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露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 [読書・ミステリ]


露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は日露戦争が終結して間もない頃、
山中晴彦はヨーロッパを巡業中の曲芸師一座に転がり込んだ。
家事一切を引き受けることを条件に
一座の敏腕番頭・片桐孝介と同居をはじめることに。
そんな二人が、パリを舞台に起こる事件を解決するべく
奔走する姿を描く連作ミステリ。

前作のラストで、ある事情から
晴彦は孝介の元を離れて日本へ帰国したが、
3年半ののちフランスへ戻ってきた。
本書は、パリへ到着した列車から晴彦が降りる場面から始まる。

「第一章 光と影」
孝介に再会したのも束の間、晴彦は仕事に引き込まれる。
パリの大人気女性ダンサー、オンブルの依頼は
孝介たちの一座のパトロンの一人、マダム・モロワに近づくために
彼女の趣味・好みについて教えて欲しいということだった。
謎の修道女が現れたり、当時ヨーロッパで大人気だった
飛行家サントス・デュモンの名が出てきたりと
パリが舞台ならではの物語が展開する。
孝介と晴彦の掛け合いも相変わらずで、前作の雰囲気そのまま。
読者もすんなりと入り込めるだろう。
ちなみに、本文の記述によると本書の時代は1909~1910年頃になる。

「第二章 オスマンルビーの呪い」
人気ダンサー・オンブルの舞台衣装を手がけるリュシアン・ガレは
パリでも指折りの人気デザイナー。
ある日、ブーローニュの森で派手な宣伝イベントをぶち上げる。
最新流行のドレスを着たマヌカン(モデル)たちが
麦わらを満載した馬車に乗って現れ、
集まってきた観衆に対して無数のルビーをばらまいたのだ。
使用したのは売り物にならない屑石ばかりだったのだが
その日以来、パリでは藁を積んだ馬車に対する放火が頻発する。
孝介の推理によって、騒ぎの裏に隠された "ある計画" が暴かれていく。

「第三章 露西亜の時間旅行者」
巴里に現れたロシア人、セルゲイ・エピファーノフは
自らを「時間旅行者」と名乗った。
フランスでノーベル賞と並び称される賞であるペルーズ賞の
受賞者発表の前日、彼が提出した紙片には
全受賞者の氏名が記載されており、それがすべて的中していのだ。
しかも発表当日、セルゲイは新聞社の最上階の小部屋に籠もっていた。
本書の中でいちばんミステリっぽさが強いが
そのぶん、読み慣れた人ならある程度はトリックにも見当がつくだろう。
でも本作のポイントはそこではなく、なぜセルゲイが
そのようなパフォーマンスを行ったのか、というところ。
オンブルの意外な過去が明かされる一編でもある。

「第四章 遥かなる姫君」
パリで商売を展開する「白浜植木」の社員・川崎から持ち込まれた依頼は
「黄金の雲」と名付けられた美しい百合の自生地を記した地図の探索。
自生地の地図を入手したプラントハンターは事故死してしまい、
その地図は、彼が残した硝子製品のどれかに隠してあるのだという。
孝介の推理は、地図探索の裏に隠された
二人の男の "秘めた想い" も明らかにして
ミステリというよりはラブストーリーの佳品のような印象。

本書の4つの事件はいずれも、謎めいた美女オンブルが主要人物として、
あるいは関係者として登場する。陰の主役と言っていいだろう。

「第四章」で登場する川崎は、高齢である上に健康にも難があって
間もなく日本へ帰国する予定なのだが、その後任として
孝介は晴彦を推薦していたことが明らかになる。
つまり孝介は晴彦を「白浜植木」に就職させようと画策していたわけだが
なぜ晴彦を曲芸一座から遠ざけようとしたのか。
その真意、そして晴彦の選択は読んでのお楽しみかな。

もうちょっと川崎について書きたい。
仕事からの引退を控えた彼は、主役二人とオンブルを除けば、
本書の中で私がいちばん印象深く感じた人物。
多分私とほぼ同年代なのだろうけどそれだけが理由ではない。
男なら、そんな "女性" が一人くらいは心の中にいるものだろうから。

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