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妃は船を沈める [読書・ミステリ]


妃(きさき)は船を沈める (光文社文庫)

妃(きさき)は船を沈める (光文社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

臨床犯罪学者・火村英生と相棒のミステリ作家・有栖川有栖が
事件に挑むシリーズの一編。

本作は中編二つからなる二部構成になっている。

「第一部・猿の左手」
自動車が堤防から海に転落した。
その内部で死体となって発見された男・盆野(ぼんの)。
多額の負債を抱えていたことから自殺かと思われたが
解剖の結果、他殺の疑いが浮上する。
しかも盆野には1億円の生命保険がかけられていた。
盆野の妻・古都美に会った火村と有栖は、
彼女が友人・三松妃沙子から4000万円近い借金をしていることを知る。
資産家の妃沙子は年下好みで、常に若い男を周囲に侍らせていた。
そしてその中の一人で妃沙子の養子となっていた潤一を含めて
容疑者は3人となるが、古都美も妃沙子も潤一も
それぞれ犯人になり得ない理由があった・・・

タイトルにある「妃」(きさき)とは三松妃沙子のことで、
作中、彼女は周囲の男たちからそう呼ばれている。
本書は妃沙子を中心に物語が進行するといっていいだろう。

章題の「猿の左手」とは、彼女が持つ
"幸運を呼ぶアイテム" のこと。
願い事を三つ叶えてくれるという猿の手のミイラだ。

この設定は、怪奇小説作家ウイリアム・W・ジェイコブズの
『猿の手』という短編から由来しているとのこと。
本編開始前の「はしがき」にそのことが記されているし、
作中でこの短編のネタバレをしていると告げている。
実際、作中でストーリーに触れているが
この短編を未読でも本作を読むのに全く支障はない。

 ちなみに、『猿の手』はとてもよくできた怪談話だと思う。
 探せば日本の民話にもありそうなパターンだけど、
 それだけ普遍的な怖さがあるのだろう。

作中、火村はこの短編に独自の解釈を示す。
するとあら不思議、ゾンビが徘徊しそうな怪談話が
一転して周到な犯罪小説に生まれ変わってしまう。

火村の解釈イコール作者の解釈なわけで
有栖川有栖というミステリ作家(登場キャラではなくて作者の方ね)の
本格ものに対する感性の凄みを見せつけられる。
いやはやたいしたものだ


「第二部・残酷な揺り籠」
第一部から二年半後。
関西地方を最大震度6弱の大地震が襲う。
そしてその直後、実業家・設楽の邸宅の離れで、
男の射殺死体が見つかる・・・


第二部の内容を詳しく紹介すると第一部の(直接ではないけれど)
ネタバレにもつながりそうなのでここまで。

きっちりとした論理展開で犯人までたどり着く。
当代一の本格派の面目躍如たる作品だ。

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