文社文庫)

狂い咲く薔薇を君に―牧場智久の雑役 (光文社文庫)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/08/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

竹本健治を読んだのは何年ぶりかなあ。
20年近く前に「緑衣の牙」を読んだのが最後かな。
てことは牧場智久くんと武藤類子さんに会うのもそれ以来か。
去年、シリーズ最新作の「涙香迷宮」が話題になったせいか
本書も再版になって、書店に並んでた。

さて、ちょっと前まで天才少年・藤井聡太四段で世の中は大騒ぎしていたが
ミステリの世界にも天才棋士はいる。こちらは囲碁だが。

牧場智久くんは端正な容姿とIQ208という頭脳を併せ持ち、
史上最年少で本因坊になったという輝かしい実績、
そして名探偵としても数々の事件を解決してきた、まさに天才少年。
現在17歳で高校には進学せず、囲碁に専念している。

本書は、智久くんのガールフレンドである武藤類子が通う
明峰寺学園高校で起こった3つの事件を描いている。
語り手は1年生の化学部員・津島海人(うみひと)くん。
彼は一学年上の上級生にして剣道部のスター選手、
そして美人の類子さんに夢中。続発する怪事件を見事に解決し、
類子さんにカッコいいところを見せたいのだけれど、
相手が牧場智久くんではいささか分が悪いのは否めない(笑)。

「騒がしい密室」
化学部の先輩・如月を通じて類子と顔見知りになった海人くん。
類子が化学部の部室を訪れた時、部屋にあったビデオに校内放送が流れた。
校舎内にあるスタジオからの中継らしい。
その映像の中から語りかけてきたのは
海人くんのクラスメイトである春山成美。
「t・u」のイニシャルがある傘を手に持ち
「海人くん、思い当たることがあるでしょう?」と訴えかける。
驚いた海人たちが放送スタジオに駆けつけるが、扉には鍵がかかっていた。
教頭先生が持ってきた合鍵で開けたところ、
中からは突然「ギイィィィーン」というの大音響が。
そしてスタジオ内で彼らが見たのは春山成美の刺殺体、
そして死体の傍らにはスタジオの鍵が。
まったく思い当たる節もないのに容疑をかけられてしまった海人くんは、
疑いを晴らすべく必死の推理を始める。
これ、けっこういい線まで行くのだけど
最後の詰めはやっぱり智久くん。まあお約束ではあるが。
密室トリックはよくできてると思うけど
イニシャルの解釈はちょっと無理があるかなあ。
名探偵といえばエキセントリックな奇人変人が多いのだけど、
智久くんはいたって好青年として描かれてる。類子さんともお似合いだ。

「狂い咲く薔薇を君に」
明峰寺学園高校演劇部による「愛と哀しみの薔薇戦争」が上演される。
助っ人として駆り出された海人くんだが、
振られた役が王女の暗殺者という大役で緊張しきり。
第二幕の冒頭、王女をクロスボウで暗殺するシーンはバッチリこなせたが
(使ったのは舞台用の小道具で、もちろん殺傷能力はゼロ)
倒れた王女役・美樹本亜由の胸には本物の矢が刺さり、
彼女は死亡していた。
ただちに劇は中断され、殺人事件として警察の捜査が始まるが・・・
矢はどこかから飛んできたのか? それとも舞台上で突き刺したのか?
そしてもしそうなら、衆人環視の舞台上で
犯人はどうやって殺人を犯したのか。
類子と一緒に劇を鑑賞に来ていた智久くんの推理が冴える。
ラストに明かされるこの不可能犯罪のトリックはどうだろう。
堂々としすぎていて案外気づかれないかもって思ったが
警察が見逃すとも思えないなあ。

「遅れてきた死体」
その日登校した海人くんが見たのは、校庭に描かれた謎の円形文様。
そしてその "ミステリーサークル" の中心には
三年生の堀越美香の死体が。
しかも遺体の腹部は切り裂かれ、内臓がすべて取り去られていた。
オカルト好きな生徒たちは宇宙人による
キャトル・ミューティレーションだと騒ぎ出す。
海人たちの疑いは、怪しげな行動を繰り返す
医学部出身の生物教師・岸谷に向けられるが
やがて第二の殺人が起こる。
内臓を持ち去る理由について、作中でいろいろな仮説が飛び交うが
真相で示されるものはある意味とてもユニークで、これも時代かなあ。
昭和の頃だったら存在しなかった理由かもしれない。


しかし明峰寺学園高校って、立て続けに殺人事件が三件も起こるのに
生徒も教師もあまりショックを受けてるようには思えず、
毎回毎回、相変わらずの平常な学園生活が展開している。
このあたりは解説でも触れられてるけど、
考えてみれば確かに異常な状況ではある。

作者のあとがきによると、本作はもともと少年マンガの原作として
構想されたものを、牧場智久シリーズに書き直したものだという。

もっとも、シリーズ探偵ものなら毎回舞台がリセットされるのは
当たり前のことだよね。
江戸川コナンくんなんて、彼の行くところ
ことごとく殺人事件が発生してるけど
それを理由に彼を忌み嫌う人はいないし(笑)。

殺害の状況や、犯人が心に秘めていた動機は
いずれもかなり陰惨なものなのだが
語り手の海人くんの類子さんへの思いの一途さ、
そしてコメディタッチの語り口、
さらに主役カップルの爽やかさがそれを救っているように思う。

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神津恭介への挑戦 [読書・ミステリ]


神津恭介への挑戦 (光文社文庫)

神津恭介への挑戦 (光文社文庫)

  • 作者: 高木 彬光
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/03/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

高木彬光を読んでたのは高校から大学生のはじめくらいかなあ。
怪人二十面相にハマり、ホームズ、ルパンとお決まりの小学校時代を送り
中学校から創元推理文庫に手を出したもののお堅い翻訳文に四苦八苦、
続けて横溝正史にシビれて、その次あたりだったかな。

名探偵・神津恭介もよかったけれど霧島三郎検事も大好きだった。
弁護士・百谷泉一郎も近松茂道検事もよかった。
墨野隴人シリーズはかなり後になって読んだけど、これも楽しめた。

ご本人は病を得たこともあって、綾辻行人のデビュー(1987年)と
前後したあたりで引退宣言をしたと
記憶してるんだけど、wikiを見たらその後も何作か発表してる。

本書もその中の一冊で、91年から94年にかけて発表された
神津恭介の「平成三部作」にして "最終三部作" の第一弾。

神津恭介の相棒といえば推理作家・松下研三だったんだが
さすがにワトソン役を務めるにはいささか高齢になったせいか
この三部作では美貌の若き新聞記者・清水香織嬢がメインを張る。


朝の通勤ラッシュを迎えたJR山手線。
吊り輪に掴まっていた男が突然倒れ込み、絶命する。
乗り合わせていた東洋新聞社会部記者・山下誠一は
男の口からアーモンド臭がしていたことを警察に告げる。
どうやら青酸による毒殺らしい。

死んだ男は福島康夫、銀行員で28歳。
原島陽子というOLと同棲していた。
福島は勤務先の銀行から3000万円を横領していたことがわかり、
それを苦にしての自殺かとも思われたが
原島陽子から意外な情報がもたらされる。

彼女のもとへ "福島の友人の三崎哲也" と名乗る男から電話があり
「福島は殺された。城山も殺された。次は俺の番だ」と語ったという。
3人は大学のテニスサークル時代からの友人だった。

山下は新人記者・清水香織とコンビを組み、事件を追うことになる。
二人で城山健治の勤務する家電メーカーに取材をかけるが
城山は京都へ旅行に行ったきり帰ってこず、無断欠勤を続けていた。
そして香織の調査で、滞在先の京都のホテルから
失踪していたことが判明する。

調査を続ける二人は、福島・城山・三崎の3人が
過去にある犯罪に手を染めていたことを知る。
一連の事件はその被害者による復讐なのか。

そんな中、三崎が衆人環視の中、マンションの一室から
姿を消すという事件が発生する。

真相解明に行き詰まった香織は、
1年前のパーティで一度だけ会ったことのある
往年の名探偵・神津恭介を思い出し、作家の松下研三に仲介を依頼する。
恭介は自ら "懶惰(らんだ)の城" と呼ぶ伊豆の別荘に引きこもり、
悠々自適の研究生活をしていた。

香織の前に姿を見せた恭介は、報道によって事件の概要を知り、
既に真相にも到達しているようだったが、
静かな生活を壊されることを嫌ったのか
事件解決への出馬を拒むのだった・・・


ヒロインの清水香織嬢は、東洋新聞社社長の娘ながら
親の七光りを嫌い、入社試験を受けて正式に入社、
一人前の新聞記者になるべく奮闘しているという設定。
元気いっぱいなお嬢さんで、彼女の行動力が物語をぐいぐい進ませる。
平成三部作は彼女が主役となって語られていく。

神津恭介の作品を読むのは何年ぶりかなあ。
さすがに「刺青殺人事件」や「人形はなぜ殺される」みたいな
派手な展開はないし、恭介自身の登場シーンも少ないのだけど
なんだかもう出ているだけで嬉しい。


還暦を過ぎても現役を続けたプロレスラー・ジャイアント馬場に対して、
プロレスファンは「もう馬場がリングに立っているだけで嬉しい」
と言ってたそうだが、そんな思いも分かる気がする(笑)。

作者自身も、古希を過ぎてもなお
密室トリックを盛り込んだ本格ミステリ長編に挑むなど、
闘病しながらの執筆とは思えない。もう頭が下がります。

三部作の残り2作も既に読了しているので
近々感想をアップする予定。

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シャーロック・ホームズたちの冒険 [読書・ミステリ]


シャーロック・ホームズたちの冒険 (創元推理文庫)

シャーロック・ホームズたちの冒険 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/10/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★


ホームズとルパンの知られざる冒険譚と、
歴史上の著名人たちが探偵となって活躍する物語、
合わせて5編収めた短編集。

「『スマトラの大ネズミ』事件」
ホームズ譚の語り手・ワトソン医師が死の直前に記した、
"語られなかった事件" という設定。
ライヘンバッハの滝から生還したホームズとワトソンが再会して1ヶ月、
ロンドンのアパートの一室で娼婦とその客が
密室状態で殺されるという事件が起こる。
しかも娼婦は首を切り落とされ、殺された男は
スマトラに伝わる「キーゾブルの呪い」と記された布片を持っていた。
さらに第二の首切り殺人が起こり、ホームズは捜査に乗り出すが・・・
オーソドックスなホームズのパスティーシュものと思っていると
思いっきり背負い投げを食らう。
ラストに至るともう「なんじゃこりゃぁ!」と叫びそう(笑)。
まあこの作者が書いてる時点でわかりそうなものだが。
そしてしっかりオチはダジャレで締めるところも。

「忠臣蔵の密室」
大石内蔵助率いる赤穂四十七士が吉良邸に討ち入った。
主君の仇を探し求める浪士たちは、ついに炭小屋で上野介を発見するが
彼は既に死体となっていた。
おりしも降り積もった雪のため、炭小屋は密室状態。
誰が、どうやって、そしてなぜ浪士たちに先立って吉良を殺したのか。
内蔵助の嫡男・主税(ちから)からの書状で当日の状況を知った
大石の妻・りくが真相を推理するという、一種の安楽椅子探偵もの。
そして、最後のもう "ひとひねり" が効いていて素晴らしい出来。
ここで終わっていれば「ユニークな歴史ミステリ」として
きれいに納まるんだけど、"エピローグ2" までくると一気に脱力。
もう、これをやらずにはいられないんですねえ。

「名探偵ヒトラー」
独裁者アドルフ・ヒトラーの個人秘書を務めていた
マルティン・ボルマンの残した手記という形で語られる。
なんとヒトラーはホームズ譚の大ファンで、
ボルマンと二人きりでいるときは
すっかりホームズ気取りになってしまうという設定にまず驚き。
総統大本営「狼の巣」の一角にある防空壕、
その中にある執務室に保管されていた "ロンギヌスの槍" が盗まれる。
この槍こそ自分の守護神と信じるヒトラーはただちに捜索にとりかかる。
「狼の巣」は厳重な警備に守られていて外部からの侵入者はなく、
しかも限られた人員しかいない防空壕内で、
犯人を追い求めるヒトラーの名(迷?)推理が始まるが・・・
エキセントリックな探偵役のせいで、
全編にわたってブラックな味わいのコメディなのだけど
ラストに提示される真相はいたってシリアスだったりする。

「八雲が来た理由(わけ)」
明治23年、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、
英語教師として島根県の松江に赴任してきた。
教頭の西田とともに森を散策する八雲に聞こえてきたのは、女の悲鳴。
駆けつけた二人が見たものは、仰向けに倒れた男と、
そのたもとに転がる女の生首。
しかも女の口は男の着物の袖にしっかりと噛みついていた・・・
"怪談" を思わせる事件を解決する八雲の探偵譚なのだけど、
最後になって、さらに八雲自身が抱える秘密にまで拡がりを見せる。
ここで終われば一編の怪奇小説としてきれいに終わるんだが、
ああ "エピローグ2" が・・・ホントに好きなんだねえ・・・

「mとd」
ルパンの血を引く日本人の残した原稿、という体裁で幕が開く。
ネタに困った若手作家・ルブランの前に怪盗ルパンが現れる。
これからジュノアール伯爵が所有する秘宝、
"サン・ラー王のスカラベ" を盗みにいくという。
伯爵はルーアンの古城を買い取り、そこに数々のお宝を貯め込んでいる。
ルブランもまた単身で伯爵のもとへ向かうが
そこに現れたのはルパンを追い続けるガニマール警部。
伯爵の古城に案内されたルブランは、
お宝が鉄壁の守りの中にあることを知る。
これにはさすがのルパンも手こずりそうだ。
そんなとき、イギリスからホームズがやってくる・・・
最後に明かされる真相は意外だが、どちらかというとトンデモ系かな。
ルパンが変装の達人で神出鬼没なのは有名なのだが
その裏にこんな "事情" があったとは。
でも、こんなぶっ飛んだオチは、この作者だからこそ(失礼!)
大目に見てもらえるような気も。


巻末の解説によると、この "著名人探偵(笑)シリーズ"、
第二弾の構想もあるらしいので楽しみに待つとしましょう。

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竜の雨降る探偵社 [読書・ミステリ]


竜の雨降る探偵社 (PHP文芸文庫)

竜の雨降る探偵社 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/03/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は昭和。新宿に "雨の日だけ営業" する、変わった探偵社があった。
その主にして唯一の社員である水上櫂(かい)。
元神主という変わった経歴である。

さっぱり客は来ないが、その代わり
幼なじみの和田慎吾が相談事を持ち込んでくる。
その背後に隠された "事件" を引き出し、解決していく
櫂の活躍を描く連作ミステリ。

「第一話 竜の雨降る探偵社」
建設会社「和田技研」創業者の次男である慎吾は、
子会社をひとつ任されている。
その会社の入っているビルの1フロアの下にある「友永商事」、
その受付で働く真田温子が困っているという。
近頃、会社宛に郵便物が間違って配達されることが頻発していると。
そしてその数日後、温子は謎の失踪を遂げる。
間違って配達されることに秘められた意味は意外だが、
現在ではどうだろう。昭和の頃だから成立した話なのかも。

「第二話 沈澄池のほとり」
"沈澄池" は "ちんちょうち" と読むのだそうな。
河川から引いた水を水道水として利用する際、
いったん水をため込んで浮遊物や泥を沈殿させる池のことだ。
淀橋浄水場にある沈澄池で、若い女性が投身自殺を遂げた。
それ以来、池のほとりでじっと佇む女性が現れる。
彼女は長峰志保子と名乗り、自殺した女性の親友だったと語るが・・・
本筋と並行して、逃亡中の麻薬密売人の話が出てくる。
最終的には二つの話のつながりが暴かれるのだろうと予想は着くが
真相を暴くために櫂がとった行動がかなり突飛で、
これは最終話への伏線にもなっている。
ちなみに、現在では淀橋浄水場はなくなっていて
その跡地には高層ビルが建ち並び、「新宿新都心」と呼ばれてる。

「第三話 好条件の求人」
早稲田大学のアルバイト斡旋掲示板に掲げられた「カメラマン募集」。
破格の条件に23人もの応募者があったため採用試験が行われることに。
場所は江ノ島。しかし、参加した学生・門間博人は、
バスを借り切って一日がかりで行われた "試験" に不審なものを感じ、
慎吾と櫂に相談するのだが・・・
いやあ、"犯人" 側の意図はわかるが、それにしては
大がかりで手間がかかりすぎてコスパが悪そうだなあ。
あと、本筋に関係ないけど、名前だけだが
"当年とって70歳の人気美人画家・有村礼" が登場する。
《帝都探偵絵巻》シリーズと同一の世界とすると、
本書の物語は昭和30年代はじめあたりかな。

「第四話 月下の氷湖」
その日、水上探偵社を訪れた美女は櫂の幼なじみの渡部真澄。
慎吾を交えて3人で故郷の想い出を語り合う。
干拓によって故郷から姿を消した湖のこと、
(たぶん秋田県の八郎潟がモデルだと思う)

慎吾の父・儀平のこと、慎吾の腹違いの兄・誠吾のこと、
儀平の後妻に入り、慎吾を生んだ母・志津子のこと。
地質学の研究者にして、湖のほとりに住み着いた楠木のこと、
そして、慎吾にとって命の恩人でもあったその楠木が
最近亡くなったこと・・・
そして、慎吾の心に棘のように刺さっていた、
誠吾との間にある "わだかまり"。
その陰にあった "事情" を櫂が解き明かし、慎吾の心を癒やしていく。
さらに、最後の最後で、もうひとつ意外な事実が明かされる。
いやもうこれはミステリの範囲を超えてるんだけど
ネタバレになるので書きません。

物語はこの第四話で完結となるので、おそらく続編はないだろうけど
もうちょっと慎吾と櫂の探偵譚を読みたかった気もする。

最後に余計なことを。
本編と全く関係ないんだが、「和田慎吾」ってキャラ名をみて、
どこかにそんな名前の漫画家がいたなあ・・・
って思ったんだけど、そちらは「和田慎二」さんでしたね。
ヨーヨー持った女子高生が、なんと実は刑事だったりして、
そんでもって "桜の代紋" を振りかざして大暴れするというアレの人。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第三章 感想・・・のようなもの その12 [アニメーション]


第10話 幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル  (2/2)

※ネタバレ全開です。未見の方はご注意ください!

■コスモウェーブ再び

ゴーランド艦隊の前で光り輝くテレザート星。
そしてヤマトの直前に輝く光が。

真田さんの前には守ニーサン。久々の登場。

「時間も空間も障害にはならないが、
 近づかなければ見せられないものもある。
 確証もないのにお前たちはここまで来た。
 今度はこちらが証しを立てる番だ」

古代の前には、お約束の沖田艦長。

「沖田さん、俺はダメです。指揮官としてみんなを束ねることも
 スターシャさんとの約束を守ることもできず。
 これから俺は・・・ヤマトはどうしたら」
「古代、おまえはよくやっている。本当によくやっているじゃないか」

古代の目から涙が。
まあ、今の彼にとって、いちばん言って欲しかった言葉だろうから。

「とるべき針路はお前の心が知っている。」
「待って下さい艦長、沖田さん・・・」
「お前の心に従え」

いままでの「ヤマトに乗れ」「覚悟を示せ」という言葉とは
若干ニュアンスが異なっているような気がするが。

■ "幻影" の正体は

そもそもこの "幻影" とは、どんなものなんだろう。

テレサが "死者の影" を通して語っているのか、

それとも "死者の魂" というものが高次元の世界に存在していて
テレサがそれを "現世" にいる人間たちに引き合わせているのか。

はたまた、単にコスモウェーブを浴びた人間が
"自分の作り上げた妄想" を幻視しているだけなのか。

前にも書いたが、私としては古代の「沖田越え」を見てみたい。
「さらば」のラストシーンのように
沖田の幻影にすがる古代は見たくないし、
たとえ幻影が現れて何か古代に喋っても
「いいえ沖田さん、僕はそうは思いません」
って言える古代であってほしいのだが・・・

前にも書いたが、こんなことを言ってると
「さらば」のファンの方々からは石を投げられそうだが・・・

中空に浮かぶテレザートとテレサの姿。
今度はヤマトに乗っている全員が見ることに。

■土方の立ち位置

「話は分かった。だが」土方は艦長就任を断った様子。

このあたり、シナリオ集ではもうちょっと詳しく書かれていて
古代のことを慮って断っているのがわかる。

「だが、旅にはつき合わせてもらう。俺も見てしまったからな」
土方の見た幻影も沖田だったのだろうか。

■斉藤

斉藤に語りかける加藤。「あんたは誰の幻を見た」

彼が見る可能性として考えらるのは、
かつての上官で御影の父でもある桐生隊長あたりかな。
しかし彼が見たのは謎の黒いシルエット。
うーん、思わせぶりだなあこのあたり。

■沖田の子ら

真田が口を開く。「引き返す選択肢もある」
しかし古代は決断する。

「前に進もう。そこには救いを待つ何かが存在する。
 祈ることしかできない過酷な状況に置かれながら、
 でも、祈ることをやめようとしない。
 俺たち人間がそうであるように」

いい台詞だなあ。
第6話で十一番惑星救出を決断したシーンの台詞も良かったが
さらりと人の有り様を示すあたり、なかなか深い。

「批準針路テレザート、二時間後にワープを行う」
「さすがはお前の子どもたちだ」

土方もまた、自らの意思でヤマトの旅に加わった。
彼の活躍もこれからが本番だろう。

この第10話は、いろいろな思いを胸にヤマトに乗り込んだ人々が
改めてテレザートへ向かう決意をする回なのだね。

■デスラー再登場

「あの男に艦隊をあたえるだと」
「死体同然で宇宙を彷徨っていた負け犬ごときに」

幕僚たちの陰口を背に受けながらマントを翻して現れる。

「わがガトランティスに敗軍の将の席も二度目の機会という言葉もない。
 御前のような者に艦隊を預けるなど異例なこと。
 大帝に感謝を!」

大帝の裁可が気に入らない様子のサーベラー。
リメイク版のデスラーも彼女にいびられるのでしょうか(笑)。

「サーベラー、一国の王には敬意を払え。
 我らに見せてもらいたいものがある。我々にはない言葉、『執念』。
 貴殿にはうってつけの獲物を用意した」

中空にヤマトの像が浮かぶ。

「どうかな、デスラー総統」
「感謝の極み」

ついに再登場を果たしたデスラー。
ガトランティスの力で蘇生させられたのですかね。
蘇生体みたいに何か細工されてませんかね。
敵ながらちょっと心配ですね。

しかもガトランティスには「愛」はもちろん
「執念」も存在しないらしい。

彼らが着々と宇宙の征服を進めているのも、
それが与えられた「使命」であり、それが「存在意義」だからで
「欲」とか「野望」なんてものは
もともと欠片さえ持ち合わせていないのかもしれない

■次回予告

「私は屈辱を忘れん男だ」

転送システムを使った攻撃はもうはずせませんよね。
問題は、これをヤマト側がなんと呼ぶか。
いくらなんでも今回は「デスラー戦法」はないだろうなあ・・・

今のところ、ここが第四章で一番気になる(おいおい)。

■終わりに

いつもはもっとおちゃらけて書いてるかと思う
この「感想・・・のようなもの」ですが、「第三章」は
内容が内容だけにけっこう真面目に(笑)書いてしまいました。
それだけ考えさせられるストーリーだったのですかね。

「第三章」については、とりあえずこれにて終了でございます。

いつもの通り、見たまま考えたまま頭に浮かんだものを
だらだら書いていて、長いだけでたいした中身はありませんが
まあ私の文章力ではこれが限界かと。
12日間にわたり、お目汚し失礼いたしました。
よろしければ「第四章」以後もお付き合いください。

明後日あたりから通常運転に戻して
読書感想録のアップを始める予定です。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第三章 感想・・・のようなもの その11 [アニメーション]


第10話 幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル  (1/2)

※ネタバレ全開です。未見の方はご注意ください!

■幼生体

冒頭に現れるのは剣を交える二人。
勝ったのはザバイバル、敗者はノルと呼ばれる若者。
それを見ていたゴーランド提督。

ザバイバルとゴーランドの会話から
どうやらノルはゴーランドにとって "幼生体" とよばれる存在の様子。
やがて成長の暁には、ゴーランドを "襲名" し艦隊も引き継ぐとのこと。

ゴーランドのCVは山路和宏さん。これまた大物。
大河ドラマ「軍師官兵衛」では安国寺恵瓊役で熱演されてましたよね。
ザバイバルのCVは屋良有作さん。ガトランの歴史がまた1ページ(笑)。

幼生体の育成に手間を惜しまぬことは自分自身を慈しむのと同じ。
ガトランティス人としてはあるまじき行為であるとのこと。
彼らの会話を聞きながら給仕をする謎の人物。
性別が今ひとつわかりにくいけど、シナリオ集には「美女」とある。

■ズォーダー&ガイレーン

シナリオ集では「瞑想の間」と呼ばれる部屋。
ザバイバルとゴーランド、二人の会話が聞こえる。

ガイレーンは言う。ガトランティスに親子という概念はないと。
しかし、それでも親子の情に似たものが生じているようだと。

戦闘生命としては未完成品なのか?
それとも、創造主がわざとそういう要素を残したのか?

ズォーダーは言う。テレサを手に入れれば我らの望みは叶う。
他のことはそれまでの余興でしかない、と。

しかしガイレーンは、大帝が仕掛けた罠を切り抜けたヤマトについて問う。
テレサの祈りに応じてテレザートへ向かっているヤマトは
特別な存在なのではないか、と。

「ヤマトに純粋体のコピーが潜入」とあるので
透子はサーベラーのコピーで、サーベラーは「純粋体」らしい。
「純粋体」とは何を意味するのか?

■透子

その透子は、医療室で佐渡の助手として働く。
診察されているのは古代。分析結果を見て眉をひそめる佐渡。

■針路

今後のヤマトの針路に関して作戦室で会議。
1/3の行程を消化したとのこと。
しかしテレザートの前には白色彗星が。

「2202」において、はじめて白色彗星という言葉が出ましたね

ガトランティスの拠点かも知れない天体である。
すすむべきか、退くべきか。そこへ藤堂からの指令が届く。

「白色彗星を偵察せよ。どこまでやるかは任せる」

要するに丸投げですね(笑)。

■繊細な古代

土方に古代の憔悴振りを報告する佐渡。
波動砲問題、ズォーダーとの対決、ヤマトの指揮を執る重圧。
そりゃあ参ってしまうわなあ。
リメイク世界の古代は良くも悪くも真面目で完璧主義者なようだし。

「強く振る舞ってはいても、根は繊細な男ですから」

そこへ現れる雪、土方は言葉をかける
「心配ない、古代はきっとこの航海をやり遂げる。
 お前の選んだ男だ。他に誰があいつを信じてやれる」
「はい・・・はい!」二回の「はい」の演じ分けがいいね。

■格納庫の空間騎兵隊

パワードスーツが初お目見え。シナリオ集によると、
ヤマトの備品を流用して急遽こしらえたものらしい。
新設された工作室が大活躍したんだろうね。
ということは制式武器ではないんだろう。だから
「装甲の薄さと出力不足は技量で補うんだ」なんて台詞が出てくるのか。

そこへ現れる無数の赤い発光体。

■いわゆる "宇宙ホタル"(笑)

真田の分析によると、ある種の生命体のよう。
艦内に持ち込まれる数はあっという間に増え、発光体が蔓延する状態に。
それを見つめる乗組員たちの瞳が赤く染まって催眠状態へ。

窓を見つめる山本。映るのは兄の幻影。それにキーマンが重なる。
この二人、やっぱりフラグなのですかねえ。

■古代vs斉藤

艦内を歩く斉藤は古代と出くわす。さっそく因縁(笑)をつける。
催眠状態にあるとは言え、ここでの台詞は斉藤の本音だろう。

「古代、おまえって運のいい奴だよな。
 十一番惑星でもシュトラバーゼでもお前は運に助けられただけだ。
  まだ本当に厳しい決断をしちゃいねぇ」

これは事実。波動砲については、おそらくこの先に
もっと厳しい状態での使用を迫られる場面が出てくるだろう。
しかし次のひと言に古代はキレる。

「まっぴらだぜこんな臆病者のフネ」
「取り消せ!」

雪、永倉、その他大勢が二人の元へ集まってくる。
加藤が止めに入るが古代は言い放つ「肩書き抜きだ」

「俺は何を言われたっていい。
 だがこいつはヤマトを・・沖田さんの舟を・・・
 謝ってもらう!」

古代もいろいろ溜まってたから、ホタルのおかげでタガが外れたのだろう。
シナリオ集では、ここで集団大乱闘になるんだけど
本編ではそうなる前に、機関部に異常を示す警報が入る。

■ホタル撃退

真田はホタルの催眠波を無効化する方法を発見していた。
そのおかげで正気に戻る斉藤と古代

「斉藤隊長、緊急事態だ。ここは頼む」何を頼んでるのか不明だが
「おう!」君も、何を頼まれたかわかってるのか隊長?

「こいつらシステムを喰おうとしている」

ホタルは催眠は無効化しても脅威は残っている模様。
ホタルを一掃方法に苦慮する真田・徳川・古代のまえに
現れるアナライザー。何やら背中に背負っている。
そこから吹き出す謎物質でホタルは炭化、死滅する。

どうやら殺虫剤のようで。
佐渡先生の「こんなこともあろうかと」でした。

■キーマンvs透子

通路を去るキーマン、そこに現れる透子。
どうやらキーマンの仕掛けをすべて知っているよう。
ヤマト艦内のスパイ行為をしているうちに気づいたのか、
それとも精神感応的な力を持っているのか。

シナリオ集によると、この宇宙ホタルは
透子の仕込んだものらしいのだがその目的は不明。
描かれていないところで何か起こっているのだろうか?

                                                            (つづく)

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第三章 感想・・・のようなもの その10 [アニメーション]


第9話 ズォーダー、悪魔の選択  (5/5)

※ネタバレ全開です。未見の方はご注意ください!

■思い切った演出

そして今回描かれたのは
Aパートではズォーダーと古代の対決、
Bパートでは古代と雪の "究極の愛"。

惑星シュトラバーゼという舞台も、
反ガミラス統治破壊解放軍という乱入者も
すべてはこの2つを描くためのお膳立てに過ぎない。

この2つを描くために、そしてそれを最大限に強調するために、
余計な要素はすべて取っ払ってしまった。
説明不足なところや唐突なところもあるがすべてはそのため。
そしてそれは、Bパートにおいて特に顕著だ。

一例を挙げれば、避難民に紛れ込んだ蘇生体が
ガミラス艦の機関部に易々と侵入できたのはなぜだ、という疑問にも
その気になればいくらでも理屈づけて描くことはできたはずだ。

例えば蘇生体はガトランティス兵士並みに "不死" (当たり前だが)で
ショッカーの改造人間並みに驚異的な膂力を発揮する、
みたいな描写を入れれば
ガミラス兵をバッタバッタとなぎ倒し、機関部へ突入するところを
視聴者に納得できるように描くことは充分にできただろう。

でも、演出するスタッフは、"そういう部分” は
"この回で描きたいもの" にとっては "枝葉" であり、場合によっては
(言葉は悪いが) "雑音" になると判断したのだろう。
だから一切合切きれいに外してしまった。

すべてはズォーダーとの対決を、
そして二人の "愛" のシーンを描くことに徹底している。

思い切った演出ではある。しかし諸刃の剣でもある。

改まって説明されない部分が少なくないので
理解できない、展開について来られない、
フラストレーションが溜まる人も出てくるだろう。

ヤマトと反乱軍との戦いさえも "枝葉" になり、
ぶつ切り状態での展開となった。
「ヤマトは戦闘シーンがあってなんぼ」
「土方の指揮振りをもっと見せろ」
という不満を抱く人も出てくるだろう。

古代と雪の二人のドラマをがっつりと描いたはいいが
「ヤマトにメロドラマは不要だ」
「あんなうじうじ悩む古代は見たくない」
という批判をする人も出てくるだろう。

説明第三章の評価が割れるのも分かる。
リメイクならではの「今までにないヤマト」だったがゆえに
「これはオレの見たかったヤマトじゃない」って
思った人も多かったのだろう。

■ "愛" vs "愛"

ではなぜ、二人に今回のような行動をとらせたのか。

「2202」がヤマトの物語であるなら、
最終的に "敵" であるズォーダーは倒されねばならない。
そして、そのときにはズォーダーの唱える
"大いなる愛" なるものもまた否定されねばならないはずだ。

そしてそれは、波動砲などを含む武力で殲滅することではなく
(実際、ガトランティスを武力で圧倒するのは、戦力的におそらく無理)
人と人との間の愛、男女の愛であり、親子の愛であり、
他人の幸せを祈ることのできる愛、によって
為されなければならないのではないか。

そしてそれを体現する存在として「古代と雪」という、
究極の "個の愛" を選んだ者たちが、
ラストでふたたびズォーダーと対峙するのだろう。

大帝に否定されてもなお愛することをやめず、
再び悪魔の選択を迫られてもやはり同じ選択をするであろう二人が。

トロッコ問題に正解はない。
どの答えを選んでも、後悔は残る。
だってそれが「人」というものだから。
その後悔を抱いて生きていくことこそが「人の生」だ。
そしてその「人の生」の中にこそ「幸せ」も存在する。

どの選択をしても心が痛まなくなったら、それはもはや人間ではない。

前回は大帝の言葉に翻弄されるばかりだった古代が
テレサと出会い、ガトランティスと戦い、この旅を通じて成長した古代が
再びズォーダーと対決したときに何を語るのか。

楽しみではあるのだが、ちょっぴり怖いような気がして、
一抹の不安を感じることを否定できないでいる私がいる。

やっぱり「さらば」のトラウマは拭いがたいものがあるので(笑)。

断言できることは、問答無用とばかりに
旧作のように自らの命をもってズォーダーと "対消滅" を図るような
ラストになったら、私は「2202」を否定する側にまわるだろう。

そうならないことを祈るだけだ。

■真の主役

「雪の行動が突飛すぎる」という意見もあるだろう。

でも、「2199」第23話で第二バレラスの破壊を決意したとき、
雪は自分の生還を諦めてはいなかったか。
その行動はヤマトを救うためではあったが、
その本質は「古代に生きていて欲しかった」ためではなかったか。

「2199」第23話で、そして「2202」第9話で。
あの場面であの行動が選べる雪だからこそ、
ラストでズォーダーに対抗しうる存在たり得るのではないか。

この第9話は、古代と雪の二人が「2202」という物語において、
"真の主役" となった回なのだと思っている。
二人の "戦い" はむしろここから始まるのではないのだろうか。

■「愛の戦士」は伊達じゃない?

ズォーダーの唱える "愛"、古代と雪に代表される "男女の愛"。
加藤一家に象徴される "親子の愛"。
(ひょっとするとここにはゴーランドとノルが加わるのかも知れないが。)

登場人物たちが何かしら "愛" を背負っていて
「愛の戦士たち」という副題が伊達ではなく
まさしくその名の通りの物語であることを示したのが
第9話だったのだろうと思う。

■ヒーロー物語として

とまあ、長々と感想めいたものをだらだら綴ってきたのだけど、
ここまで書いてきて、ふと思ったことは
「要するに今回の古代は、負けなくてはいけなかったのではないか」
ということ。

ヤマト自体は負けてないけどね。
反乱軍は退けたし、古代と雪、それに
三隻のガミラス艦隊まで救ってしまったから。

負けたのは古代のメンタルだ。
大帝のいいいように振り回されてしまい、もうボロボロだ。

でも、物語の作法(さくほう)からしても、
ヒーローは「一敗地に塗れる」ことなくして
勝利をつかむことは出来ないものだからね。
それでこそ物語は盛り上がる。

最終的にズォーダーに勝つためには、
古代は一度コテンパンに負ける必要があった。
それが第9話だったんじゃないだろうか。

                                                            (つづく)

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