躯体上の翼 [読書・SF]
久しぶりに直球ど真ん中のSFを読んだ。
舞台は、文明が崩壊しつつある遠未来。
大都市は、とうに機能を失った炭素繊維構造体の塊と化し
人類はその隙間に細々と生き残っている。
タイトルにある「躯体」とは、この都市群のことだ。
大都市は、とうに機能を失った炭素繊維構造体の塊と化し
人類はその隙間に細々と生き残っている。
タイトルにある「躯体」とは、この都市群のことだ。
一握りの特権階級の者たちは、軍隊・大企業とともに
最大勢力の<共和国>を構成し、他国の文化を滅ぼすために
"緑化政策" という名の細菌兵器による攻撃を繰り返していた。
最大勢力の<共和国>を構成し、他国の文化を滅ぼすために
"緑化政策" という名の細菌兵器による攻撃を繰り返していた。
主人公は、その攻撃飛行船団を防衛するために
遺伝子操作で作り出された人型の生物兵器・員(エン)。
超常の戦闘能力を持ち、数百年という時を
孤独の中で戦いに明け暮れて生きてきた彼女は
ある日、互聯網(ネット)の中で cy と名乗る人物に呼びかけられる。
遺伝子操作で作り出された人型の生物兵器・員(エン)。
超常の戦闘能力を持ち、数百年という時を
孤独の中で戦いに明け暮れて生きてきた彼女は
ある日、互聯網(ネット)の中で cy と名乗る人物に呼びかけられる。
やがて二人はわずかな文字数で意思を伝え合うようになる。
その量、わずか文字コード7個分である。
(作中では全角7文字分で表現されている)
長文を書き込むと、監視者によって削除されてしまうからだ。
その量、わずか文字コード7個分である。
(作中では全角7文字分で表現されている)
長文を書き込むと、監視者によって削除されてしまうからだ。
豊かな知識をもつ彼との対話に喜びを見いだしていく員だったが
<共和国>による次の攻撃目標が cy のいる地であることを
知るにいたり、彼女はある決断をする。
すなわち、<共和国>に叛旗を翻し、
空中戦艦を含む211隻の大船団へ戦いを挑むことを・・・
<共和国>による次の攻撃目標が cy のいる地であることを
知るにいたり、彼女はある決断をする。
すなわち、<共和国>に叛旗を翻し、
空中戦艦を含む211隻の大船団へ戦いを挑むことを・・・
とにかく、異形の未来世界の描写が圧倒的。
炭素繊維構造体の上空を飛翔する飛行船群。
生体兵器である員たちは、他の生物の遺伝子を取り込むことで
自らの身体を "変異" させて戦う。
そんな中にあって最たるものは、後半になって員の前に立ちはだかり
最大の敵となる "道仕(どうし)" だろう。
国家元首直属の軍師であり、船団が危機に陥ったときに
下載(ダウンロード)される。そのために、
船団には "記録用媒体" となる遺体まで積載されているという、
トンデモナイ設定だ。
その道仕の姿たるや、腐臭を放つ肉体を強化外骨格で覆うという
おどろおどろしい姿で、読者に強烈な印象を残す。
最大の敵となる "道仕(どうし)" だろう。
国家元首直属の軍師であり、船団が危機に陥ったときに
下載(ダウンロード)される。そのために、
船団には "記録用媒体" となる遺体まで積載されているという、
トンデモナイ設定だ。
その道仕の姿たるや、腐臭を放つ肉体を強化外骨格で覆うという
おどろおどろしい姿で、読者に強烈な印象を残す。
これに限らず、世界全体から感じるのは
メカニカルな硬質さではなく生物的な不気味さ。
ずっと昔に観たデヴィッド・リンチ監督の
映画「デューン/砂の惑星」をちょっと思いだしたよ。
メカニカルな硬質さではなく生物的な不気味さ。
ずっと昔に観たデヴィッド・リンチ監督の
映画「デューン/砂の惑星」をちょっと思いだしたよ。
何人かのサブキャラのエピソードも挿入されるが
本書の読みどころはもちろん、
圧倒的な物量の敵に挑む彼女の孤独で壮絶な戦いだろう。
文庫で280ページほどの本書の7割近くがそれで占められている。
本書の読みどころはもちろん、
圧倒的な物量の敵に挑む彼女の孤独で壮絶な戦いだろう。
文庫で280ページほどの本書の7割近くがそれで占められている。
身もフタもない言い方をすれば
"文通相手の男の子に、万難を排して会いに行く女の子の物語" である。
もっと言うなら
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んじまえ」というが
"誰も蹴ってくれないのならアタシが蹴りに行く" っていう女の子の話だ。
本書のファンからは怒られてしまいそうな文章だなぁ・・・
石を投げないでください m(_ _)m。
石を投げないでください m(_ _)m。
こう書いてしまうと分かりやすい話のようにも思うが
こういうモチーフがベースにあるが故に、
想像力の極限に挑むかのような異形の未来世界を舞台にした物語に
感情移入が可能になって読み続けられたのだろうとも思う。
こういうモチーフがベースにあるが故に、
想像力の極限に挑むかのような異形の未来世界を舞台にした物語に
感情移入が可能になって読み続けられたのだろうとも思う。
この絶望的な世界設定の中で、主人公の行動の動機付けまで
理解できなかったら、たぶん私は途中で投げ出してしまっただろう。
理解できなかったら、たぶん私は途中で投げ出してしまっただろう。
そしてそういう物語を、こういう形のSFに仕立て上げてしまう作者も
たいしたものだ。ライトノベルの新人賞でデビューし、
ミステリ界での評価が高い人のようだが、こんな作品も書けるんだね。
たいしたものだ。ライトノベルの新人賞でデビューし、
ミステリ界での評価が高い人のようだが、こんな作品も書けるんだね。
とは言っても、その割に星の数が少ないのは、
この未来世界の描写が異質すぎて
いささかついて行くのがたいへんに感じたせい。
もしこの作品を、頭が柔らかかった20代の頃に読んでたら、
もっと高評価になったんじゃないかなぁとも感じた。
この未来世界の描写が異質すぎて
いささかついて行くのがたいへんに感じたせい。
もしこの作品を、頭が柔らかかった20代の頃に読んでたら、
もっと高評価になったんじゃないかなぁとも感じた。