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ラブ・ケミストリー [読書・ファンタジー]


ラブ・ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ラブ・ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/03/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆


主人公は東大農学部で有機化学を専攻する大学院生・藤村桂一郎。

 本文中には「東大」って出てこないんだけど、
 いろんな描写からしてまちがいなくここ。

修士課程2年生の彼には、ある特殊能力があった。
それは、どんな化合物であっても、その構造式を見ただけで、
それをつくりだすための合成方法が頭に浮かぶ、というもの。

作中のたとえで言えば、どんな料理であっても
その写真を見ればレシピが頭の中に閃いてしまう、ということだ。

彼はその能力を駆使して様々な化合物の合成法を開発し、
大学院生としては桁外れに優れた論文を多数発表していて、
早くも将来のノーベル賞候補とも噂されている。

そんな彼の現在の研究テーマは「プランクスタリンの全合成」。
海洋生物から発見されたアルカロイドの一種で、
世界中の研究者が合成を試みているが
未だ誰も成功していないという難物だ。

しかし、その彼をスランプが襲う。
彼が師事する神崎教授の下に新規採用された秘書の真下美綾ちゃん。
いままで女性に全く縁がなかった桂一郎くんは彼女に一目惚れ。
初めての恋に悶々となったのが原因か、
すっかり特殊能力を失ってしまったのだ。

研究成果の発表日が迫る中、焦りまくる桂一郎くんの前に現れたのは
自らを "死神" だと語る謎の女性・カロン。
彼の前で物理法則を越えた超常能力を示してみせ、
さらには人の心に介入して記憶の改竄まで可能だという。
その彼女が、なぜか桂一郎くんの初恋に力を貸そうと言い出す。

かくして、死神に後押しされた桂一郎くんは
美綾ちゃんに告白するために、涙ぐましい努力を始めるのだが・・・


第9回『このミステリーがすごい!大賞』優秀賞を受賞した作品。
たしかにミステリ要素もあるけど、それよりは
ファンタジー仕立てのラブコメと言った方が近い。

「彼女いない歴=年齢」という、
女性に対する免疫ゼロの主人公・桂一郎くんが
恋の成就のために右往左往するドタバタぶりも微笑ましいが
特殊能力を失った桂一郎くんを心配し、支えようとする親友・東間、
桂一郎くんの恋愛指南を買って出る学部4年生の岩館愛子、
"二次元の恋人" とフィギュアにはまるオタク後輩の百瀬、
桂一郎の特殊能力に心酔し、彼を "師匠" と慕う有機合成バカ・上杉など
研究室の仲間や後輩たちもキャラが立ってる。

後半に入ると恋のライバルも現れるし
さらには美綾ちゃんの意外な秘密が明かされ、
桂一郎くんはとんでもない選択を迫られることになる。

そして、終盤ではストーリーも二転三転、
桂一郎くんの "初恋" は予想外なところへ向かっていく。

エンディングはいささか都合が良すぎる展開かなあとも思うが
コメディなんだからハッピーエンドで終わらなきゃね。


とにかくこの作者、発行点数が新人にしては半端なく多いので
なんでそんなに人気があるの? と思っていたんだが
読んでみれば、評判になったのも納得。

作者は東大の薬学部を出て、大手製薬会社で研究員をしてるとのこと。
研究室や実験の描写がリアルで板についているのも納得だ。
ものすごく優秀な人なんだろうけど、文章は平易でとても読みやすい。

文庫に限ってもけっこうな数の作品が出ているので
もう何作か読んでみようと思う。

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