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忘れ物が届きます [読書・ミステリ]


忘れ物が届きます (光文社文庫)

忘れ物が届きます (光文社文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

"記憶" をテーマにした短編集。とはいっても
各編それぞれ独立していて共通な登場人物とかは存在しない。

タイトルにある「忘れ物」とは、過去の記憶を掘り起こし、
そこに新たな解釈が施されたときに明らかになる
"真実" のことを指しているのだろう。

「沙羅の実」
主人公の小日向弘司(こひなた・ひろし)は不動産会社の営業マン。
顧客宅を訪問したところ、そこの主である森は元小学校の教員で
小学生時代の弘司のことを覚えているという。
昔話を語り合ううちに、話題は20年前の事件のことに移っていく。
当時6年生だった弘司は、謎の手紙におびき出されて行方不明になり、
翌日の朝に河川敷の物置小屋で見つかったのだ。
そしてこの拉致事件があった夜、弘司の同級生・佐々木の父親が
不審な事故死を遂げていたのだ・・・
森が語る事件の "真相" で決着がつくかと思いきや、
さらにそのあとにもうひと捻り。

「君の歌」
高校の卒業式を終えた芳樹は、下校の途中で同級生の高崎に出会う。
高崎は芳樹に対して、なぜか3年前に彼の母校である中学校で起こった
ある "事件" について語り出す。
当時3年生だった女生徒が友人のメモで美術準備室に呼び出され、
そこで何者かに襲われて怪我をしたのだ。
犯人として疑われたのは3人組の不良生徒たち。
彼らは犯行を否定するが、3人組以外に
現場に出入りできる者はいなかったのだ。
密室状態からの犯人消失の謎を "解き明かす" 芳樹なのだが、
そもそも高崎は、なぜ出身中学校の異なる芳樹に対して
この事件の話をしたのか?
最後に明かされる意外な事実もそこに絡んでくる。

「雪の糸」
喫茶店の語り合うカップル、祥吾と晴香(はるか)は、
1年半にわたる同棲生活を解消して別れることを決めたところ。
二人は半年前の春の思い出話をしていたが
やがて祥吾は花見の夜、職場の先輩・谷本からの
不可解な頼み事を思い出す・・・
二人の会話を聞いていた店員・比呂美がその謎を解き明かす。
谷本の抱えた意外な事情に驚くと同時にちょっと同情。

「おとなりの」
住宅街・桂ヶ丘に暮らす小島邦夫。
近所の床屋の主人・立川と話をしているうちに
話題は10年前の事件になった。
同じ住宅街で侵入強盗があり、その家では人が一人亡くなっていた。
そして立川は、事件のあった日の昼、
邦夫の長男・准一(当時は高校生)の姿を見かけたのだという。
現場にはレンタルショップの会員証が落ちていて、
それが準一のものだったことから、警察から容疑者扱いされたが、
邦夫の隣家の奥さんがアリバイを証言してくれて事なきを得ていた。
准一は実は犯人だったのか?
もしそうなら隣家の奥さんはなぜ偽証したのか?
高校生にもなれば、男の子は親父と話なんかしないよねぇ、
とか自分のことを思い出しながら読んだよ。

「野バラの庭へ」
ヒロイン・中根香留(かおる)は企画会社の新米社員。
彼女は資産家の未亡人・外山志保子に逢うことになる。
73歳の志保子は個人的な回想録の作成を希望していたのだ。
鎌倉の外山邸へ通う香留は、志保子の記憶を書き留め続ける。
60年前の昭和30年、志保子は不思議な人間消失事件に遭遇していた。
当時23歳だった志保子の兄・宗太郎は、
21歳の女子大生・神坂統子(こうさか・とうこ)に恋していた。
実業家だった双方の家も政略結婚として歓迎し、
二人の縁談を進めようとしていた。しかし結納も近づいたある日、
鎌倉の家で開かれたパーティー会場から統子は姿を消し、
そのまま失踪してしまったのだった。
建物の出入り口は衆人環視の中にあり、統子の姿を目撃した者はいない。
いくたびか志保子のもとへ足を運んで話を聞き、
まもなく記録が終わろうという頃。
香留は志保子が亡くなったという知らせを受ける・・・
このあと、"事件" の様相を一変させる展開があり、
密室状態の屋敷からの人間消失の謎解きがあり、
60年の時を超えて現れる "真犯人"、
そして迎える "解決" まで一気に進む。
充分に長編のネタにもなりそうなんだけど、
出し惜しみしないで注ぎ込んでくる。

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