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小さな異邦人 [読書・ミステリ]


小さな異邦人 (文春文庫)

小さな異邦人 (文春文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/08/04
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

作者は2013年10月に65歳で逝去された。今の私と何歳も違わない。
なんとももったいないし惜しい人を亡くしたと思う。

本書の親本は2014年3月に刊行されており、
作者にとっては最後の短編集となった。

「指飾り」
主人公は相川康行、42歳のサラリーマンだ。
3年前に妻・礼子と離婚したが、会社からの帰路で
礼子に似た女の後ろ姿を見かける。
その様子を会社の同僚・倉田和枝に見られてしまい
それがきっかけで彼女と一夜を共にすることになるが・・・
ミステリ要素は希薄。
男女の恋愛の駆け引きに重点が置かれた恋愛小説かな。

「無人駅」
新潟県の六日町にある無人駅で降りた女は
タクシーで旅館「双葉」へ向かうが
到着しても何故か降車せず、駅前へ戻ってスナックに入る。
男と待ち合わせをしているようなのだが・・・
謎めいた女の行動に過去の犯罪が絡み、切れのいいラストを迎える。

「蘭が枯れるまで」
専業主婦の有希子は、通っていたフラワー・アレンジメント教室で
小学校時代の同級生・多江と再会する。
お互いに夫婦仲が冷え切っていることを知り、
多江は有希子に双方の夫を殺す交換殺人を持ちかけるが・・・
いやあこの結末はスゴい。
最後の最後に二段三段構えで驚きが襲ってくる。

「冬薔薇」
団地の一室で主婦・悠子が目覚めるところから始まる。
そこへ電話をかけてきたのは、悠子の浮気相手の男。
近くのファミレスに来ているという。
部屋を出て男の元へ向かう悠子だが、周囲のものに違和感を感じる。
時間感覚のずれ、見知らぬ女物の靴、湿っているドアノブ、
エレベーターで乗り合わせた少年が見せる不審な行動。
さらにはタイムスリップが起こったような展開まで見せ、
不条理SFかとも思わせるが、ラストできれいにすべての謎が解消する。
ちょっと島田荘司を思わせるが
明らかになる真相はまぎれもなく連城ワールド。

「風の誤算」
入社10年のベテランOL沢野響子の上司・水島課長は
さえない中年男性なのだが、芳しくない噂が多々あった。
エレベーター内で女子社員に対してセクハラ行為に及んだらしい、
若い愛人を囲っているらしい、株で大儲けをしたらしい・・・
彼のもとへ時折かかってくる無言電話のこともあり、噂は噂を呼ぶ。
果ては連続通り魔殺人の犯人ではないか、とまで。
結末は意外だが、ミステリと言うよりはちょっぴりホラー風な作品。

「白雨(はくう)」
高校1年の乃里子はクラスメイトからのいじめに悩んでいた。
そんなとき、乃里子は母・千津あての手紙を読んでしまう。
差出人の名は笹野俊太郎。それは遠い昔、千津の父親(乃里子の祖父)が
母親(祖母)を刺してのち、自ら命を絶った事件の原因となった男だった。
作者の代表作である『花葬シリーズ』を彷彿とさせる男女の情念の物語。
ラストで明かされる "衝撃の事実" によって、
事件の様相が一気にひっくり返るさまは見事。
本書の中でも一押しの連城ミステリ。

「さい涯(は)てまで」
JRの駅職員・須崎は、同僚の石塚康子と不倫関係になり、
二人は月に一度、鉄道旅行に出かけるようになる。
しかし旅行の数日後には、須崎のいる切符売りの窓口に
決まって同じ女が現れ、浮気で利用した駅までの
二人分の切符の購入するようになった。
康子は須崎の妻の差し金ではないかと疑うが・・・
ミステリと言うよりは男女の愛憎と葛藤の物語。

「小さな異邦人」
表題作だが、これが作者の遺作となったらしい。
高校2年の秋彦を筆頭に一代(かずよ)、三郎、龍生(たつお)、
奈美、晴男、雅也、そして最年少の弥生は4歳という
母1人子供8人という大家族が舞台。
物語の語り手は中学3年の一代が務める。
そんな一家9人の団欒の時間にかかってきた電話は
『子供の命を預かっている。3000万円を用意しろ』と告げる。
しかし子供たちは全員揃っている。はたして犯人の真意は?
ううん、なんとなくオチは予想がついてしまうが、
必ずしもスッキリしたものではないなあ。
巻末の解説では「誘拐ものの傑作」と褒めちぎってるけど
私には捻りすぎなようにも感じる。
ちなみに8人も子供がいるので、彼らの間の長幼関係の把握が
なかなかできなかったよ。どっちが年上か年下かさっぱりだったが
途中である "規則" に気づいたので、それ以降は悩まなくなったよ。


連城作品にしては星の数が少ないのは、
ミステリ要素が少ない作品が含まれていることと
私の好みから外れた作品が多いことが理由。

まあ、"連城三紀彦" というブランドだから、
事前の期待が大きすぎたのかも知れない。

あくまで "私基準" での評価なので、
恋愛小説、あるいは恋愛を絡めたサスペンスが好きな方なら
高評価になるのではないかなと思う。

ちなみにミステリが好きな人への私の一押しは「白雨」、
次点は「蘭が枯れるまで」。

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