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リプレイ2.14 [読書・ファンタジー]


リプレイ2.14 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

リプレイ2.14 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/09/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

ヒロイン浅野奈海は農学部の大学院生。
2月14日の朝、奈海はバレンタインチョコを持って家を出る。
彼女が思いを寄せる相手は、高校の頃からの同級生で
いまは同じゼミに在籍している本田宗輔。

長い時間を共に過ごしてきたが、告白する勇気がもてず、
奈海にとっては片想いな状態が続いていた。
この日、奈海は意を決して彼にチョコを渡すべく大学へ向かうが、
研究室で彼女が発見したのは宗輔の死体だった。

茫然自失する奈海の前に現れたのは "死神" だと名乗る青年クロト。
「過去に戻って愛する者を救う機会を与えよう」

彼女は12時間前の過去に戻り、本田の死因を突き止め、
彼を救い出すことを決意する。
しかしそれにはいくつかの制約があった。

例えば、いきなり宗輔のもとへ押しかけ、
一晩中研究室の中で一緒にいるとかの、過去の言動の流れから
大きく逸脱するような不自然な行動はとれない。
(実際、行動しようと思っても体が動かなくなる)
彼女がとれる行動には限界があるわけだ。

もう一つは、"うまくいかなかった" 場合はやり直しができるのだが、
その回数には「10回まで」という制限があること。

これだけならタイムトラベルSFの一変形なのだが、
さらに事態をややこしくするのは、
宗輔が密かに "惚れ薬" を開発していたこと。これを飲むと、
目の前にいる相手に好意を抱いてしまうというシロモノだ。

 作中ではその作用機序について、もっともらしく理屈づけられている。
 そのあたり、作者は薬学の研究者だからお手のものでしょう。

そして、奈海ちゃんにとってショックなことに
宗輔がその薬を使おうとしていた相手は奈海ではない(!)という。
さらに、完成したその "惚れ薬" が何者かによって
研究室から盗まれていたことも判明する。

基本的には奈海さんの恋の行方を巡る、ファンタジックな
ラブコメなんだが、そこに "惚れ薬" が絡むことで
ミステリ要素がぐっと高まる。

宗輔は何故死んだのか?
宗輔が惚れ薬を使おうとしていた相手は誰か?
その惚れ薬を盗んだのは誰か?
そして奈海は宗輔の命を救うことができるのか?


宗輔の姉とか、奈海の同級生たちとか後輩たちとか
この二人を取り巻く人々も個性派揃いで、
彼らの間の恋愛模様までも織り込んでドタバタ劇が進行する。

ユニークなキャラが多い中で、この作品いちばんの魅力は
やっぱりヒロインの奈海ちゃんだと思う。

奈海は、宗輔の命を救おうと涙ぐましい努力を続ける。
その相手は、自分以外の誰かを好きになっているらしいのに。

そして、彼女が求めるのは宗輔の命だけではない。

一人の運命を変えることによって、他の部分に影響が出てくる。
宗輔の命を救うことによって、他の人の運命が変わり、
新たに不幸を被ることになる者も出てくるのだ。

だから、何回もやり直す。
彼女が目指すのは、みんなが幸福になる未来。
たとえ彼女自身の思いが報われなくても。

いやあ、なんて健気な女の子だろう。
こんな人こそ幸せにならなきゃ嘘だろう。
そんな彼女のひたむきさがページをめくらせる。

何せ10回も繰り返されるので、様々なパターンの結末が訪れる。
終盤になると、なんとなくオチが見えてくる人もいるだろう。

そして本書を読む人は、その予想が当たっても外れても、
ラストでは思わずほほが緩んでしまうのではないかなぁ。

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