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神津恭介への挑戦 [読書・ミステリ]


神津恭介への挑戦 (光文社文庫)

神津恭介への挑戦 (光文社文庫)

  • 作者: 高木 彬光
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/03/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

高木彬光を読んでたのは高校から大学生のはじめくらいかなあ。
怪人二十面相にハマり、ホームズ、ルパンとお決まりの小学校時代を送り
中学校から創元推理文庫に手を出したもののお堅い翻訳文に四苦八苦、
続けて横溝正史にシビれて、その次あたりだったかな。

名探偵・神津恭介もよかったけれど霧島三郎検事も大好きだった。
弁護士・百谷泉一郎も近松茂道検事もよかった。
墨野隴人シリーズはかなり後になって読んだけど、これも楽しめた。

ご本人は病を得たこともあって、綾辻行人のデビュー(1987年)と
前後したあたりで引退宣言をしたと
記憶してるんだけど、wikiを見たらその後も何作か発表してる。

本書もその中の一冊で、91年から94年にかけて発表された
神津恭介の「平成三部作」にして "最終三部作" の第一弾。

神津恭介の相棒といえば推理作家・松下研三だったんだが
さすがにワトソン役を務めるにはいささか高齢になったせいか
この三部作では美貌の若き新聞記者・清水香織嬢がメインを張る。


朝の通勤ラッシュを迎えたJR山手線。
吊り輪に掴まっていた男が突然倒れ込み、絶命する。
乗り合わせていた東洋新聞社会部記者・山下誠一は
男の口からアーモンド臭がしていたことを警察に告げる。
どうやら青酸による毒殺らしい。

死んだ男は福島康夫、銀行員で28歳。
原島陽子というOLと同棲していた。
福島は勤務先の銀行から3000万円を横領していたことがわかり、
それを苦にしての自殺かとも思われたが
原島陽子から意外な情報がもたらされる。

彼女のもとへ "福島の友人の三崎哲也" と名乗る男から電話があり
「福島は殺された。城山も殺された。次は俺の番だ」と語ったという。
3人は大学のテニスサークル時代からの友人だった。

山下は新人記者・清水香織とコンビを組み、事件を追うことになる。
二人で城山健治の勤務する家電メーカーに取材をかけるが
城山は京都へ旅行に行ったきり帰ってこず、無断欠勤を続けていた。
そして香織の調査で、滞在先の京都のホテルから
失踪していたことが判明する。

調査を続ける二人は、福島・城山・三崎の3人が
過去にある犯罪に手を染めていたことを知る。
一連の事件はその被害者による復讐なのか。

そんな中、三崎が衆人環視の中、マンションの一室から
姿を消すという事件が発生する。

真相解明に行き詰まった香織は、
1年前のパーティで一度だけ会ったことのある
往年の名探偵・神津恭介を思い出し、作家の松下研三に仲介を依頼する。
恭介は自ら "懶惰(らんだ)の城" と呼ぶ伊豆の別荘に引きこもり、
悠々自適の研究生活をしていた。

香織の前に姿を見せた恭介は、報道によって事件の概要を知り、
既に真相にも到達しているようだったが、
静かな生活を壊されることを嫌ったのか
事件解決への出馬を拒むのだった・・・


ヒロインの清水香織嬢は、東洋新聞社社長の娘ながら
親の七光りを嫌い、入社試験を受けて正式に入社、
一人前の新聞記者になるべく奮闘しているという設定。
元気いっぱいなお嬢さんで、彼女の行動力が物語をぐいぐい進ませる。
平成三部作は彼女が主役となって語られていく。

神津恭介の作品を読むのは何年ぶりかなあ。
さすがに「刺青殺人事件」や「人形はなぜ殺される」みたいな
派手な展開はないし、恭介自身の登場シーンも少ないのだけど
なんだかもう出ているだけで嬉しい。


還暦を過ぎても現役を続けたプロレスラー・ジャイアント馬場に対して、
プロレスファンは「もう馬場がリングに立っているだけで嬉しい」
と言ってたそうだが、そんな思いも分かる気がする(笑)。

作者自身も、古希を過ぎてもなお
密室トリックを盛り込んだ本格ミステリ長編に挑むなど、
闘病しながらの執筆とは思えない。もう頭が下がります。

三部作の残り2作も既に読了しているので
近々感想をアップする予定。

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