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怪盗ニック全仕事3 [読書・ミステリ]

 

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D・ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。
そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第3弾で、1977~82年にかけて発表された14編を収録。
話数で言うと第31話~第44話である。

ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。依頼料は二万ドルだが
それと引き換えに彼が盗むのは、貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。

本書でも、およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。
タイトルだけを挙げてみても、それがよく分かる。

第31話「つたない子供の絵を盗め」
第32話「家族のポートレイト写真を盗め」
第33話「駐日アメリカ大使の電話機を盗め」
第34話「きのうの新聞を盗め」
第35話「消防士のヘルメットを盗め」
第36話「競走馬の飲み水を盗め」
第37話「銀行家の灰皿を盗め」
第38話「スペードの4を盗め」
第39話「感謝祭の七面鳥を盗め」
第40話「ゴーストタウンの蜘蛛の巣を盗め」
第41話「赤い風船を盗め」
第42話「田舎町の絵はがきを盗め」
第43話「サパークラブの石鹸を盗め」
第44話「使用済みのティーバッグを盗め」

いずれも、取るに足りないものを盗みにいったニックが
意外な事件に巻き込まれ、謎を解いて事件の裏に潜む陰謀を暴くという
お決まりの流れだが、決まっているがゆえに安心して読めるとも言える。
これが毎回、文庫で30ページほどに綺麗に納まっていて
これを87回繰り返したのだから作者の技量もたいしたもの。
作者は他にもいくつもシリーズをもち、総計したら
生涯で900編の短編を書いてた、なんてまさに超人ですね。

毎回決まったパターンといえども、"サザエさん時空" ではない。
話数が進むにつれて時代は流れるしニックもトシを取る。

ニックと同棲している女性・グロリアは、当初は
ニックの仕事を知らずにいた(政府系の機関で働いてると思ってた)が
本書の中のある事件をきっかけに、ニックの "本職" を知ってしまう。

でも彼女は慌てず騒がずニックの仕事を受け入れ、さらにはこう言う。
「二万ドルは安い。最低でも二万五千ドルは要求するべきよ」
いやはやたいしたもの。さすがはニックのパートナーである。
実際、その3話あとからニックは
仕事料を二万五千ドルに値上げしてる(笑)。

もちろんそんな高額な金額を払ってまで盗みを依頼する人がいるわけで、
本当に価値がないはずがない。
「普通の人には無価値だけれど、特定の人には価値がある」わけだ。

その理由についてはいくつかパターンがある。たとえば
「そのもの自体は無価値だが、付随する要素に価値がある」とか
「そこにあっては依頼人の目的に支障を来すので、
 盗んでもらう(取り除いてもらう)」とか
「盗んできてもらったものを、依頼人が別の目的に使う」とかね。

このシリーズも三冊目なので、パターン別に分類・分析してみると
面白そうだなあと思うんだけど、誰かやらないかなぁ(笑)。

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