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神様の裏の顔 [読書・ミステリ]


神様の裏の顔 (角川文庫)

神様の裏の顔 (角川文庫)

  • 作者: 藤崎 翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

生涯にわたり、中学校の教師として理想の教育を追い求めた藤井誠造。
定年退職後も恵まれない子供たちを支援するNPOに参加し、
さらには自分の家の広い庭に退職金を元手にアパートを建設、
赤字すれすれの安い家賃で提供するなど
周囲の誰からも尊敬され、感謝される人であった。

「神様のような人」
そんなふうにまで評された誠造が逝去し、しめやかに通夜が行われる。

彼の人生に関わった様々な人々が参列し、「神様」との思い出を振り返る。
教え子の斎木直光、元同僚の根岸義法(よしのり)、
誠造の隣家の主婦・香村広子、
教え子でかつ誠造のアパートの店子である鮎川茉希(まき)。
同じく店子である売れないお笑い芸人・寺島悠。
喪主は誠造の娘で小学校教師の晴美、そしてその妹・友美。

誠造の遺影を見ながら思い出される "記憶"。
しかしその中には不審な事件が続発していた。
斎木の同級生の投身自殺、根岸の息子の交通事故、
広子の夫が命を落とした事故は通り魔殺人が疑われ、
茉希の部屋では盗聴器が見つかり、
そして晴美の教え子が受けた暴行事件・・・

弔問客同士で誠造の思い出を語り合ううちに、
不審な事件は "ある疑惑" へと変貌していく。
すなわち、「神様」と慕われた誠造は、
実は「悪魔」のような凶悪犯罪者だったのではないか?

"探偵役" となるのはお笑い芸人の寺島。
この中ではいちばん誠造との関わりが薄いのだが
そのぶん第三者的な立場から "事件" を見ることができ、
新たな解釈を示していく。

さて、誠造が本当に「神様」だったのか「悪魔」だったのかは
読んでのお楽しみ。
これ以上書くとネタバレになりそうなんだが、
物語は一筋縄ではいかず、二転三転していくことは書いておこう。


この人、すごい才能があると思う。
この作品は普通の小説と異なり、登場人物それぞれの一人称での述懐が
断片的に羅列されていくかたちで進行していくのだけど、
その中で "聖人君子" が "疑惑の人" へと変貌していく過程、
そしてその疑惑が "解明" されていく過程、
さらにラストの "驚き" までが不自然さのない流れで示されていく。
この構成力はホントたいしたもの。

デビュー作でこれだけのものを書ききってしまうんだから只者ではない。
作者は元お笑い芸人(ネタ担当)で、
しかもコントネタを得意としていたそうなので
それが生かされているのかも知れない。
あちこちにくすりと笑わせる描写が挟まれるのも "芸風" か(笑)。

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