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三年坂 火の夢 [読書・ミステリ]


三年坂 火の夢 (講談社文庫)

三年坂 火の夢 (講談社文庫)

  • 作者: 早瀬 乱
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

第52回(平成18年)江戸川乱歩賞受賞作。

文庫で470ページくらいあって、従来の乱歩賞よりちょっと厚みが。
応募原稿の枚数ってどれくらいなのかなあと思って調べたら
現行の上限は400字詰め原稿用紙で550枚。
うーん、どう考えても本書は600枚以上あるような気がするのだが。
10年前はもっと上限が緩かったのか、受賞後加筆したのか。

閑話休題。

変わったタイトルだけど、目次を見ると合点がいく。
「三年坂」という章と「火の夢」という章が交互に並び、
それぞれ異なるストーリーが語られていく。
そして終章が「三年坂 火の夢」というタイトルで、
ここに来て二つの物語は合流し、
ミステリ的謎解きが行われて物語の全貌が明らかになる。

主な舞台となるのは明治33~34年の東京である。

「三年坂」のパートは奈良県に始まる。
内村実之(さねゆき)という旧制中学の3年生が主人公。
兄の義之は成績優秀で旧制一高から東京帝大へ進んだが、
実之の成績は今ひとつ。両親が離縁し、女手ひとつで育てられたが
家計は苦しく、学費の問題もあって進学は難しい。

しかしそんなとき、兄・義之が帝大を中退して帰郷してくる。
しかも腹部に傷を負って。まもなくその怪我が悪化して
義之は他界してしまうのだが、いまわの際に謎の言葉を残す。
「実は三年坂で転んでね・・・」
さらに実之は祖母から意外な話を聞く。
数年前、音信不通だった父が突然現れ、大金を置いていったという。
そしてその金が義之の学費になったのだと。

兄の死の真相、そして失踪した父の手がかりをつかむべく
実之は学友から金を借りて上京する。
いちおう一高を受験するつもりもあった実之だが、
バカ高い下宿に入れられたり、悪徳予備校に捕まったりと
さんざんな目に遭い、受験勉強もままならない。
兄の残した「三年坂」という謎の言葉の意味、
そして父の消息もまた杳として知れないが・・・

「火の夢」のパートはイギリス帰りの予備校講師、
高嶋鍍金(めっき)が主人公。変わった名前だなあと思ったら、
「鍍金」というのは号で本名は別にあるらしい。
彼は本書での探偵役で、同じ時代を舞台にした他の作品にも
出ているらしいので、いわゆるシリーズキャラクターなのだろう。

彼は同僚である予備校講師・立原総一郎から意外な話を聞く。
明治13年から翌年にかけて、東京を襲った4つの大火事。
その裏には、"東京を焼き尽くす" という陰謀があったという。
東京の町並みには、いくつかの "発火点" があり、
そこから火事を起こせば東京全域を灰燼に帰すことが可能なのだと。
そしてまた過去の大火の折には、人力車夫の格好をした男が
あちこちに火を着けて廻っていたという "伝説" が語られていた。
高嶋は立原とともに "発火点" の探索を始めるが・・・


本書の評価は、冒頭に掲げた星の通りなのだけど今ひとつ。
とにかく読んでいてあまりわくわくしないんだなあ。
とくに実之くんがあまりにも頼りなくて。
田舎から来たお上りさんで、初めての大都会に翻弄されてるのはわかるが
「三年坂の探索」と「受験勉強」の両立はどう考えても無理だろう。

読んでるとじれったくなってしまって、胸ぐらつかんで
「まずは勉強に集中して、調べごとは大学に入ってからやれよ!」
って、こんこんと説教したくなってしまう(笑)。

実之が勉強をほっぽり出してまで取り組んでる "探索行” も
ビックリするような展開には乏しい。

これはストーリー全体にも言えて、
先を読みたくなるような盛り上がりを欠いたまま
淡々と進行して終章の謎解きに入る。

探偵役の高嶋鍍金にしても、印象的なのは名前だけで
他の登場人物と比べてもさほど目立ってない気がする。
だって読み終わったあと、どんな人だったか
説明できる自信がない(笑)んだもの。
(まあ私の記憶力にも問題があるのは否定しないが)
シリーズものの名探偵にするのなら、もう少し強烈な個性が欲しいところ。

作者が明治時代の東京の風俗や地理にとっても詳しいのはよく分かる。
実際、よく調べたなあとは思う。
でも、その博識が面白さにはつながってないような気が。
実之の探索範囲に合わせて、所々に当時の地図が挿入されるんだけど、
その地図のどこが大事で、どこに注目していいのかがよくわからない。
作者にはよく分かってるんだろうけど。

作品を産み出すための努力は凄いんだけど、
それがうまく活かされてない気がして、もったいないなぁと思う。

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