SSブログ

運命の八分休符 [読書・ミステリ]

運命の八分休符 (創元推理文庫)

運命の八分休符 (創元推理文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公は田沢軍平という青年。
大学を卒業して3年経った今も定職に就かずにぶらぶら。
時折舞い込む雑用をこなす、”何でも屋” みたいな生活をしている。

美男子とはほど遠く、メガネの下にはどんぐり眼、
青田の案山子みたいに泥臭い風貌。

しかし生来のお人好しで、困った女性に出合うと放っておけない。
ついつい深入りして世話を焼き、巻き込まれた事件を解決に導く。
その心の優しさ誠実さゆえに、女性からも想ってもらえるのだが
結局、相手と ”いい仲” になることはなく、最後には別れが訪れる。

 巻末の解説にもあるけど、『フーテンの寅さん』みたいだね。
 こういう人が探偵役のミステリも珍しいだろう。

そんな軍平君が巻き込まれた5つの事件を収めた短編集。

「運命の八分休符 〈装子〉」
友人からの紹介で、売れっ子ファッションモデル・並木装子(そうこ)の
ガードマンを引き受けた軍兵。契約終了まで1か月となった頃、
トップモデルの白都サリが東京のマンションで殺される。
ライバルだった装子は殺人の容疑をかけられ、軍兵に助けを求めた。
装子は、サリの愛人でデザイナーの井縫(いぬい)レイジが犯人だという。
しかし犯行時刻には、レイジは大阪でファッションショーを開いていた。
タイトルがカッコいいなあと思っていたんだが、
ちゃんと事件に関連する意味も持たせてある。

「邪悪な羊 〈祥子〉」
曲木(まがりぎ)レイと剛原(ごうはら)美代子はともに小学1年生の女児。
宮川歯科医院に患者として二人そろって来院していたが、
医院に電話がかかってくる。剛原の父と名乗った電話の相手は、
母親が事故に遭ったのですぐに美代子を帰してほしいと告げる。
しかし歯科医の宮川祥子(さちこ)は、間違えてレイを帰してしまう。
レイはそのまま家に帰らず、夜になって曲木家に脅迫電話がかかってくる。
『間違えて誘拐してしまったが、今さら止めるわけにはいかない。
 身代金として3000万円用意しろ』
美代子の父は大手スーパー・チェーン・マルハチの社長、
一方レイの父はマルハチの店長だったが、使い込みでクビになっていた。
身代金の金繰りがつかないレイの父は、美代子の父に泣きつくが、
使い込みの前歴のために、一切の協力を拒否されるのだった・・・
責任を感じた祥子は、高校時代の同級生である軍兵に助けを求める。
誘拐ものは作者の得意技。今回も逆転の発想で意外な真相を引き出す。
高校の入学式で祥子に一目惚れし、10年経った今も
その思いを秘めたままの軍兵クンがいじらしい。

「観客はただ一人 〈宵子〉」
軍兵が住んでいるアパートに宵子(よひこ)と名乗る劇団員が転がり込む。
アパートの隣室に住む若者とつきあっていたが逃げられたらしく、
宵子は彼の帰りを待つためか、軍兵の部屋で
勝手に飲み食いし、寝泊まりするようになる。
(とはいっても、男女の仲にならないのが軍兵らしいが)
ある日、軍兵は宵子に連れられて新劇界の大女優・青井蘭子の
”一晩きりの幻の舞台” という触れ込みの一人芝居を見に行くことに。
100人だけの観客はすべて招待によるもの。
その中には蘭子が過去に浮名を流し、婚約までした5人の男も含まれていた。
しかしその劇のラスト、蘭子は舞台上で銃で撃たれて死亡してしまう。
劇で使用された小道具の銃には弾丸は入っておらず、
彼女に撃ち込まれた弾丸は誰が、どこから撃ったのか・・・
発砲の瞬間の特定、客席の弾痕の解釈などが二転三転して
最後の大逆転まで、これを短篇に使ってしまうのはもったいない。
十分長編を支えられるネタだと思うのだけどね。
最後に軍兵が導き出す青井蘭子の心情は、〈花葬〉シリーズを
彷彿とさせるし、連城ミステリとしては本書で1位だろう。
宵子さんも悪い娘ではないのだけど、軍平くんの手には負えないかなぁ。

「紙の鳥は青ざめて 〈晶子〉」
住宅街を歩いていた軍兵は、突然飛び出てきた犬にまとわりつかれて
一軒家に入り込むことになるが、そこの居間で出くわしたのは
ナイフで左手首を切って失神している着物姿の女性だった。
彼女の名は織原晶子(あきこ)、夫の一郎は1年前に
晶子の妹・由美子と駆け落ちし、二人とも行方不明になっていた。
やがて二人が金沢にいることがわかり、晶子は由美子の婚約者である
夏木明雄とともに二人に会いにいくが解決策を見いだせず、
さらに夏木まで消息を絶ってしまう。
軍兵が晶子を助けた翌朝、新聞に群馬県の山中で
男女の腐乱死体が発見されたニュースが載る。
軍兵は晶子とともに身元の確認に向かうが・・・
作中、晶子がTV番組に出て、夫の一郎に呼びかけるシーンがあるのだが
そういえばあの頃(作品の発表は1982年)、蒸発した人間を探して
家族がTVに出演する番組があったよなあ・・・
なんて思い出したけど、今でもあるのかな?
事件の構図が根底から覆ってしまうラストの逆転が鮮やか。

「濡れた衣装 〈梢子〉」
大学時代の先輩、高藤(たかふじ)に連れられて高級クラブへ来た軍兵。
新米ホステスの梢に相手をしてもらっていた時、
控え室で毬恵というホステスが負傷して失神した状態で見つかる。
毬恵は、クラブの経営者でママのパトロンでもある羽島五郎を誘惑し、
常連客である国会議員・堂本を巡っても他のホステスとも確執があった。
作中、軍兵と梢がコップの水を掛け合うシーンがあるのだが、
二時間前に会った女性に、ここまで軍兵君と絡ませる。
この行為の意味も含めて、男女の展開を描くのが上手いのは流石。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-11 10:23) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-11 10:24) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-11 10:24) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント