SSブログ

魔導の系譜 / 魔導の福音 / 魔導の矜持 [読書・ファンタジー]


魔導の系譜 (創元推理文庫)

魔導の系譜 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/21
  • メディア: 文庫
魔導の福音 (創元推理文庫)

魔導の福音 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: 文庫
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

第一回創元ファンタジイ新人賞で優秀賞を受賞した
『魔導の系譜』から始まった「真理の織り手」と呼ばれる
シリーズの第1巻から第3巻までである。

舞台となるのは、中世の西洋を思わせる異世界。
タイトルにある "魔導" とは、いわゆる魔法のことで
火・水・風などを操る超常の能力を指し、
その力を持つものは「魔導士」と呼ばれる。

"魔導" の力を持つかどうかは先天的に定まっており、
その力を備えたものは "普通人" の間に一定の割合で生まれてくる。
しかし、その能力者に対する扱いは国によってかなり異なる。


第1巻『魔導の系譜』の舞台となる国・ラバルタでは
魔導士は蔑みの対象となっている。たとえ高貴な家に生まれようとも、
僧院に送られてそこで一生を終えることを定められてしまう。

しかし魔導士を "武力の一つ" として評価している国王は
最高機関<鉄(くろがね)の砦>を設け、
そこに国内最高レベルの魔導士を集めて組織化していた。
腕に覚えのある魔導士たちは、人並みの扱いを手に入れるためにも
<鉄の砦>に選ばれることを目指していた。

田舎で魔導の私塾を開いている三流魔導士レオンは、
ある日<鉄の砦>からゼクスという10歳の少年を預けられる。
桁違いに優れた潜在能力を持ちながら、頑なに心を閉ざし、
魔導を学ぶことを拒否するゼクスだったが
辛抱強いレオンの指導のもと、やがてその才能を開花させていく。

7年後、ふたたび<鉄の砦>へ迎えられたゼクスだったが
そこで出会った貴族出身の魔導士・アスターとの出会いが
ゼクスの運命を大きく変えていくことになる。

さらに3年の後、ラバルタ北方のカデンツァ地方で反乱が勃発。
ゼクスとアスターを含む魔導士部隊も鎮圧のために出兵するが・・・


第2巻『魔導の福音』では、『-系譜』でのラストシーンから
6年ほど時間軸を巻き戻し、舞台もラバルタの隣国エルミーヌに移る。
この国では、生まれた子供が "魔導" の持ち主と判明すると、
速やかに "神のもとに返す"、つまり命を奪うことが習わしになっていた。

主人公となるのは地方貴族の嫡男・カレンス。
16歳になった秋、彼は王都にある王立学院への
入学生として推薦されることになった。
しかし時を同じくして妹リーンベルが "魔導" の持ち主と判明する。
妹がその命を散らすことに対して何も出来なかったカレンスは
逃げるように故郷を後にして王都へ向かう。

王立学院での生活はカレンスに充実した日々をもたらす。
親友となったアニエスは、学院始まって以来の
文武にわたる最高成績を叩き出した生徒で、実は女性であった。
本来女子の入学を想定していなかった学院だったが
その優秀さゆえ、特例によって入学を認められていたのだ。

しかし楽しい日々も永久には続かない。
21歳になったときに故郷から届いた報せは
父の危篤を知らせるものだった。
そして死を目前にした父が、帰郷したカレンスに打ち明けた "秘密"。
それは封印してきたはずの過去と向き合うことを彼に強いるのだった。

エルミーヌの国王もまた、魔導士の "戦力" としての価値を認め、
ラバルタ国内の反乱勢力への支援と引き換えに
彼らから "魔導技術" を導入することを目論むことになる。

後半になると前作のメインキャラ二人も本書の中に登場して
カレンスの運命に大きく関わっていく。


第3巻『魔導の矜持』は、カレンスの帰郷から5年後に始まる。
作中に年号が記載されているのでメインキャラの年齢を計算してみると、
ゼクスは28歳、カレンスは26歳になっている。
ちなみにレオンは42歳、なんと厄年だ(笑)。

舞台はふたたびラバルタに戻る。内乱は停戦となったものの、
国内の魔導士への迫害はいっそう厳しさを増し
各地で魔導士が襲われる事件が続発していた。

ヒロインとなるデュナンは16歳。魔導士の能力を持って生まれ、
私塾に入って技を磨いていたが、どうにも力が伸びず落ちこぼれ気味。
その私塾もまた村人に襲われ師や兄弟子たちは殺害されてしまう。
生き残った弟妹弟子3人を連れて逃亡するデュナン。

彼女ら4人を救ったのは、地方領主の庶子ノエと元騎士のガンド。
デュナンは自分たちが魔導士であることを隠し、
ノエたちと共に追っ手を逃れて旅を続けていくのだが・・・

冒頭から第1作・第2作のキャラも多数登場し、
後半では協力してデュナンたちを救うべく行動を始めることになる。


異世界ファンタジーではあるけれど、内包したテーマは意外と重い。

第一には "多数派によって虐げられる少数派" の物語だろう。

超常の力を持つが故に、その力を持たない
多数の "普通人" によって迫害される魔導士たち。

このあたりはファンタジーよりもむしろ
アメリカSFの黄金時代や、日本SFの黎明期の
超能力者(いわゆるエスパー)ものの雰囲気を感じた。

私の知る限り、「スラン」(A・E・ヴァン・ヴォークト)が嚆矢かなぁ。
その後、平井和正をはじめとして、
多くの日本人作家も超能力SFを発表してきた。
1977年には、超能力者たちが起こした反乱を描いた
「地球(テラ)へ・・・」(竹宮恵子)いう堂々の超大作まで登場した。

ちなみに、『-系譜』で起こるカデンツァ地方の反乱も、
やがて魔導士たちが安住の地を求める戦いへと変化していく。

さらに、本シリーズ中の少数派は魔導士にとどまらない。
この世界で、男性に比べて権利が制限されている女性が
自らの力を発揮する場を求めての戦いも描かれるし
特筆すべきは、本作中で重要キャラの一人が
自らを "性的少数派" だとカミングアウトすることだ。
この手の作品に(単なる賑やかしのためでなく)
LGBTが登場することは珍しいことだと思うし、
現代に書かれた作品ならではのことと言えるだろう。


第二には、自分の道を捜す者たちの物語であること。
たとえばカレンスの中には、妹を見殺しにした後悔と贖罪の意識が、
ノエの中には父の期待に応えられない自分へのコンプレックスがあり、
それが物語の中で彼らを動かす原動力となっている。

自分は何のために存在するのか? 何をするべきなのか?
この世界の中で、自分に与えられた "役割" を見つけようと
必死にあがく姿が描かれていく。

そしてそれは若者だけにとどまらない。
三流魔導士のレオンの中には、他の魔導士への嫉妬があり
元騎士のガンドは、怪我が原因で戦う気力を失ってしまっている。
しかし物語が進むうちに、自分にしか出来ないことを見つけたり
守るべきもののために再び剣をとる覚悟を固めたりしていくのだ。
挫折した大人が再び自らの矜持を取り戻す物語とも言えるだろう。

レオンとガンドには作者も愛着があるらしく
『-矜持』のあとがきで二人
に対する思い入れを語っている。


さて、シリーズを重ねるにつれて登場人物も多岐にわたり
その数も半端ではない。それなりに出番のあるキャラに限っても
両手両足の指では足りないだろう。
しかしたいしたものだと思うのは、みなキャラ立ちがはっきりしていて
その書き分けがきっちり出来ていること。

後続の巻になればなるほど、物語に絡んでくる人物も増えていくのだが
前巻までに既出のキャラのうち、必要な者を必要に応じて
過不足無く再登場させる、その交通整理ぶりも見事だ。

既刊の3巻、すべて文庫で400ページ超えというボリュームながら
上記のように筆力は申し分なく、ページを繰る手を止めさせない。
いやはやたいした新人さんである。


最初のうちは異世界の年代記か、主要キャラの半生記みたいなもので
これからかなり長く続くシリーズになるんだろうと
勝手に思っていたんだが、東京創元社のホームページによると
どうやら次巻『魔導の黎明』で完結となるらしい。

おそらく本シリーズは、魔導士が蔑まれ迫害されてきた世界が、
新しい価値観へと変化していく "歴史の転換点" を
描くものになるのだろう。

さらには、ラバルタから流出した魔導技術が
他国へと "拡散" していくことは
この世界の軍事バランスを崩すことにもつながりそうだ。
それによって新たな戦いが始まる可能性もある。

メインキャラたちの辿る運命ももちろんだが
この世界が迎える未来もまた気になる。
完結編を期待して待ちたいと思う。

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ: