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技師は数字を愛しすぎた [読書・ミステリ]


技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ボワロ&ナルスジャック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

フランスのミステリって馴染みがないんだよねえ。

一時期、メグレ警視シリーズを読もうと思った時期もあったんだけど
読み始める前に挫折したし(おいおい)。
愛川欽也がやってたTVドラマ「東京メグレ警視」シリーズ(1978年)は
1~2本見たはずなんだが、内容はさっぱり記憶にない(笑)。

さて、本書はそのフランス・ミステリの傑作として有名で
私でも名前だけは知っていた。邦訳が出たのは50年くらい前なんだが、
6年ほど前に創元推理文庫で新版として再刊されてる。


舞台となるのはパリ郊外の原子力関連施設。さすが原発推進国。

昼休みが終わり、職場へ帰ってきた二人の技師ルナルドーとベリアール。
技師用の別館へ向かう彼らが聞いたのは男の悲鳴、そして一発の銃声。

建物の2階へ上がった二人が見たものは、技師長ソルビエの射殺死体。
現場となった部屋に人影はなく、そこへ向かう通路には技師二人、
部屋の窓の下は警備員がおり、誰も現場から逃げた者はいない。

そして現場の金庫の扉が開けられ、重さ20kgもの
核燃料チューブが消えていた。
パリ市内を核汚染するのに充分な放射性物質だ。

 文中には核爆発も可能と書いてあるんだが
 流石にそんなことはないだろう・・・と思いたいが
 なにせ本書の発表は1958年だからねえ。

スパイの仕業かとも思われ、司法警察が捜査を開始するが、
現場が完全な密室状態だったことが改めて確認されるだけ。
そして姿なき犯人による銃撃事件はさらに続いていく・・・

捜査の責任者となるのはパリ司法警察の警部マルイユ。
いわゆる名探偵ではなく、錯綜する事態に翻弄されるままに
捜査に従事する。ミステリ世界では "凡人" に近いだろう。

なんでこんなキャラクターを設定したんだろうって思いながら
読んでたんだが、本書は密室を扱ったミステリでありながら、
それよりは登場人物たちの人間模様に焦点が当たってるように思う。

マルイユ警部も関係者に対し、"容疑者" として扱うような
強圧的な態度をとることもなく、時に協力して
真相に迫ろうと試行錯誤していく。

詳しく書くとネタバレになるんだけど、
この警部の姿勢がラストの展開に関わっていくので、
読み終わってみれば納得の設定ではある。

"凡人" と書いたけど、決して無能ではなく、
終盤近くになって得られるたった一つの手がかりから
密室トリックの解明に成功するなど
ちゃんと探偵としての役目を果たすあたり、充分に有能ではある。

作中で用いられるいくつかのトリックもさほど無理がなく
充分に納得のいく作り。

フランスのミステリをこれ一冊で語ってはいけないんだろうが
英米のミステリとはちょっと色合いが異なるのはよく分かった。

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鍵のかかった部屋 [読書・ミステリ]


鍵のかかった部屋 (角川文庫)

鍵のかかった部屋 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

防犯コンサルタント・榎本径(けい)と
弁護士の青砥(あおと)純子のコンビが密室事件に挑むシリーズ。
本書は短編4作を収録している。

「佇む男」
葬儀会社の社長・大石が奥多摩の山荘で死んでいるのが発見される。
死体のあった部屋も、玄関も勝手口も窓もすべて施錠された密室状態。
しかも死体は部屋のドアの前に座るような体勢で位置していて、
ドアからの出入りは不可能。さらに死体の背後には白い幕が張られ、
テーブルには自筆の遺書が置かれていた。
しかし自殺とは思えない司法書士の日下部は、
青砥と榎本に調査を依頼するが・・・
本作の中ではいちばん実現できそうなトリックかな。
オーソドックスと言ってはヘンだが、本作ではいちばん
密室トリックと犯人指摘のロジックがうまくつながった作品かと思う

「鍵のかかった部屋」
窃盗で服役していた会田は、5年ぶりに
姉の再婚相手・高澤と姉の遺児である大樹と美樹のもとを訪れる。
しかしその日、引きこもり状態だった大樹が自室で死亡する。
部屋は内側から目張りされ、中で練炭が炊かれていた・・・
すごく理詰めで構成された密室トリックなんだけど
普通の家ではムリっぽい気がするんだよなあ。
それよりは、自らも更生しようとあがきながらも、
甥姪のことを気遣う会田くんがいい人過ぎて泣ける。

「歪んだ箱」
高校教師・杉崎は結婚を控えており、マイホームを建てた。
しかし頼んだ工務店の社長・竹本は悪徳業者だった。
手抜き工事の結果、床は傾き天井からは雨漏り、ドアは閉まらない。
無料での補修を断り、逆に脅迫してくる竹本を杉崎は殺してしまう。
そしてその死体は、杉崎の新築の家のリビングで発見されるが
そこは建物の歪みのために出入り不可能な部屋になっていた。
いやあこのトリックは面白すぎる。
実際の犯行の様子を想像してみると立派なバカミスなんだが
そういうネタでも堂々と書き切ってしまうところがスゴいんだろうな。

「密室劇場」
アンソロジーで既読。
劇団『土性骨』の上演中、舞台横の楽屋で殺人事件が起こる。
現場の出入り口はロビーの売店側と舞台側の2カ所のみ。
売店側の出口は衆人環視の中にあり、出入りした者は皆無。
もう片方の舞台では劇が上演中だった・・・
この短編だけ作者が違うんじゃないかってくらい雰囲気が違う。
ふざけた芸名ばかりのアングラ劇団を舞台にした
ドタバタユーモアミステリになってる。
そして、このトリックは盲点だなあ。
でも、案外成功してしまうんじゃないかって思わせる。
そういう風に書けるところがうまいんだろうな。


弁護士って賢い人のはずなんだが、本書で登場する青砥純子さんは
密室についてのトンチンカンな謎解きを披露する "ボケ" 担当。
榎本がそこに冷静なツッコミを入れるというのがお約束の展開。

本シリーズは大野智&戸田恵梨香でドラマ化されたみたいだね。
戸田恵梨香の青砥純子は私のイメージに近いけど
クールな榎本役に大野君はちょっと合わないかなあ・・・

榎本は本職は泥棒じゃないかって疑いまである曲者キャラだからねえ。
大野君ご本人には恨みはないんだが(タレントとしては好きなんだよ)。
ああ、「密室劇場」に登場する榎本だけは、大野君でもOKだと思う。

wikiによるとドラマ自体はけっこう評判が良かったみたい。
原作が溜まれば、またドラマ化されるのかな?

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第四章 天命編 を観てきました その2 & ディスク到着 [アニメーション]


※本編のネタバレはありません。

今日、第四章2回目の鑑賞でございます。

場所は再び新宿ピカデリー。
さすがに早起きは辛いのでのんびりと行きました。

しかし新宿駅を出て映画館へ向かう途中、
わずかな段差(たぶん3~4cm)のところで派手に転んでしまいました。
横にいたかみさんもびっくり。
「どーしたの、いったい?」それは私が聞きたい。
なんでこんなところで転んだのだろう。いや、転べるんだろう・・・?

今日の11時ちょっと前頃、新ピカ近くの路上で
派手に転んだオッサンを見かけた方へ。それはワタシです(^^;)。

さて、映画館の中はそれなりの人出。
3mヤマトとアンドロメダの回りにも写真を撮る人が多数。
でも、先週みたいに芋を洗うような状態でもなく
売店も普通に商品を見て回れました。
しかしながら、かなりの物品は売り切れ。補充もされてなさそう。
クリアファイルは全滅じゃないかなぁ。

とりあえずパンフレットを買ったんだけど、
かみさんがボールペンも欲しいというのでそれも購入。

11:30の回と13:50の回を観たのだけど、
あとの方が人は多かったかなあ。
終わって出てきたらロビーがいっぱいで売店にも列ができていた。
先に買っておいて正解だったね。

終わったあと紀伊國屋でちょっと買い物をして帰宅。
家についたらBDディスク宅配の不在通知があったんだけど
電話をしたらすぐに再配達してくれました。

さて、今日の戦利品。まずはパンフレット。ひととおり見たけど
発行が遅れた理由は分からんかった。誰か知ってる人いるのかな。

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それからボールペン。でもこれ、
公式サイト見たら第一章の物販だったんだね。

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それから第二週入場者特典。
デスラー&桂木透子&新造戦艦艦橋(『さらば』)
第四章で第11話はデスラー回、第12話はサーベラー回だったからね。

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それから、到着したディスク。
中身はこんな感じ。絵コンテもシナリオも第14話。
永倉さん、「2202」ではいいキャラになったねえ。出番も多いし。

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こちらは裏面。ディスクスリーブの裏面はノイ・デウスーラと
ゴーランド艦with破滅ミサイル。

2202-4o.jpg
さて、第三週の入場者特典も欲しいんだけどちょっと難しいかなあ。
10日は飲み会も入ってるしなぁ。

でも第三週で島とテレサの組み合わせって何か意味があるのだろうか。
「2202」では二人のロマンスはなさそう。っていうかこの二人、
言葉を交わすことさえ無さそうな気がするのは私だけじゃないだろう。
うーん、島クンに春が来る日はあるのだろうか・・・

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小鳥を愛した容疑者 [読書・ミステリ]


小鳥を愛した容疑者 (講談社文庫)

小鳥を愛した容疑者 (講談社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

須藤友三(ともぞう)は警視庁捜査一課所属の警部補だったが
殺人事件の捜査中、銃撃を受け頭部を負傷してしまう。
一命は取りとめたものの医師から現場復帰を止められる。

その須藤に与えられたポストは総務部総務課動植物管理係。
飼い主(容疑者)が逮捕されたり逃走したりして、
とり残されてしまったペットを保護する仕事である。
相棒となったのは新米巡査で動物オタクの薄圭子(うすき・けいこ)。

このコンビが、現場に残されたペットから
意外な真実を引き出して事件を解決していく、
ドラマ化もされた<警視庁いきもの係>シリーズの第1巻。


「小鳥を愛した容疑者」
隅田川で見つかった絞殺死体。
操作線上に浮かんだのはウェブデザイナーの八木。
しかし八木はスピード違反で白バイに追われて事故を起こし、
意識不明の重体となっていた。
八木が住むマンションに向かった須藤と薄が見たのは、
100羽にもおよぶジュウシマツだった。
鳥たちの世話をしていた薄は、須藤に
「八木は犯人です」と告げるのだった・・・

「ヘビを愛した容疑者」
千葉の海岸で死体で見つかった男・山脇。
死因は付近の崖からの転落と思われた。
しかし、死亡推定日の2日後に、彼のマンションへ
山脇本人が入っていったとの目撃情報があった。
山脇のマンションへ向かった須藤と薄が出会ったのは2匹のヘビ。
残された遺品から、山脇には趣味(ヘビの飼育)を同じくする
"ヘビ友" (笑)がいたはずだと薄は言い出すが・・・
どうもヘビのイメージが強烈すぎて忘れてしまいそうになるが
ラスト近くの台詞一つで、これが本格ミステリだと言うことを
思い出させてくれる。ちなみに、
作中でヘビに与える飼育用のエサのことが出てくるんだが・・・
いやあ、私は "この手" の人とは永遠にわかりあえないと思う(笑)。

「カメを愛した容疑者」
弁護士・杉浦次郎が失踪する。
しかし次郎の兄・一男は真剣に取り合おうとしない。
一男の態度から誘拐を疑った関係者が警察へ相談してきた。
須藤と薄は、次郎の残したカメの世話をするという名目で
次郎邸を訪れる。邸内で発見したのは、
生きている巨大なケヅメリクガメ1匹と、
壁に掛かったケヅメリクガメの甲羅。
どうやら杉浦家では30年ほど前に、もう1匹カメを飼っていたらしい。
残されたカメの写真を見ているうちに、
薄は次郎失踪の謎が解けたと言い出す・・・
カメ愛に溺れて馬脚を現す犯人とか、どんだけペット好きなんだか。

「フクロウを愛した容疑者」
会計士・藤田の隣家の住人・渋谷が自宅書斎で撲殺される。
容疑者筆頭となった藤田は、
飼っているフクロウのことで渋谷と諍いがあった。
しかし犯行現場で見つかった鳥の羽の写真を見て
薄はそれが藤田の飼っているモリフクロウのものではなく、
ワシミミズクのものだと気づく・・・


薄のもつ知識はまさに底なしで、生物学的なものはもちろん、
ペットショップや動物病院の所在まで把握していて
それを糸口に事件解明に向けて突っ走っていく。
手綱を握る役の須藤は大変だ。
しかしその彼女の奮闘が事件に隠された意外な真相を突き止める。

とにかく動物を目の前にするとギアが切り替わってしまって
素っ頓狂な振る舞いをおっぱじめる面白いお嬢さんに
常識人のオジサン警部補が振り回されていく、
という楽しいユーモアミステリ。映像化したくなるのも分かるかな。

残念ながらドラマは未見なのだが、wikiによると
薄圭子は "奇跡の一枚" の橋本環奈さんが演じていたそうな。
当時環奈さんは18歳だったんだが、薄圭子は
実年齢(原作では26歳、ドラマ版では22歳)よりも
若く見えるという設定なので、まあいいかな。
制服姿の彼女が街を歩くとみんな「コスプレ?」って聞いてくるのが
お約束の展開なので、ある意味ピッタリ(笑)。
もっとも、実際のドラマの視聴率は今ひとつだったみたいだけど(笑)。

このシリーズはいまのところ第4巻まで刊行されている。
文庫されている分は手元にあるので近々読む予定。 

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リプレイ2.14 [読書・ファンタジー]


リプレイ2.14 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

リプレイ2.14 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/09/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

ヒロイン浅野奈海は農学部の大学院生。
2月14日の朝、奈海はバレンタインチョコを持って家を出る。
彼女が思いを寄せる相手は、高校の頃からの同級生で
いまは同じゼミに在籍している本田宗輔。

長い時間を共に過ごしてきたが、告白する勇気がもてず、
奈海にとっては片想いな状態が続いていた。
この日、奈海は意を決して彼にチョコを渡すべく大学へ向かうが、
研究室で彼女が発見したのは宗輔の死体だった。

茫然自失する奈海の前に現れたのは "死神" だと名乗る青年クロト。
「過去に戻って愛する者を救う機会を与えよう」

彼女は12時間前の過去に戻り、本田の死因を突き止め、
彼を救い出すことを決意する。
しかしそれにはいくつかの制約があった。

例えば、いきなり宗輔のもとへ押しかけ、
一晩中研究室の中で一緒にいるとかの、過去の言動の流れから
大きく逸脱するような不自然な行動はとれない。
(実際、行動しようと思っても体が動かなくなる)
彼女がとれる行動には限界があるわけだ。

もう一つは、"うまくいかなかった" 場合はやり直しができるのだが、
その回数には「10回まで」という制限があること。

これだけならタイムトラベルSFの一変形なのだが、
さらに事態をややこしくするのは、
宗輔が密かに "惚れ薬" を開発していたこと。これを飲むと、
目の前にいる相手に好意を抱いてしまうというシロモノだ。

 作中ではその作用機序について、もっともらしく理屈づけられている。
 そのあたり、作者は薬学の研究者だからお手のものでしょう。

そして、奈海ちゃんにとってショックなことに
宗輔がその薬を使おうとしていた相手は奈海ではない(!)という。
さらに、完成したその "惚れ薬" が何者かによって
研究室から盗まれていたことも判明する。

基本的には奈海さんの恋の行方を巡る、ファンタジックな
ラブコメなんだが、そこに "惚れ薬" が絡むことで
ミステリ要素がぐっと高まる。

宗輔は何故死んだのか?
宗輔が惚れ薬を使おうとしていた相手は誰か?
その惚れ薬を盗んだのは誰か?
そして奈海は宗輔の命を救うことができるのか?


宗輔の姉とか、奈海の同級生たちとか後輩たちとか
この二人を取り巻く人々も個性派揃いで、
彼らの間の恋愛模様までも織り込んでドタバタ劇が進行する。

ユニークなキャラが多い中で、この作品いちばんの魅力は
やっぱりヒロインの奈海ちゃんだと思う。

奈海は、宗輔の命を救おうと涙ぐましい努力を続ける。
その相手は、自分以外の誰かを好きになっているらしいのに。

そして、彼女が求めるのは宗輔の命だけではない。

一人の運命を変えることによって、他の部分に影響が出てくる。
宗輔の命を救うことによって、他の人の運命が変わり、
新たに不幸を被ることになる者も出てくるのだ。

だから、何回もやり直す。
彼女が目指すのは、みんなが幸福になる未来。
たとえ彼女自身の思いが報われなくても。

いやあ、なんて健気な女の子だろう。
こんな人こそ幸せにならなきゃ嘘だろう。
そんな彼女のひたむきさがページをめくらせる。

何せ10回も繰り返されるので、様々なパターンの結末が訪れる。
終盤になると、なんとなくオチが見えてくる人もいるだろう。

そして本書を読む人は、その予想が当たっても外れても、
ラストでは思わずほほが緩んでしまうのではないかなぁ。

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