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怪盗の伴走者 [読書・ミステリ]


怪盗の伴走者 (創元推理文庫)

怪盗の伴走者 (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は明治の末期。帝都東京を舞台に
雑誌記者・里見高広と絵師・有村礼のコンビが活躍する
連作ミステリ<帝都探偵絵図>シリーズ、その第4弾。

とは言っても、今回の主役となるのはレギュラーの二人ではなく、
怪盗ロータスとその捕縛に奔走する東京地裁の検事・安西省吾だ。
3話収録されている、うち2話はロータスと省吾の過去の因縁話。
どちらかというと、シリーズの外伝的な作品集だ。


まずは、怪盗ロータスと安西検事、二人の出会いの物語から始まる。

「第一話 伴走者」
尋常中学校に通う安西省吾は、米問屋で働く少年・蓮(れん)と知り合う。
閉塞的な家庭に束縛を感じていた省吾は蓮の明るさに惹かれ、
やがて親友同士となるが、その二人へ
元治(げんじ)という男から相談を持ち込まれる。
彼の父がかつて持っていた倉の床下に、父の遺産である
金子(きんす)が隠してあるという。
しかし父の死後、倉は人手に渡ってしまい、
今では倉の中には米が積まれている。
倉に米があるうちは金子を取り出すことはできない。
しかし元治がその話をした数日後、なぜか米相場が急騰し始める・・・
少年ながら、蓮が示す才覚はたいしたもの。
もちろん彼は後々怪盗と呼ばれるようになるんだが、
まさに栴檀は双葉より芳し、だ。

「第二話 反魂蝶」
蓮と省吾は、上州の温泉旅館の主人・鹿取と知り合う。
火傷を負ったと称して顔を隠し、香取の宿に泊まっていた伊庭という男。
彼は蝶のコレクターらしく、地元の樵・平蔵から
『山神様の蝶』と呼ばれる珍しい蝶を買ったのだが
その代金を払わずに東京へ帰ってしまったのだという。
しかし、上京してきた鹿取が会った伊庭は、
旅館に現れた男とは背丈が合わず、別人と判明。
"犯人" は本物の伊庭の周辺にいるとみた蓮は、
省吾を相棒に一芝居打つことになったのだが・・・
今回の蓮は探偵役となるのだが、このあたりも本家ルパンを思わせる。
そして彼の変装ぶり、役者ぶりも達者。

やがて時は流れて蓮は怪盗に、
省吾は東京地裁所属の検事にと二人の道は分かれてゆく。

「第三話 怪盗の伴走者」
高広の元に現れた省吾は、自分が
怪盗ロータスの一連の窃盗事件の担当となったと告げる。
そこへロータスが浅草の高層建築「凌雲閣」の
9階にある油絵を盗み出そうとして失敗した、という知らせが入る。
さらに、改めてロータスから凌雲閣宛てに
盗みの予告状が送られてきたとの情報も漏れてくる。
高広は予告日に凌雲閣へやってくるが、
既に入り口の前には取材記者が群れをなしていた。
しかし高広は省吾の伝手で中に入ることができ、
彼と共に油絵の前でロータスが現れるのを待つことになる。
しかし今回、ロータスの真の目的は油絵ではないのだ・・・


とにかく本書はロータスが主役で、高広も省吾も脇役。
礼に至っては出番は高広の半分もないんじゃないかな。
ルパンか二十面相かというくらい劇場型犯罪好みのロータスなんだが
本家に負けず劣らずなかなかの器量を示してみせる。

序盤から彼が打つ手は、すべては自分の思い通りに
事件の舞台をお膳立てするようにはたらいていく。
つまり戦術家ではなく、戦略家なんだね。

さすがの高広も、そこまでの行動力や物事を動かす権力までは
持ち合わせていないわけで、正面切って太刀打ちするのはたいへんそう。
唯一の対抗策は、高広が父親と手を組むことなんだろうが
流石にそこまではやらなそう。

今後もシリーズが続くとして、いつの日か
高広がロータスを捕まえるなんて日は来るのだろうか?

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