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ひぐらしふる 有馬千夏の不思議なある夏の日 [読書・ミステリ]


ひぐらしふる 有馬千夏の不可思議なある夏の日 (幻冬舎文庫)

ひぐらしふる 有馬千夏の不可思議なある夏の日 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・有馬千夏は東京で図書館司書として働く24歳。
大学の元同級生で、いまは文化人類学専攻の大学院生である
高村という恋人がいる。

千夏はミステリ作家志望だが、最近執筆活動がうまくいかず、
高村との関係を含めて東京での生活にやや閉塞感を感じている様子。

そんなとき田舎の祖母が亡くなり、葬儀への参列を兼ねて
長めのお盆休暇を取って帰省することになる。

そんな千夏が出会う事件の数々を描いた "日常の謎" 系連作ミステリ。
ちなみに、彼女の故郷は山形県天童市がモデルだろう。


「第一章 ミツメル」
幼なじみの相葉成瀬(なるせ)と芥川莉緒(りお)に再会した千夏。
3人で故郷の町を巡るうち、高校2年の時に彼女らが出会った
"スカート切り裂き魔" 事件を想い出す。
ちょっと苦めな青春ミステリ、という感じか。

「第二章 素敵な休日」
莉緒とともに紅笠祭りへ出かけた千夏は、
高校の先輩である遠藤ハルと塔野みかげに出会う。
和人という人と婚約したというハル。
彼からもらったという指輪を見ていたみかげは、
ハルに対して驚くべき "賭け" を申し出る・・・
千夏は、もしかしたらかなり恐い真相へたどり着く。

「第三章 さかさま世界」
帰省中の千夏は、しばしば高村と電話で話を交わしている。
その日、話題に上がったのは大学時代の友人・草下圭一のこと。
学生時代に千夏の故郷近くの高原でアルバイトした草下は
そこで "誰も知らない犯罪を目撃した" と語ったという。
まさに "日常の謎" 的な真相、かな

「第四章 ボーイズ・ライフ」
千夏の高校時代の同級生・式部恵瑠(える、と読む。ちなみに男性)。
莉緒とともに彼と再会した千夏は、恵瑠が小学校時代に経験した
"UFOに連れ去れた友人" の話を聞く。
真相はかなり大胆かつスケールが大きく、ちょっと島田荘司を思わせる。

「最終章 八月に赤」
成瀬、莉緒とともにショッピングモールへやって来た千夏。
しかし莉緒が突然姿を消す。
どうやらストーカーらしき男に連れ去られたらしい。
莉緒を捜して街中を走り回る千夏だが・・・


「第一章」から「第四章」までは、
千夏が探偵役となって謎を解く連作ミステリなんだけれども
冒頭の「プロローグ」から「第四章」の間に、
残された謎がいくつかある。

その最たるものは、千夏がときおり見る "幻影" であり、
しばしば彼女の言動が "不穏" だったりすること。

そして「最終章」では、ある事実が明らかになり、
それまでの4つの物語も別の角度から解釈されていく。
残された謎にも、意外な解答が示されることになる。


ヒロインの千夏さんは、故郷の町で旧友たちとともに過ごすうちに、
仕事からも恋人からも離れてここで暮らすのもいいかな・・・
なんて思い始める。

社会人2年目ともなると、いろいろと人生について考え出して
悩んでしまう頃でもあるだろう。

 私自身、就職して2年目はやることなすこと失敗ばかりで
 かなり落ち込んだりしてたからねえ・・・

千夏さんも、ここで立ち止まってしまったわけだが
故郷で過去の自分と向き合ったことで、
自分をいままで支えてくれていた人たちの存在に気づき、
自らの望む未来に向かって再び歩き出していく決意をする。

ミステリではあるけれど、読後感が清々しい。
こういう作品は好きだ。

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