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推定脅威 [読書・冒険/サスペンス]


推定脅威 (文春文庫)

推定脅威 (文春文庫)

  • 作者: 未須本 有生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第21回松本清張賞受賞作。

この賞は、タイトルでもわかるように
当初は「広義の推理小説又は、歴史・時代小説」を対象にしていたが、
第11回(2004年)以降は
「ジャンルを問わぬ良質の長篇エンターテインメント小説」を
対象とするようになった。
だから「烏に単は似合わない」(阿部智里)のような
ファンタジーだってOKの賞でもある。


領空侵犯してきた正体不明の航空機への対応のため
航空自衛隊小松基地をスクランブル発進した2機のTF-1。
しかしターゲットと会合してまもなく、1機が謎の墜落を遂げる。

TF-1は、老朽化したF-15の後継として予定されていた
F-35の開発/配備が遅れたため、
その間のつなぎとして開発された国産機だった。

契約・開発の主体となったのは四星重工。
本作のヒロイン・沢本由佳は
そのTF-1技術管理室に所属するエンジニアだ。

墜落原因はパイロットの操縦ミスとされたが、
納得できないものを感じた由佳は、
かつて四星の社員であった倉崎とともに個人的に調査に乗り出す。

やがて二人は、墜落が単なる事故やミスではなく
周到に仕組まれた陰謀の産物であることに気づいていく・・・


裏表紙の惹句には「航空サスペンス」とあるが、
実際は「航空業界を舞台としたサスペンス」というのが正しい。

全編を通じて航空機の飛行シーンは1割もなく
ほとんどのストーリーは地上で進行する。
表紙にあるTF-1のシルエットのイラストを見て
スペクタクルな空中戦とかを期待すると当てが外れる。

そして、このような陰謀を計画できる人間というのは限られてくるわけで
誰が黒幕か、という意味での犯人当てミステリとしての要素も薄い。

じゃあ本作は駄作か、というとそんなことはない。
名のある賞を受賞するだけあって、面白い作品になってると思うし
だからこそ私だって星3つ半つけた(笑)。

たとえば航空機の開発と一口に言ってもさまざまな行程があり、
多くの人間たちが関わっている。十人いれば十通りの人間模様がある。
さらに、ライバル関係にある会社同士の張り合いなども描かれている。
作者はかつて大手航空機メーカーで設計に携わっていたとこのことで
さすがにそのあたりの描写は堂に入っていて
素人でも興味深く読める「業界内幕情報小説」にもなっている。

そして、航空機開発のエンジニア、そして航空自衛隊のパイロットと
圧倒的な男社会の中で、ヒロインの頑張りが認められ評価されていく
「お仕事小説」でもある。

本書で主役を張る由佳さんだが、頭の回転も速く機転も利くし、
かといって無闇やたらと出しゃばることもなく
(一部を除いて)一緒に仕事をする男性とも
良好な関係を築くことに長けている。
何事にも積極的に立ち向かう逞しい女性で、物語が進むうちに
倉崎とも恋仲になっていく。
このヒロインの魅力こそ、この作品最大の "読みどころ" だろう。

でも、読んだ人なら分かると思うけど、
(あることに関して)一言余計なんだよなぁ。
これさえなければ完璧なのにねぇ・・・(笑)。

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