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静かな炎天 [読書・ミステリ]


静かな炎天 (文春文庫)

静かな炎天 (文春文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/08/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

前作「さよならの手口」に続く、
女探偵・葉村晶(はむら・あきら)の活躍を描くシリーズ。
調布のシェアハウスに住み、書店のアルバイト店員をしながら
本職の探偵業に勤しんでいる。
そんな彼女が巻き込まれた事件を描いた6編を収録している。

「青い影 七月」
出勤途中の葉村は、交差点での事故に遭遇する。
停車中のバスを含む車列にダンプカーが突っ込んだのだ。
混乱する現場の中、彼女は事故車の中から
ハンドバックを盗んで逃走する女を目撃する。
数日後、警察に呼び出された葉村は、
事故で娘を亡くした門脇という女性に引き合わせられる。
彼女の娘が持っていたはずのハンドバッグが見つからないという・・・

「静かな炎天 八月」
ひき逃げで依頼人の息子に重傷を負わせた男・袋田の
素行調査を請け負う葉村。しかし調査を始めた直後に
袋田が飲酒運転するところを録画に成功。
続けて入った依頼は、音信不通の従姉妹の探索。
ところがこれもたちまち解決。
続けざまにどんどん入ってくる依頼に、
ふと不審なものを感じる葉村だが。
脈絡のない事件の連続のように見えて、実は・・・
いやあこれはよくできてる。

「熱海ブライトン・ロック 九月」
大人気作家・設楽創(したら・そう)が23歳の若さで失踪して35年。
最近になって復刊が相次ぎ、再評価されるようになってきた。
葉村は、設楽創特集を組むことになった雑誌の編集者から
失踪の謎を調査することを依頼される。
手がかりは失踪直前の設楽の日記に残された5人の名前のみ。

「副島さんは言っている 十月」
書店でバイト中の葉村にかかってきた電話は、
かつて所属していた探偵事務所時代の同僚・村木。
大至急、ホシノクルミなる女の子とを調べて欲しいという。
返事をする前に電話は切れたがその直後、
星野久留美という女性が殺されたとのニュースが流れる・・・
本作で一番のドタバタコメディ。

「血の凶作 十一月」
三鷹のアパートが火事になり、焼死体で発見された男・"角田"。
しかし彼の戸籍謄本は、人気作家・角田のものだった。
作家の角田から、15年にわたって他人の戸籍を使っていた
"角田" の正体を探るよう依頼された葉村だが。
コミカルな展開から、ラストはちょっとしんみり。

「聖夜プラス1 十二月」
葉山の働く書店では、クリスマスの深夜に
ミステリ本のオークションを開催する。
今年の目玉となるのは、元外交官・園田が所有する
ギャビン・ライアルの『深夜プラス1』原書初版サイン本。
本を引き取るために葉村は園田邸へ向かうことになるが
連絡の手違いにより、都内を転々と引き回される。
さらには行く先々で届け物を言付かったりと
なかなか帰り着くことができない。
オークション開始時間は刻々と迫ってくるが・・・


物語が進行するにつれてどんどん難題が発生し、
雪だるま式に自体が複雑化していくが、あることがきっかけで
それらが雪崩式に綺麗さっぱり解決してしまう・・・という構成を、
とっても達者に書き切ってしまうのが若竹七海さん。
「静かな-」「副島さん-」「聖夜-」の3編はそれが顕著。
とくに表題になっている「静かな-」は傑作だ。

サザエさん時空と異なり、葉村晶は時代とともにしっかり年をとる。
初登場時に20代だった彼女も本書では40代。
四捨五入すればおそらく半世紀になろうと思われる。
「怪我の治りは遅くなり」「走れば膝を痛め」「腹筋すれば腹がつる」
さらには四十肩にまで悩まされるなんて、どうにも笑えない独白が続く。
私も寄る年波で同じような身体の変調を抱えているし、
10年程前には肩を痛めて塗炭の苦しみを味わったりもしたので
とても他人事に思えない。

口を開けばぼやきと愚痴ばかりなんだが、
それでも、くじけずに前向きに生きている。
身の不運をブツブツ呟きながら調査に勤しむ様子には
そこはかとないユーモアも感じられる。
前作のように命の危険を感じるような羽目にはならなくても、
犯人に殴られて気を失うこともあったりして
波瀾万丈な人生は相変わらずだ。
退屈とはほど遠い人生なのも間違いないが・・・

人並みな幸せをつかんで平穏な生活に入って欲しいなあという
気持ちもあるんだが本編を読む限り、それはかなり無理っぽい(笑)。
やっぱり彼女は事件の中でこそ輝くのだろう。
続巻を願うと言うことはとりもなおさず、
彼女のさらなる受難を願うということなんだが・・・(笑)

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