SSブログ

オーブランの少女 [読書・ミステリ]


オーブランの少女 (創元推理文庫)

オーブランの少女 (創元推理文庫)

  • 作者: 深緑 野分
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/03/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★

作者は、本書の表題作で
2010年第7回「ミステリーズ!」新人賞に佳作入選した。

さて、デビュー作となるこの短編集には、
場所も時間も雰囲気も異なる短編が5作が収録されている。


「オーブランの少女」
老いた姉妹が管理人を務める美しい庭園・オーブラン。
しかしある日、姉の方が異様な風体をした老婆に殺される。
精神に異常を来していた犯人は収容された病院で死亡、
そして妹の方もほぼ時を同じくして自殺してしまう。
残された手記には、第二次大戦中に病弱な少女ばかりを集めた
謎の施設で "姉妹" が過ごした日々が綴られていた・・・
登場する少女たちがみな個性的で、筆力は確か。
施設の目的、職員の思惑を巡るミステリなんだが
ラストはほとんどホラーです。

「仮面」
20世紀初頭のイギリス。
うだつの上がらない医師・アトキンソンは
キャバレー「ルナール・ブルー」のショーで、
わずか10歳ほどの踊り子・リリューシカに魅せられてしまう。
やがてキャバレーのオーナーが謎の死を遂げ、
リリューシカのことが忘れられないアトキンソンの前に
彼女の姉・アミラが現れ、意外なことを告げる。
オーナーの妻だったベツィは店を畳み、芸人たちは解雇、
そしてリリューシカは外国に売り飛ばされてしまうという。
リリューシカを救うために、アトキンソンがとった行動は・・・
終盤における物語が反転ぶりが見事。
独身でロリコンの三十男、その転落っぷりが哀れすぎる。

「大雨とトマト」
舞台は現代の日本と思われる。
暴風雨の日にも関わらず店を開けていた料理店。
そこに一人の少女が客として現れる。
何故かトマトのサラダだけを注文する彼女は、
店主との話の中で「父親を探している」と答える。
16年前、行きずりの女と関係を持ったことがある店主は・・・
わずか文庫で20ページほどだが、終盤になると二転三転、
最後のオチも鮮やかに決まる。

「片想い」
昭和初期の東京。岩本薫子(かおるこ)は高等女学校に通う16歳。
寄宿舎で同室の水野環(たまき)は、彼女の憧れの存在。
可憐な容姿で成績優秀、真面目にして誠実で、
父親は長野で銀行を経営しているという正真正銘のお嬢様だった。
しかしその環が、喫茶店で男と密会しているという噂が流れて・・・
お嬢様の "秘密" に気づいた薫子の "オトコマエ" っぷりが楽しい。

「氷の皇国」
舞台となるのは、架空の北の国。
北の大陸に春が訪れ、氷河も解けだした頃、
ある漁村近くの川の中から首のない死体が見つかる。
それははるか上流で投げ込まれ、
氷の中を長い年月をかけて流れてきたものと思われた。

村に滞在していた老吟遊詩人は、かつて川の上流にあり、
今は滅んでしまった国・ユヌースクの皇帝について語り出す・・・
ほぼ文庫で100ページと、本書中最長の中編。
ファンタジー風の設定ではあるが、内容は毒殺事件を巡るサスペンスで
かつ一種の法廷小説でもある。
真実が分かっても、正義が履行されるとは限らない苦さも描かれる。


5編とも、異なる舞台、異なる時代、さらには異なる作風を見せて
作家としての才能の豊かさを感じさせる人ではある。
ただ、今ひとつ私の好みとは合わないかなあ・・・とは思う。

まあ、まだ1作しか読んでないからね。判断を下すのは早計でしょう。
とりあえず、評判の高い次作を読んでから、ですかね。

第2作として発表した長編「戦場のコックたち」は
直木賞、大藪春彦賞、そして本屋大賞にそれぞれノミネートされるなど
大変な話題になったらしい。文庫になったら読みます(笑)。

nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: