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絞首台の謎 [読書・ミステリ]


絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/29
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

パリの予審判事アンリ・バンコランとその友人ジェフ・マールは
演劇「銀の仮面」を観るために霧深い晩秋のロンドンへやってくる。

2人は高級会員制クラブである「プリムストーン・クラブ」に滞在する
元ロンドン警視庁副総監サー・ジョン・ランダーヴォーンに会う。
クラブのラウンジで、サー・ジョンは不気味な話を語り出す。

彼の友人ダリングズが酒場からの帰りに霧の中で迷っていたところ、
ある家の横手に縄をぶら下げた首吊り台のシルエットが浮かび上がり、
何者かの影がその絞首台の階段を上がっていったという。

その話の直後、ラウンジの椅子の上に奇妙なものが見つかる。
それは精巧に作られた絞首台の模型だった。
従業員によると、クラブの滞在客であるエジプト人エル・ムルク宛てに
小包で送られてきたものらしい。

そしてその晩、観劇を終えて街路に出た3人が見たものは
警官の制止を振り切って暴走する1台のリムジン。

すれ違いざまにジェフの目に飛び込んできたのは
耳から耳まで喉を切り裂かれて絶命している運転手の姿。

直ちにタクシーで後を追う3人。
リムジンは交通法規一切を無視して爆走し、
やがてプリムストーン・クラブの前で停車するが
追いついた3人が車内で見つけたのは男の死体のみだった。

リムジンの持ち主はエル・ムルク、
死んでいたのは彼のお抱え運転手だったが
エル・ムルク自身はその晩クラブから
リムジンに乗って出かけた後、戻ってきていなかった。

そしてその晩、警察署に匿名の電話がかかってくる。
「エル・ムルクがルイネーション(破滅)街で絞首台に吊されたぞ」

しかし、ロンドンの地図には
"ルイネーション街" という地区は存在しない・・・


全体から受ける印象は、推理小説というよりは探偵小説。
全編にわたって怪奇趣味が満載で、横溝正史の初期作品とか
江戸川乱歩の怪奇短編に通じる雰囲気がある。

舞台となるのは、見るものすべてが霧に沈む街・ロンドン。
「霧に浮かぶ絞首台の影」とか
「死人が運転するリムジンが濃霧の中を疾走する」とか。
その手のものが大好きな人にはたまらないだろう。

ただ、ミステリとしてみるといささか残念な気もする。

リムジンの謎も分かってみるとちょっとがっかりだし
終盤で明らかになる "仕掛け" も、
90年前ならともかく(本書の発表は1931年)
現代でこれをやったら噴飯物だろう。
「少年探偵団」シリーズあたりでよく見たような気がするネタだ(笑)。

そして一番の問題は、ミステリを読み慣れた人なら
かなり早めに犯人の見当がついてしまうことかな。
カーといえば、密室や不可能犯罪のみならず、
犯人の意外性もかなりのもののはずなのに。

事件やイベントをつなげて、最後まで面白く読ませる
ストーリーテリングは充分に発揮されてると思う。
むしろ、作者には犯人を隠すつもりが
(あまり)なかったようにも感じさせるのだけど、まさかね。

本書はカーのデビュー第2作。
前作「夜歩く」で登場し、ジェフといい仲になった
シャロン・グレイ嬢の再登場が個人的には嬉しいところ。
もっとも、ジェフとの恋人関係は終わってたみたいだけど(笑)。

雰囲気だけなら★3つ半。ミステリとしてなら★1つ半。
あわせて★2つ半というところで。

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