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偽恋愛小説家 [読書・ミステリ]


偽恋愛小説家 (朝日文庫)

偽恋愛小説家 (朝日文庫)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/07/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

晴雲(せいうん)出版社主催の<第一回晴雲ラブンガク大賞>を受賞して
デビューした恋愛小説家・夢宮宇多(ゆめみや・うた)。
新人編集者・井上月子は彼の担当となるが
受賞作に続く第2作の執筆がなかなか進まず、焦る日々。

そして数ヶ月後、夢宮の受賞作『彼女』に盗作の疑いが持ち上がる。
月子は夢宮への疑惑を胸に秘めながら彼に原稿の督促を続ける。
そんな二人が出くわす事件を描いた連作ミステリ。
探偵役は夢宮、月子はワトソン役である。

「第一話 シンデレラの残り香」
TVの企画で、"現代のシンデレラ"と呼ばれる人物に
インタビューすることになった夢宮。
相手はインドネシアで石油事業に成功して億万長者となった
一色慶介氏の妻・笙子である。
慶介はインドネシアのパーティーで笙子に一目惚れし、
帰国してから彼女のつけていた香水だけを頼りに
数百人の女性の中から彼女を見つけ出したという。
しかしインタビューを終えた夜、事件が起こる。
本書の中で、夢宮はシンデレラの物語に異論を唱えるのだが、
言われてみればなるほどと思える疑問点だったりする。

「第二話 眠り姫の目覚め」
<浜本恋愛文学新人賞>を受賞したのは
22歳の女性・仮谷紡花(かりや・つむはな)。
高校卒業後は引きこもり生活を続けていたが、受賞を機に
俳優・沖笛謙と知り合って意気投合、婚約までしてしまった。
世間は彼女のことを "眠れる森の美女" と呼んだ。
その授賞式パーティーに招かれた夢宮と月子。
月子は会場となったホテルに入る紡花を目撃するが
なぜかパーティーに現れない。
そして授賞式の終了後、ホテルで服毒死体が発見される・・・
ここでも夢宮は "眠れる森の美女" の物語についての
かなりショッキングな解釈を開陳するのだが、
どこまでが通説でどこからが作者の創作なのかはよく分からない。
そして夢宮が解き明かす事件の真相も意外だが
最後にもうひとひねり。

「第三話 人魚姫の泡沫(うたかた)」
本作の冒頭、夢宮くん恒例の "童話蘊蓄" が始まるのだが
今回は "人魚姫" について身もフタもない話が始まる。
しかしまあこれは後々の展開に絡んでくるからね。
その夢宮くんは新作執筆を迫る月子の前から姿をくらましてしまう。
月子は、『彼女』のヒロインの出身地である伊豆高原へ向かうが
そこで再会したのは、高校時代の片思いの相手・美船。
そして、美船の婚約者は、月子のかつての親友・喜代だった。
穏やかではない心を抱えて、二人と同じ宿に泊まる月子だが・・・
知らなければどうでもよかったことでも、
知ってしまったが故に苦しむこともある。
月子さんの今回の境遇には同情を禁じ得ない。
でもまあ、彼女を救う人はちゃんと現れます。

「第四話 美女は野獣の名を呼ばない」
ついに週刊誌に夢宮の盗作疑惑の記事が掲載されてしまう。
夢宮の無実を信じる月子は、彼から聞いた
恋愛小説『彼女』のモデルとなった女性・涙子(るいこ)に
会いにいくが、そこで驚くべきことを知る。
小説の中でも、現実世界でも、涙子の夫は服毒自殺しているのだが、
死因が服毒であったことは誰も知らないはずだという・・・
夢宮は盗作のみならず、殺人者でもあったのか?
夢宮と『彼女』にまつわる謎が一挙に解き明かされる。

そして、「エピローグ」でさらなるダメ押し。

うーん、"答えははじめから目の前にあった" ってのは
ミステリの解決編ではよく言われることだけど、
久しぶりにその言葉を実感したよ。

これで完結かと思ったのだけど
続編が出ているらしい。文庫化を待ちます。

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