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オチケン、ピンチ!! [読書・ミステリ]


オチケン、ピンチ!! (PHP文芸文庫)

オチケン、ピンチ!! (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/03/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★

私自身は、寄席には一回だけ行ったことがある。
もう30年近く昔のことだ。
誰が出てきたのかもよく覚えていないのだが
唯一記憶にあるのは林家木久扇(当時は木久蔵)。
普通の噺ではなく、片岡知恵蔵とか大河内傳次郎とか林家彦六とかの
モノマネをやっててかなり受けてた。

いつかまた行きたいなあと思っているうちに30年。
時の経つのは早いものだ。

閑話休題。


落語に興味がないのに無理矢理オチケン(落語研究会)に
入部させられてしまった学同院大学の学生・越智健一(おち・けんいち)。
彼とオチケンの部員たちが出くわす事件を描いた連作ミステリ。

彼を引き込んだのは、噺家・花道家春蔵(はなみちや・はるぞう)の
一番弟子でもあるオチケン部長・岸弥一郎と、
飄々としていて正体不明な中村誠一の二人。
何せ学同院大学には「部員が3人を切ったサークルは即廃部」という
厳しい規則があるゆえ、哀れ越智くんは生け贄となったのだ。

本作はシリーズ第2弾で中編2編を収録している。


「三枚の始末書」
大学の教室の窓ガラスが何者かに割られてしまう。
容疑をかけられたのはオチケン部長の岸。
このままでは岸は始末書を提出しなければならず、しかも大学には
「始末書を3枚書いた者は無条件で退学」という規則があった。
過去の悪行で既に2枚の始末書を書いている岸が退学になると
オチケン部員は2人になり、
これも自動的に廃部になってしまう。
中村から捜査を命じられた越智くんは、
学内のあちこちで不審な事件が起こっていることを知る・・・


「粗忽者のアリバイ」
ファミレスの駐車場に並ぶバイクの群れ。
そのタイヤを次々とパンクさせてる岸の姿を目撃する越智くん。
一方、噺家の松の家緑葉(まつのや・りょくは)が失踪した。
彼は岸とは年齢も同じで入門も同時期。
ゆえに岸に対して一方的なライバル心を持っていた。
緑葉が出演予定のお笑い研究会主催のライブが迫ってきており、
お笑い研の林原から頼まれて、
緑葉を探すことになった越智くんだったが・・・


日常の謎系ミステリではあるけれども、
大学生のサークル生活を舞台にしたドタバタコメディでもある。
私自身はこんな "濃い" サークル活動の経験はないのだけど、
(越智くん自身はたいへんなのだが)作品中に登場するキャラたちは
実に楽しそうで、読んでいる方も楽しくなってくる。
だからちょっぴり羨ましい気分も味わったよ。

そんな本書の中にあって異彩を放つのは学生部管理課主任・土屋。
四角四面で融通が利かず、規則が服を着て歩いている様な厳格な男。
しかし学生一人一人のデータを諳んじて見せるなど、
学内の情報はしっかり把握している。
ユルさの極致のようなオチケンとは対照的な人物なのだが
そんな彼が、一瞬だけど人間味を見せるシーンは印象深い。

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