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水底の棘 法医昆虫学捜査官 [読書・ミステリ]


水底の棘 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

水底の棘 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「法医昆虫学とは法医学・科学捜査の一分野であり、
 死体を摂食するハエなどの昆虫が、
 人間の死体の上に形成する生物群集の構成や、
 構成種の発育段階、摂食活動が行われている部位などから、
 死後の経過時間や死因などを推定する学問のことである。」

上の文はwikiからの引用。
しっかり項目があるくらいだからちゃんとした学問なんだが
アメリカが先進的で裁判の証拠にもなるくらい信頼性があるみたい。
翻って日本ではまだまだ発展途上の分野らしい。

本シリーズの主人公・赤堀涼子は、
そんな日本で法医昆虫学を確立させるべく、
日夜捕虫網を振り回して研究に没頭する博士号を持つ昆虫学者。
ちなみに36歳独身、小柄で童顔(笑)。

第三作となる本書では、
涼子自身が死体の第一発見者となるところから始まる。


大量に発生したユスリカの駆除に協力するため、
東京湾の荒川河口近くの河川敷にやってきた涼子。
そこの中州で見つけたのは男の死体。
死んでかなり時間が経ったらしくウジや動物に食い荒らされていた。

解剖の所見では絞殺された後、川に捨てられて
河口に流れ着いたと思われたが
涼子は殺害現場について全く異なる見解を示す。

彼女とタッグを組むのは岩楯祐也警部補。
最初は捜査本部で持て余されていた涼子のお守り役を押しつけられて
いやいや相手をしていたのだが、
やがて涼子の示す知見に一目置くようになり、
いまでは協力して捜査に当たるようになっている。

被害者の身元特定の手がかりは、所持していた特殊なドライバー、
そして腕にあった入れ墨の痕跡らしきもののみ。

昆虫オタクが白衣を着て歩いているような涼子、
彼女に全面的な信頼を寄せ、地道な捜査を続ける岩楯。

乏しい物証から身元確認は難航するが、
涼子と岩楯はお互いがつかんだ情報を交換しながら真実に迫っていく。
二人で一組の探偵役と言えるだろう。

この二人以外にも、
何かあると猛烈にノートに書き込むメモ魔の刑事・鰐川宗吾、
解剖所見で涼子と真っ向から対立するエリート解剖医・九条和人、
その助手で密かに涼子に協力する石黒由美など、サブキャラも多彩。


前2作もそうだが、このシリーズは
事件 → 容疑者 → 捜査 → 手がかり → 犯人逮捕 という
いわゆるミステリの定型からは逸脱している。

本作においては、被害者の身元と犯行現場がまずわからない。
そして物語の終盤近くまで、この2つの探索行で占められているのだ。
でも、この過程をけっこう面白く読ませる。
キャラの魅力もあるし、昆虫の生態関係の蘊蓄も興味深いし、
刑事たちが足で稼ぐ捜査ぶりもいい。
そして、この2つが判明した時点で、犯人はもうすぐそこにいるのだ。

前2作ではラスト近くで突然、命がけのサスペンス劇になるんだが
本作もまた然り。誰がどんな危機に陥るかは読んでのお楽しみ。

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