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化学探偵Mr.キュリー [読書・ミステリ]


化学探偵Mr.キュリー (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2013/07/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

キュリーと言えばマリ・キュリー。
一般的には「キュリー夫人」として有名なフランスの学者さん。
人生で2度もノーベル賞を受賞した(しかも物理学賞と化学賞)という
元祖リケジョのスーパーレディなんだが、
本作の主人公は「Mr.キュリー」というあだ名で呼ばれる
れっきとした男性である(Mr.だからね)。

その「Mr.キュリー」こと四宮(しのみや)大学理学部化学科の
沖野晴彦准教授が、大学の内外で起こる事件の数々を
解決していく連作ミステリである。相棒(ワトソン役)となるのは
大学庶務課の新人職員・七瀬舞衣(ななせ・まい)。


「第一話 化学探偵と埋蔵金の暗号」
大学の構内各所で、地面に穴を掘られるという事件が続発する。
学内のモラル向上のため、『モラル向上委員』を務める沖野とともに
舞衣は被害状況の調査を始めるが・・・

「第二話 化学探偵と奇跡の治療法」
舞衣の叔母が乳癌と診断される。しかし主治医の高河原は
通常の治療ではなく "ホメオパシー" を勧める。
叔父からそのことを聞いた舞衣は沖野に相談するが・・・
ちなみに "ホメオパシー" については、書き出すと長くなるので
興味のある人はwikiで(笑)。
ちなみに作中で沖野は「(医学ではなく)宗教だ」と断じている。

「第三話 化学探偵と人体発火の秘密」
四宮大学理学部が主催した講演会に主賓として呼ばれた松宮教授。
講演会後に開かれた懇親会の席上、挨拶を終えた松宮の頭部が
突然燃え上がるという事件が起こる。
テーブルの上にあったロウソクの炎が原因ではないかとの意見に、
舞衣は驚く。そのロウソクに点火したのは舞衣だったからだ。
舞衣は沖野とともに原因究明に立ち上がる。
うーん、ラストはちょっと身につまされる人もいるかな。

「第四話 化学探偵と悩める恋人たち」
文学部4年の浅沼浩介は、年上の恋人である
大学院生・聖澤(ひじりさわ)涼子と同棲することになった。
しかし涼子は、浩介との肉体的な接触を頑なに許そうとしない。
しかも、時折辛そうな表情を浮かべるようになったのだ。
庶務課へメンタルヘルス相談に訪れた浩介から事情を聞いた舞衣は
涼子の指導教官である沖野の元を訪れるが・・・
フィクションとしてはきれいな幕切れを迎えるが、
現実にこういうシチュエーションになったら、
なかなかハッピーに終わるのは難しそうな気もする。

「第五話 化学探偵と冤罪の顛末」
人気アイドル・美間坂剣也(みまさか・けんや)は自宅への帰路、
病気で倒れていた女性を介抱するが
数日後、剣也は婦女暴行をはたらいたとして脅迫を受ける。
高校時代の友人である剣也から相談を受けた舞衣は
沖野に助けを求めるのだが・・・


タイトルに "化学" とあるものの、そっち方面の知識は全く必要ない。
各話の扉ページに周期表や構造式やらが載ってるが、
それが何を意味しているのか分からなくても支障はない。
毎回、解決の直前になると沖野が猛然と反応式と構造式を書き出す
・・・なんてこともない(笑)。
謎や事件そのものは、ごく普通の常識の範囲内で解決されていく。

とは言っても、ストーリーのあちこちでいろいろな
科学的/化学的な蘊蓄が語られていて、それはそれで面白く読める。

沖野の変人振りや、毎回ヒロインが事件を持ち込んでくるところなど
東野圭吾の『ガリレオ』に似ている部分もあるが
あちらの湯川よりもこちらの沖野の方が
ちょっと子供っぽいところがあるかな。
第五話での、舞衣と剣也の仲に嫉妬してるような描写など
とても微笑ましくて、親しみがもてるのではないかと思う。

物語は、ヒロインの舞衣を中心に語られていくのだが、
明朗快活なお嬢さんで彼女の存在も本書の魅力の一つだろう。

このシリーズは人気があるみたいで、
なんと現在までに6巻も出ているらしい。
しばらく楽しめそうである。

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